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研究者夫妻が科学した、ビジネスにも役立つ「幸せなパートナーシップ」

研究者夫妻が科学した、ビジネスにも役立つ「幸せなパートナーシップ」

前野マドカ氏

 人間関係の最小単位であるパートナーシップをうまく回すことが、社会やビジネスでの個人の成長につながるとの指摘は昔から存在する。では、いかにしてパートナーシップを豊かにできるのか。「幸福学」研究の第一人者である夫妻が著した『ニコイチ幸福学』はこの古くて新しい課題に挑んだ。「幸せなパートナーシップ」の科学とは何か。著者のひとりである前野マドカ氏に聞いた。

 ―なぜ夫婦で本書を。
 「私と夫(前野隆司氏)は結婚して26年になりますが、ずっといい関係を築いてきました。私は一人でも幸せでした。でも、パートナーと得る幸せは互いの可能性を伸ばすと知りました。二人で幸せになるための基本は相手が幸せであること。絶えず二人の目標を達成し、二人の間に起きた課題をクリアしていくチャレンジです。一人では想像しなかった課題や目標が次々と現れるので、限りなく成長できる場なんです。でも、ママ友との会話でも、相手にストレスを感じているという悩みをしょっちゅう聞きます。夫婦間の会話量についての研究では、いちばん年下の子が思春期になる頃、夫婦の対話がもっとも減るという結果があります。惹かれて一緒になった二人が、憎み合って別れるのは残念。夫と私が専門としている幸福学で、何かお手伝いをしたいと思いました」

 ―幸福学とは。
 「人の幸せについて明らかにする研究です。心理学をベースに統計的に幸せとは何かを分析する実証的学問分野で、幸せのメカニズムを体系化できれば、幸せな人を増やすことができます。研究の結果、幸せを感じるためには4つの心的因子を高めればいいとわかりました。本書は4つの因子を解説し、因子を生かして、パートナーシップをよりよいものにする具体的な提案をしています。例えば、冷え切った関係を元どおりにするにはどうするか、子育てに協力してくれないパートナーをどう扱うか、裏切りに遭ったときの指針、セックスレスを解決するには、といったよくある問題を取り上げました」

 ―タイトルのニコイチというのは。
 「二人で一つ。パートナーシップを象徴する言葉です。夫婦だけには限りません。恋人どうし、事実婚、同性カップルなど多様なパートナーシップをひっくるめて表現しました。若い人たちが使う言葉です。仲良しの友だちや恋人と自分をセットでニコイチと表現します。かわいいですね。ニコニコの笑顔も連想します。もとは、故障した部品を他の本体から持ってきて補う修理方法を示す言葉と聞きました。足りない部分を他者が補うって、いい関係のパートナーシップのようですよね」

 ―いい関係をつくるコミュニケーションのヒントが詰まっていますが、相手への思いやりを象徴するキーワードが面白かったです。
 「夫と参加した山伏修行で許された、唯一、声に出していい言葉『うけたもう』のことですね。どんな要望も否定せず、『うけたもう』と、いちど受けとめる。あの言葉は人間関係のヒント、ひいては人生の縮図です」

 ―そこから世界平和に話がつながりました。
 「はい。書いているうちに発展しました。人間関係の最小単位であるニコイチの幸せと、世界平和は地続きのはずなんです。人が成熟すると幸せを願う対象が広がる。無限に広がる利他のイメージです。自分が幸せなら満足だった人が、パートナーができれば二人の幸せ、やがては子ども、二人の親族、知人や同僚の幸せを願うようになる。個々人が幸せの輪を広げられたら、きっと世界は平和になるのではないでしょうか」
前野マドカ氏
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。EVOL代表取締役CEO。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。米国留学中に、夫で同研究科教授の前野隆司氏と出会い結婚。専業主婦を経て、夫の勧めで研究員となり、人の幸せを脳科学や心理学の視点から追求する「幸福学」の研究に従事。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』がある。


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