工事が9割完了した新国立競技場、計画通りに進んでいるの?

 日本スポーツ振興センター(JSC)は3日、2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場(東京都新宿区)の工事現場を報道陣に公開した。工事は全体の9割まで終えており、11月末に完成する。

 観客席は五輪時には6万人規模が設置され、車椅子席は約500席。またパラリンピック時には5万8000席で、車椅子席は750席設ける。暑さ対策として、スタジアムには「気流創出ファン」を1階と3階に合計185台設置する。ミスト冷却設備は1階と2階に計8カ所設ける。

 JSCの新国立競技場設置本部の高橋武男総括役は「自然風を取り入れる工夫をしているので、割と涼しい競技場だと感じてもらえる」と述べた。

日刊工業新聞2019年7月4日



起工式の時はこうだった


 2020年開催の東京五輪・パラリンピックに向け、新国立競技場の工事がいよいよ本格化する。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は11日に東京都内の新国立競技場の建設予定地で起工式を開く。完成予定は19年11月末で、工期は36カ月。工期を着実に守り工費を抑えるにはさまざまな取り組みや工夫が必要だ。日本だけではなく世界が注目する大型プロジェクトだけに失敗は許されない。新国立競技場の施工のポイントをみる。
(完成予想図、大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV作成/JSC提供)

屋根工事の効率化カギ


 新国立競技場の建設を巡っては、当初英国の建築家、ザハ・ハディド氏のデザイン案をもとに計画が進んだ。ただ複雑な構造などから総工費が2520億円と膨らんだことで批判が高まり、政府は15年7月に白紙撤回。

 仕切り直しにより15年12月に大成建設、梓設計、建築家の隈研吾氏の事務所からなる共同企業体(大成JV)の提案内容に決定した。総工費は約1490億円と当初より約1000億円抑えている。

 新国立競技場は明治神宮(東京都渋谷区)から皇居に連なる緑豊かな場所に建設される。周囲の景観と調和する「杜(もり)のスタジアム」とし、高さを50メートル以下に抑えたフラットな屋根構造を採用。大屋根や建物外周の軒庇(のきびさし)、建物室内に国産木材を使用し、日本らしい競技場を演出する考えだ。
       


来夏に構造物


 本体工事は11月29日に東京都の建築確認手続きが済み、12月1日に始まった。JSCの池田貴城理事兼新国立競技場設置本部長は「着工してホッとしている。

 着実に工程通り工事が進むように全力で取り組んでいく」と語る。当面は地盤改良工事などを行い、17年夏に構造物の工事に着手する計画だ。

 工事を担当する大成JVは完成期限、コスト、品質、安全、地球環境と周辺環境、セキュリティーに重点を置いて取り組むとして、あらゆる面に配慮する。技術的にはすべての観客席を覆う屋根工事がもっとも難しく、屋根工事をどう効率良く進めるかが、工期順守やコスト抑制で大きなカギを握る。

 屋根はスタンド部分の骨組みに、屋根フレームの片側部分を固定して保持する「片持ち形式」を採用する。長さは約60メートル。類似の構造形式の施工実績はあるが、観客席全体を覆う長さ約60メートルの片持ち形式の実績はなく、新たな挑戦となる。

屋根フレームをユニット化


新国立競技場の完成予想図(JSC提供)

 施工効率化策の一つが屋根フレームのユニット化。地面で組み上げた屋根フレームの鉄骨ユニットを、クレーンで持ち上げてスタンド部分に据え付ける。隣接するユニットを順次接合して屋根を完成させる。

 屋根フレームは全部が組み上がらなくても自立し、スタンドの座席の取り付けやフィールド工事に早期着手が可能。異なる工事を同時にできるようにすることで工期短縮につなげられる。フィールド整備期間を確保するためにも屋根工事の工程管理が重要になる。

 スタンドは鉄骨造を基本としながら鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造を組み合わせて施工する。スタンドのフレームと屋根フレームはシンプルな構造で、楕円(だえん)形のスタジアムのある起点から、時計回りと反時計回りに、同時に施工して施工効率を向上する計画。

 基礎部分はコンクリート部材を工場で製作し、現場で施工効率を向上して省人化や工期短縮を実現していく方針だ。

施工段階で“手戻り”防ぐ


 一方、施工コストを計画内にどのように抑えるかは重要なポイントだ。総工費の高騰が当初計画案の白紙撤回につながっただけに周囲の目も厳しくなる。工事費は見積もり提出時点の実勢価格を反映させている。

 今後、東京五輪関連の工事や都市部の再開発工事が本格化するだけに、労務費や資材費の上昇が予想される。池田理事兼新国立競技場設置本部長は「相当努力していただく」と大成JVに注文をつける。

 大成JVは新国立競技場の設計段階から施工技術を検討。コストを抑制し、効率化できる施工上の工夫を設計にフィードバックしてきた。

 工期遅れやコストアップになる設計変更を少なくするため、設計段階でワークショップなどを開き、各種競技団体の意見を設計に取り入れた。施工段階で可能な限り“手戻り”を防いでいく考えだ。

 労務費や資材費の上昇分をどの程度織り込んだか明かしていないが、相応のコスト削減努力が必要になる。
上空からみた建設地


制振構造を初採用


 今回初めて新国立競技場で採用する構造として、地震対策用の「ソフトファーストストーリー制振構造」がある。地盤に近いスタジアムの下階層を比較的柔らかいフレームとし、オイルダンパーを集中的に設置。小さい地震から大地震まで地震エネルギーを効率良く吸収する。

 免震構造と比べてコストを抑えられ、工期も短縮できる。一方、上層階は斜めに取り付ける梁(はり)とブレースにより剛性を確保する。

 計画段階では紆余(うよ)曲折があった新国立競技場だが、工事が始まった以上、工期までに無事完成させることが重要だ。

 池田理事兼新国立競技場設置本部長は「大成JVとタッグを組んでより良いスタジアムにするよう取り組む。いろいろな人から関心を持ってもらい、愛されるものになってほしい」と五輪後も見すえ、立派な建築物を世に送り出すことを期待する。

大成建設・村田誉之社長「確実な作業、繰り返す」


 大成建設の村田誉之社長はインタビューに応じ、新国立競技場の施工について「一つひとつの作業を確実にやることを繰り返す」と意気込みを語った。
大成建設社長・村田誉之氏


 ―いよいよ新国立競技場の工事が本格化します。
 「ぜひとも工事を手がけたいと思ってきた案件だ。コストや工程、品質などいい仕事ができることを示したい。リーダーには役員がつき、特別チームを組んで通常にはない体制で取り組んでいる。東京五輪・パラリンピックに海外のお客さまが来た時に、日本のスタジアムは素晴らしいと評価していただけるものにしたい」

 ―工期厳守やコスト抑制など難しい課題があります。
 「調達先も含め一緒に仕事をやりたいと、多くの会社から声をかけていただいた。みなさんに協力してもらいオールジャパンでやっていく。設計施工の工事なので、早い段階から現場に手間がかからないように工夫している。屋根とスタンドの施工が(旧計画と比べて)1社になり工程管理がしやすい」
(文=村山茂樹)
※内容・肩書は当時のもの

日刊工業新聞2016年12月9日



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