ワトソンを生んだIBM「機械学習=AIだと混同すると現実を見誤る」

“学び、考えるコンピューター”は何を目指しているのか

 “学び、考えるコンピューター”の先陣を切る米IBMの「ワトソン」。ワトソンが登場したのは2011年。早押しクイズ対決で全米屈指のチャンピオンを破った際は、プロセッサー構成などハードウエア性能に焦点が当たった。最近では、ビッグデータ(大量データ)ブームと相まって、人工知能(AI)の先駆けのように取り上げられることも多い。だが、いずれも正しくない。IBMの研究者は「我々はワトソンをAIとは呼んでいない」と明言する。ワトソンの神髄はソフトウエアであり、日々進化を遂げている。
 
 ワトソンとは大まかにいえば「話し言葉を理解し、学習し、予測するシステム」と定義できる。IBMはこうした世界を「コグニティブ(認識的な)コンピューティング」と呼び、“人間の知能そのものを持つ機械”の実現を目指すAI研究とは一線を画している。
 
 海外では「既存のAIにこだわらなかったからこそ、ワトソンを実用化できた」との評価が高い。ただ、国内ではAIという言葉が実体以上に幅広く用いられる傾向があり、日本IBMの研究者は「国内では機械学習の要素があればAIと見なされてしまう」と苦笑する。
 
 機械学習はセンサーなどから収集した膨大なデータ(ビッグデータ)から規則性や判断基準などを抽出して分析を繰り返すことで、洞察や予測の精度を上げていく。それ自体は目新しいことではないが、ビッグデータの活用が進む中で「データ量が増えるに従って、推論の精度などが上がることが分かり、AIの研究に弾みがついている」のが実情。機械学習イコールAIではなく、そこを混同すると、「現実を見誤る」という。

 ワトソンは人が話した内容に対して瞬時に返答する。自然言語処理技術によって“質問の意味”を理解して、蓄積した膨大なデータを検索し、答えの候補を数百から数千個引っ張り出す。さらに機械学習で確からしさをランク付けして、最も確率の高い答えを導き出す。こうした処理には多大な時間がかかるが、早押しクイズ対決では3秒以内に実現して勝利した。

 4年余が過ぎ、ワトソンの機能はいくつかに分解され、現在、IBMが提供するクラウド基盤上で稼働している。14年にはアプリケーション(応用ソフト)を作るためのインターフェース(API)をパートナー各社に公開。海外では約250社がパートナーとして名を連ねる。国内ではソフトバンクがいち早く名乗りを上げ、コールセンターや接客向けなどで日本語版アプリを開発中。年内には実用化する見通しだ。

 これに先駆け日本IBMは14年に開いたイベントで、9000種のレシピを学習した「シェフ(料理人)ワトソン」を披露した。シェフのリクエストに応答してレシピを考案し、話題を集めた。

 ワトソンが得意なのは多様な情報を大量に扱う業務。医療分野では診断の支援にも役立てることを研究している。事はまだ始まったばかりだ。
(文=斉藤実)

日刊工業新聞2015年08月24日 モノづくり面
ファナックが惚れ込んだPFNの西川社長が考える近未来

明 豊

明 豊
08月24日
この記事のファシリテーター

一つ前のプリファード・ネットワークスの記事とぜひ一緒に読んでもらえれば。

この記事にコメントする

  

ファシリテーター紹介

記者・ファシリテーターへのメッセージ

この記事に関するご意見、ご感想
情報などをお寄せください。