ニュースイッチ

豊田中研が「ビッグデータ」「AI」活用した材料開発に着手

磁性体や電池、触媒など分野横断的なデータを蓄積。技術戦略の新たな武器に
豊田中研が「ビッグデータ」「AI」活用した材料開発に着手

マテリアルズインフォマティクスのイメージ

 豊田中央研究所(愛知県長久手市、菊池昇所長)は、ビッグデータ(大量データ)や人工知能(AI)技術を応用した材料設計手法「マテリアルズインフォマティクス=用語参照」を活用し、太陽電池と熱電変換材料の実用材を発見した。磁性体や電池、触媒など、分野横断的なデータ蓄積を始める。マテリアルズインフォマティクスは大学などで研究が始まったばかりで、多くの企業は様子見状態。豊田中研は社内の実績を受けて研究体制を整える。

 材料開発では製品に必要な性質の材料を求めてさまざまな物質を試し、最良の材料を探し出す。今回、ビッグデータからほしい性質の物質を直接設計する手法を開発した。

 まず17万種類以上の物質の結晶構造データから、ほしい性質に近い物質をいくつも選び出す。さらに人工知能技術の一つである遺伝的アルゴリズムで物質の構成元素を入れ替えながら最良の物質を探す。

 実際に熱電変換材料と太陽電池材料に応用したところ、鉛などの扱いにくい物質を除いた条件で18個の新物質を発見した。長く研究されてきた領域で、実用的な新物質を見つけるのはとても難しい。

 豊田中研はこの成功を受けて、分野横断的なデータ活用体制を整える。通常は熱電材料の研究では熱電特性しか測定せず、磁性体など他の研究で使えるデータにならなかった。各領域で連携してデータの幅を広げる。まずは結晶構造や基本特性など各分野に共通するデータから整理統合する。

 川角昌弥取締役先端研究センター長は「横断的にデータを活用し、従来の積み上げでは到達しえない材料の開発につなげる」と説明している。
 
【用語】マテリアルズインフォマティクス=ビッグデータや人工知能などを使った新しい材料設計手法。人間が実験するよりもはるかに多くの物質をコンピューターで検証できる。高品質のデータを幅広くそろえることが競争力になる。この計算結果だけで特許を押さえる事例もあり、技術戦略の新たな武器として注目されている。

日刊工業新聞2015年08月20日 総合1面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 新しい素材を生み出すためには、その素となる材料や材料の加工条件など、無数の変数の組み合わせによる。ビッグデータの活用は新しい材料を生み出す確率を引きあげるだけでなく、研究の早期化にもつながる。

編集部のおすすめ