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広島市・土砂災害から1年―防災・減災研究活発化(上)豪雨・リスク予測、住民守る

被害軽減に向けて成果の活用期待
広島市・土砂災害から1年―防災・減災研究活発化(上)豪雨・リスク予測、住民守る

昨年8月に広島市内で発生した土砂災害では多くの被害が出た(小杉京都大学准教授提供)

 2014年8月に広島市内で発生した土砂災害から20日で1年がたつ。突発的で局地的なゲリラ豪雨による土砂災害や浸水被害への対策が一段と重要となる中、大学や公的研究機関、企業がそれぞれ防災・減災の研究を進めている。ゲリラ豪雨の発生を事前に検知する技術や土砂災害のリスクを算出する手法など、被害軽減に向けて成果の活用が期待される。

ゲリラ豪雨の発生予測


 大阪大学工学研究科の牛尾知雄准教授らは、ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲の発生過程を詳細に観測できるフェーズドアレイ気象レーダーを用い、次世代の気象観測システム構築を推進。大阪府、東芝と協力し、豪雨検知システムの実証実験を7月に始めた。

 フェーズドアレイ気象レーダーは、多数のアンテナ素子を配列し電子的にビーム方向を瞬時に変えられる。積乱雲発生の様子を30秒間隔で捉え、3次元構造で画像化できる。

 大阪府内でゲリラ豪雨が下水や河川に与える影響を2年間検証し、予測のアルゴリズムを構築する。3年後をめどにフェーズドアレイ気象レーダーに空中分解能に優れ高精度で降雨を観測できるMPレーダーの機能を組み合わせた新型レーダーを完成させ、首都圏に配備する。

 「東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年を一つの目標地点にしている。日本の気象観測技術を世界にアピールするまたとないチャンス」(牛尾准教授)。ゲリラ豪雨の発生を予測し、安全な観戦と滞りない競技進行に役立てたい考えだ。

 気象予測の最も重要な使命は、ゲリラ豪雨や竜巻の被害から住民を守ることだ。牛尾准教授らは大阪市福島区、気象工学研究所(大阪市西区)と共同で、局地的豪雨予報配信システムの実証実験も7月に始めた。「豪雨発生の予兆を正確に素早く配信することで、気象情報の信頼性をより高めていきたい」(牛尾准教授)と力を込める。

土砂災害発生を地下水より把握


 京都大学大学院農学研究科の小杉賢一朗准教授は、降雨による土砂災害の発生リスクを独自の評価方法でグラフ化し、警戒・避難基準策定での活用を目指している。土砂災害は蓄積された地下水の浮力で発生する。地下水位の上昇を正確に把握できれば、土砂災害発生の予測精度をより高められるという。

 地下水位は実効雨量をもとに算出できる。実効雨量とは、過去に降った雨の影響を時間とともに減少させ計算した雨量の目安で、降雨の影響が半分になるまでの時間を示す「半減期」で評価する。現在降っている雨(降雨強度)と、これまでに降った雨(累積雨量)を短期と長期の半減期で計算し、地下水位の上昇を捉える。

 国や多くの地方自治体は、半減期1・5時間と72時間の組み合わせで実効雨量を評価し、土砂災害の警戒・避難基準を定めている。一方、小杉准教授は半減期に数値を固定せず、スネーク曲線というグラフで地下水位の動向を示した。

 小杉准教授は「半減期を固定した今のやり方では、全国一律の警戒・避難基準になってしまう」と問題点を指摘する。地質や地形は場所によって異なるため、一定の基準では土砂災害の発生を予測できない。避難の呼びかけの空振りや災害発生の見逃しも少なくない。

 小杉准教授の手法では、あらゆる半減期を持つ実効雨量を調べられるため、土砂災害が発生する臨界レベルの警戒・避難基準ラインを大雨が降る度に更新できる。現在、雨量観測機器のメーカーや国交省管轄の研究機関から引き合いがある。小杉准教授は「自治体や交通機関など、気象情報を扱う団体に自身の評価方法を提供していきたい」と意欲をみせる。
日刊工業新聞2015年08月19日 科学技術・大学面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 「未曽有」であるはずの大災害の頻度が、確実に増えていると感じる。気候変動に合わせて、防災・減災技術のレベルをあげていかないといけない。産学連携で技術の早期実用化が望まれる。

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