水素インフラ普及へ-鉄鋼各社の先導技術(上)新日鉄住金-高圧用鋼材2年で開発

特殊な鋼材をベースに合金含有量を最低化し、高強度、低コストを実現。

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1カ所に500㌔㌘の「HRX19」が使われている(東京ガスの水素ステーションの装置)
 2020年の東京五輪をそのショーケースにしようという試みをはじめ、水素社会の到来が近づいている。鉄鋼業界も水素インフラ構築に不可欠な鋼材の開発や、コスト削減への貢献など、独自の取り組みを加速させている。特に大手3社はそれぞれの得意とする技術を生かし、水素ステーションの普及を後押ししている。

 「時間が非常に限られていた。普通は5―10年かかるところを2年でつくり上げた」。新日鉄住金尼崎製造所(兵庫県尼崎市)の照沼正明カスタマー技術部主幹は高圧水素用の高強度ステンレス鋼「HRX19」の開発秘話を披露する。水素ステーション内で圧縮機と蓄圧器、ディスペンサーなどをつなぐ配管用鋼管の開発依頼を受けたのが10年。12年中には水素ステーション建設の準備を始めたいユーザーの要望を受け、急ピッチでより高圧水素に強い製品の開発が始まった。

 「ゼロからの開発は無理」(照沼主幹)と判断し、現存する鋼材の改良で時間短縮を図った。あまたある鋼材の中から原子力用途にごく一部、使われていたASME(米国機械学会)規格の鋼種「XM―19」を発見。「JIS(日本工業規格)にはなく、国内の問屋を探してもまず置いてない。海外でもない」(同)というまれな鋼材をベースに選んだ。

 水素は原子が小さく、鉄の結晶の隙間に入り込んで破断しやすくする。しかも当時は燃料電池車(FCV)への水素充填時間を短縮するため、水素の圧力を35メガパスカルから70メガパスカルに高めようとしており、その分、水素への強度を高める必要もあった。それには鋼管の厚みを増せばいいが、今度は鋼管が太く、重くなりすぎてコストもかさんでしまう。

 同社ではXM―19の合金含有量の規格範囲内でニッケルやマンガン、クロムの量を最適化。特に、鉄の結晶格子の隙間に入り込んで頑強にする効果を持つ窒素の量を増やした。「セメントなら石と砂のような関係。窒素と親和性の高いマンガンとクロムを多めに入れ、窒素を添加しやすくした」(同)。同時に、高価なニッケルの量を競合材の「SUS316L」と同等に抑え、コストも極力上がらないよう配慮した。

 約1年で成分を固め、高圧ガス保安協会の認可も取得。結果、強度はSUS316Lの約2倍となり、その分、配管の肉厚を4割薄くすることが可能となった。コストはやや高くなるが、重量もほぼ半減するため、トータルコストはほとんど変わらない。予定通り、12年には新鋼種として、水素ステーションの設計に使えるようになった。現在は東京ガス、岩谷産業の水素ステーションで1カ所当たり500キログラム程度採用されている。

 次の課題は溶接による配管接続の認可を得ること。SUS316Lの配管はネジ継ぎ手で接合する必要があるが、HRX19では溶接でも十分な強度を保証できる。「今は高性能の継ぎ手を数百個使う。ネジ切りにも苦労している。それに法定点検では、ネジをすべてばらして開放点検する必要があり、ものすごくコストがかかる」ため、今年度内の認可取得を目標にユーザーの支援に努めていく構えだ。

日刊工業新聞2015年08月19日 素材・ヘルスケア・環境面

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村上毅
編集局ニュースセンター
デスク

 水素はもともと、鉄を脆くする「水素脆性」という特徴がある。さらに水素ステーションでは充填時間短縮のため、より高圧化され、素材への負荷がかかる。鋼材はどうしても肉厚でコストもかかってしまうが素材メーカーの新技術がコスト低減に寄与する。

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