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海洋ゴミ対策に、日本の知見を

卓見異見/地球環境戦略研究機関(IGES)理事長・武内和彦
海洋ゴミ対策に、日本の知見を

写真はイメージ

 海洋は、人類に海産物の恵みや精神的な安らぎを与えてくれるだけでなく、大気中の熱や二酸化炭素を吸収して気候変動の影響を緩和するなど、さまざまな福利をもたらしている。しかし今、その海洋生態系が深刻な脅威に晒(さら)されている。人間活動により増え続ける二酸化炭素の排出が海洋の温暖化、酸性化、貧酸素化を招き、超大型台風のような異常気象や生物多様性の宝庫であるサンゴ礁の破壊などを引き起こしている。そして今、海洋環境をめぐる国際社会の最大の関心事は海洋プラスチックゴミの問題である。クジラなど海洋生物のプラスチックゴミの誤飲被害やマイクロプラスチックを介した海産物汚染リスクなどメディアで報じられている。すでに国内外で対策が始まっているが、その根本的な解決策は見つかっておらず、世界の重要課題の一つとなっている。

 2019年6月に日本で開催されるG20サミット(主要国首脳会議)およびエネルギー大臣・環境大臣会合でも主要な議題として気候変動および海洋プラスチックゴミの問題が議論されることになっている。そのG20に対して科学的な提言を行うための各国科学アカデミーによる会議がサイエンス20(S20)であり、今年3月に日本学術会議が議長アカデミーを務め、海洋問題をテーマに開催された。その成果として取りまとめられた共同声明「海洋生態系への脅威と海洋環境の保全―特に気候変動および海洋プラスチックゴミについて」は山極壽一日本学術会議会長から安倍晋三首相、原田義昭環境相に手交された。ここでは声明に含まれているいくつかの重要なメッセージを紹介する。

科学的な調査・研究を


 まず今回のS20では陸域で発生するプラスチックゴミに比べて海洋プラスチックゴミが環境に与える影響に関する科学的知見が乏しいことがあらためて確認された。海洋における将来のマイクロプラスチック浮遊量を世界で初めて予測した九州大学の磯辺篤彦教授も、今後の課題として実海域でのマイクロプラスチック調査の強化を挙げる。地球規模で海洋科学をさらに進展させるためには現状の調査能力では不足しているのだ。今後は研究船や、正確なデータを経済的に取得できる技術、そして世界中の科学者がアクセスできる管理システムなどの研究基盤の整備が必要であるとの提言が示された。

 一方、資源循環の専門家からは海洋プラスチックゴミの発生源は陸域にあるため、まずは陸域で循環型社会を構築しない限り、根本的な問題解決には至らないとの見解が示された。陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの排出上位国は中国、インドネシアといったアジア諸国である。特にこれらの地域での循環型社会の形成が海洋プラスチックゴミ問題解決のカギを握っているという指摘があった。このような議論を踏まえてS20では海洋環境の当面の保全対策の実施とは別に、科学的に現在の状況を把握し、将来動向を予測し、あるべき未来像を明らかにすることで最も効果的な政策が提言できるようになるとの意見がまとまった。

東南ア支援実績生かす


 私が理事長を務める地球環境戦略研究機関(IGES)では、これまで東南アジア諸国において、主に戦略立案の側面から循環型社会の構築を支援し、実績を築いてきた。ここで得られた知見を活用し、海洋プラスチックゴミの問題解決でも貢献していくことがIGESに求められている役目だと認識している。18年に閣議決定した「第五次環境基本計画」で提唱された「地域循環共生圏(各地域がその特性・資源を活かし、自立・分散型の社会を形成する)」の概念を活用しながら、あるべき循環型社会の構築、そして海洋プラスチックゴミの問題解決に取り組んでいく。

 日本はこの分野で優れた科学的、実践的知見を有している。日本で開催されるG20サミットでも海洋国家である日本がこの問題解決に向けてリーダーシップを発揮することを期待するとともに、私自身も引き続き貢献したいと考えている。

武内和彦氏

【略歴】
たけうち・かずひこ 74年(昭49)東大理卒。76年東大院農学系研究科修士課程修了。東大院農学生命科学研究科教授、国連大上級副学長などを経て17年より現職。中央環境審議会会長、日本学術会議副会長なども務める。和歌山県出身、67歳。
日刊工業新聞2019年4月29日

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