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中国の“鉄あまり” 消費型の経済への生みの苦しみか

「一向に構造改革が進まない。相当時間がかかる」(大田新日鉄住金副社長)
中国の“鉄あまり” 消費型の経済への生みの苦しみか

中国の粗鋼生産量と鉄鋼輸出量

 「以前はもう少し甘い見方をしていた。市場メカニズムが働き、過剰能力の削減が進むと見ていたが、一向に構造改革が進まない。相当時間がかかるだろう」。新日鉄住金の太田克彦副社長は、半ばあきらめ顔で自らの分析を披露する。

 世界の粗鋼生産量の半分強を占める中国。2013年をピークに国内の鋼材消費量が減少に転じ、余った鋼材が日本の主要輸出先でもある東南アジアなどに流出。市況が低迷し、「これ以上、価格が下がると投げ売りの状況になる」(電炉大手役員)と危惧する。

 業績にも悪影響を及ぼしかねない。JFEホールディングスの林田英治社長が「収益を稼ぐならコスト削減という手法もある。しかし、海外でスプレッド(原料価格と販売価格の差)がどの程度回復してくるかの方が影響は大きい。今は最悪に近い」と懸念するように、最大の波乱要因になっている。

 だが、中国で調整が進む気配はない。新日鉄住金の太田副社長は「生産能力を適正化するための社会インフラが整っていない」と指摘する。余剰労働者を他産業に移す労働法制や慣習がなく、それを促す税制や会計制度も未整備。資金供給の仕組みもないという。

 「日本もそうした制度が整ったのはこの20年くらい。鉄鋼業は80年代後半に、株や土地などの含み益を使って設備の除却を進めた。だが、日本全体ではそれでも追いつかず、その後、法整備が進んで何とか片付いた。中国政府も日本の前例を勉強しているようだが、少なくとも何カ月というオーダーではできない」(太田副社長)と長期戦を覚悟する。

 鋼材需要が増勢に転じれば、問題は解消されるかに思える。だが、太田副社長は首を横に振る。「開発型から消費型の経済運営に変わると、鉄鋼の需要も伸びない。現に日本も73年の石油危機の前が国内消費のピークだった」(同)と説明する。鉄鋼の消費量は鉄道や道路、港湾、橋など社会基盤が圧倒的に多い。これが住宅や自動車、家電など消費財主導に変わると、全体の消費量は伸び悩むというのが過去の日本の経験則だ。

 日本の高度経済成長を一回り大きく再現したかのような中国経済も、日本の70―80年代のように変質しようとしているのだろうか。日本の鉄鋼業は石油危機後の構造的な需要減を理解してから、合理化まで10年超を要した。「中国はやり出したら早い」(同)と言うように当局の手腕を一層注視している。
 (文=大橋修)
 ※日刊工業新聞では「変調中国市場」を連載中
日刊工業新聞2015年08月19日 1面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 中国の中央政府は鉄や化学などの能力削減に取り組む意向ではあるが、地方政府は地方にある中小の製鉄所が地域経済、雇用とも密接に結びついているため、製鉄所の統廃合には後ろ向き。中国全体の過剰能力問題に歯止めがかかっていない。投げ売りのように中国からあぶれた安い鋼材が、韓国や東南アジアに流出し、海外での市況悪化に拍車をかけている。だが、怖いのはむしろこれから。人民元切り下げで中国の輸出競争力が高まれば、鋼材の輸出は拡大する。多様なチャネルを使って“秩序ある体制”を作っていかないといけない。

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