ベンチャーの本質とは?思考と実験による探索こそ

Kyoto Robotics社長・徐剛⑦

 ベンチャー企業の本質は思考と実験による探索である。何をすれば顧客から十分にお金を頂けるかの探索であり、何をすれば損益分岐点を越え利益が出せるかの探索である。

 会社のリソースは限られている。金脈を見つけて、全てのリソースを投入することが理想的であるが、金脈を見つけるのにもリソースが要る。探索(exploration)と利用(exploitation)のトレードオフである。

 理論的には、「Upper Confidence Bound(UCB、信頼上限)」でリソースを配分すべきであることが証明されているので、動的に探索と利用を繰り返すことがベストである。分かりやすく説明すると、不確実性の高い選択肢にも金脈があるかもしれないので、少しのリソースをかけて、やってみて不確実性を減らす。そして、常に「期待値」+「不確実性」の一番高い選択肢にリソースを投入する。すると、必ず期待値と不確実性が更新されるので、上記の判断ルールが繰り返し適用される。

 ここで、相手がコンピューターであれば、この理論通りに進めやすいが、社員の労働を探索だとして、途中でストップさせることが心理的に大きなストレスを社員にもたらす。私の経験で言えば、損得を超えて最後までやらないといけないと考える真面目な人が多い(良いことである)ので、変革がもたらす心理的コストはそれなりに大きい。この心理的コストを何かの正則項として、評価関数に加える必要が生じる。

 一方、経営判断はこの心理的要因に縛られていては、最適解からずれてしまい、全てのステークホルダーにとって良い結果をもたらさない。時代の変化についていけず消滅した会社は、案外ここに真の理由があるのではないか。経営者は、この最適化理論に適応順応するように普段から社員を教育訓練しておくと、よりよく最適解に近づく。

 数学で言うところの「解空間」は無限大で、とても探索しきれるものではない。どんな大企業でも探索しきれないし、ましてやベンチャー企業の資源はさらに限られる。上記の探索と利用の理論を適用するとしても、やはり限界がある。

 プロジェクトの切替はまだコストが低いが、ビジネスモデルの切替は高いコストがかかる。何かをやるということは、別のことをやらないことと等価である。何かを選ぶということは、他を選ばないことである。

 大きな意思決定は徹底議論すべきではあるが、多数決で決められるものでもなく、最終的には経営者が決断するしかない。これこそ経営者に最も求められる能力であり、会社の成否はある意味でその能力にかかっている。

 経営者は、この痛みの伴う決断を行うことに加えて、その決断が明るい未来を作りだすことと作り出せる理由を社員に説明し、説得することが求められる。
(終わり)

日刊工業新聞2019年3月1日(ロボット)

  

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