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難しい技術を開発する会社がはまりがちな落とし穴

Kyoto Robotics社長・徐剛⑥
 会社の財務諸表は、意思決定と行動の結果であるが、一義的には意思決定の結果である。意思決定は基本的に(1)何を、なぜやるか、何を、なぜやらないか(2)どのように、どの程度やるか―という質問に繰り返し答えることである。

 (1)と(2)では(1)がより重要である。ほとんどの人は(1)より(2)を考えるのが好きで、かつ得意である。なぜなら、(2)について考える機会が多いからである。機会が多い割に責任と痛みが少ない。反対に(1)は大きな責任と痛みが伴う。(1)こそ、社長や幹部の責任であり求められる能力である。

 これらの答えの一番の判断基準は、設定した数値目標に貢献するかどうかであり、それだけである。しかし、実際は必ずしもいつもその基準で意思決定がなされるわけではない。特に技術の会社には落とし穴がある。それには理由がある。

 自分が難しい技術を開発していると、ある種の満足感が得られる。また、難しい技術で競合への優位性を確保したい本能があるので、つい数値目標を忘れて難しい技術に走ってしまう傾向がある。これは開発者だけでなく、難しい機能を求める営業担当者にも同じ傾向が見られるので厄介である。難しい技術であればあるほど、実用化に遠く、普及しにくいことも真である。将来の競争優位も大事だが、まずは今期、来期の数字目標を達成しなければ生き残れない。

 そして、難しい技術開発がなくても利益を出せてこそ、本当の商売上手である。もうかる会社は、基本的に自前で技術開発しないところも多い。米アップルもキーエンスも、難しい技術よりも使いやすさにフォーカスし、成功している。

 マーケティングの課題もある。マーケティングは、どんな顧客が何を求めているかのニーズと価値を探る側面と、どうすればニーズに応えられるかのソリューションとコストを模索する側面がある。二つの側面がそろうと答えが見えてくる。それぞれのニーズと価値の大きさと、ソリューションや量産の構築に必要なリソース(これもコスト)、量産原価が分かれば、答えが出せるが、簡単に分かるものではない。

 一般的に企業はつくる人と売る人に分かれる。売る人は売ることに精いっぱいで、今の製品以外のニーズを探索する時間が取れない。作る人は作ることに傾注し、他のニーズに対するソリューションを探索できない。

 また、ニーズを考える人とソリューションを考える人が別々であれば、その間のコミュニケーションギャップが必ず存在し、二つの側面が同期しない。マーケティング担当者たちは、ニーズ探索とソリューション探索を同時にできる方が効率的である。
(全7回、毎日掲載)
日刊工業新聞2019年1月18日(ロボット)

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