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コマツが協力工場の人材育成で本気になった不具合

モデル企業を選んで再雇用のエキスパートが徹底指導。周りへの波及狙う
コマツが協力工場の人材育成で本気になった不具合

建機の主力生産拠点の粟津工場(石川県小松市)

 油圧ショベルなど建機は外部からの調達品が多く、協力企業なしでは生産できない。建機メーカーは部品を調達する中小企業を協力企業として組織化し、長年にわたって信頼関係を築いてきた。コマツの協力企業164社の組織「みどり会」はその代表例だ。

 コマツはみどり会に加盟する中小企業の人材育成支援に乗り出した。みどり会には外注企業と称される97社がある。コマツの用意した図面を基に部品を製造する中小企業が多い。コマツはもともと、品質や安全面を指導してきた。

 外注企業の中から、主力工場の立地する北陸、関西、関東地方の代表的な7社を2014年7月にモデル企業として選んだ。各社はコマツの主力工場での人材育成経験が豊富な再雇用者の指導を受けて人材育成計画を策定。15年度中に実行に移す。

 コマツが協力企業の人材育成支援に踏み切るきっかけとなる出来事が13年度にあった。ある協力企業の海外工場で品質不具合が起き、国内の技術が海外工場には移管されていないことが明らかになった。そこで協力企業の国内工場の技能を高め、海外工場に波及させることを目標にした。高橋康執行役員調達本部長は「日本の工場の技能がしっかりしてこそ。息の長い活動になる」と長期戦を覚悟する。

 
 モデル企業の指導役となる人物が、大阪工場(大阪府枚方市)の技能育成責任者を務めた吉川晴夫テクニカルアドバイザーだ。吉川氏は各社の社長に人材育成の重要性を説明し、組織的な計画策定を支援した。高橋執行役員は「トップダウンで実行する体制が重要」と狙いを説く。

 各社の計画に共通する目的が、社員の技能レベルの底上げだ。各社は既に社員の技能レベルを5段階で評価し、力量を見える化。各自の到達目標や時期も定めた。実行段階でさらに、各社の最高レベルの技術者をエキスパートとして認定する。本人にその地位を自覚してもらい、若手を指導する役割を担ってもらう。吉川氏は引き続き各社を訪問、指導する。

 吉川氏に任せるだけではない。国内工場ごとの地域調達部に所属する技術協力課が、各社の計画の実行を支援する。技術協力課の主な任務は協力企業への安全教育の実施だが、人材育成支援も担わせる。

 モデル企業は名前の通り、他の協力企業の参考例になる。近隣の協力企業がモデル企業を見て、自社でも人材育成に取り組む波及効果が期待される。
日刊工業新聞2015年08月12日 機械・ロボット・航空機面の記事から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
小松駅前の小松工場跡地に4年前、「コマツウェイ総合研修センタ」がオープンした。そこにはみどり会のメンバーだけでなく、下請け、孫請け、大学教授なども頻繁に出入りしている。「コマツ経済圏」は確実に広がっている。足元では中国景気の減速を受け、協力工場の仕事量は減っているようだが、こういう時期にこそ人づくりに力を入れるところに、コマツの今の地位がある。

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