国交省技監「そもそもインフラの寿命とは何なのか」

菊地身智雄氏インタビュー「社会的な条件でも決まる」

 国土交通省所管分野におけるインフラの維持管理・更新費は、20年後には今の1.3倍の約6.6兆円と推計されている。今後、維持管理費が増加することによりインフラの新たな整備は抑制しなければならないのか。国土交通省技監の菊地身智雄氏に聞いた。

-既存のインフラが寿命に近づくにつれ、その維持管理費が増加し、財政圧迫要因になりそうです。
 「そもそもインフラの寿命とは何なのか。多くの構造物は、設計段階で50年間を設定しています。この先10年から15年ぐらいで、建設後50年目を迎えるものがたくさんでてきます。その結果、維持管理費が増大することになると予想されます。これは確かに問題です」

 「ただ、インフラは、国民の皆さんの安全・安心を確保し、経済活動を支える社会基盤ですから、河川、道路や港湾など、必要なインフラは着実に整備していかなければなりません。それをしっかり考えた上で、メンテナンスの問題に取り組む。維持管理費が財政的に負担になるからインフラ整備を抑制すべしという議論は、ちょっと違うと思います」

-インフラの寿命とは何なのかとは、どういう意味でしょう?
 「コンクリートや鋼材などでできている構造物には物理的な寿命があります。しかし、これは、しっかりメンテナンスすれば延ばすことが十分可能です。北海道の小樽港では、100年以上を経た今も廣井勇博士の設計したコンクリート製の防波堤がその機能を果たしています。戦前に完成した東京・隅田川の勝鬨(かちどき)橋もそうです。しっかりメンテナンスすれば、当初の設計寿命より長く使えるし、メンテナンスを前提にして作られたものだとも言えます。いま、未来世代によりよいインフラを引き継ぐべく、『インフラメンテナンス国民会議』で産学官民が有する技術や知恵を総動員して議論していただいています」
 
 「インフラは『社会基盤』であって、社会を支えるものです。その寿命は物理的なものだけでなく、社会的な条件でも決まります。インフラの性格にもよるでしょうが、港のあり方は、今と昔では大きく変わりました。昔は船も小さいので、岸壁の延長は短く、水深も浅くてよかった。それが当時の最先端の施設です。その後、時代を経て船はどんどん大きくなりました。例えば、30年前の最大のコンテナ船だった4,500個積みの船は、船長290mで、必要な岸壁の水深は14mですが、現在の最大の船は、21,000個積み、船長400m、必要な岸壁の水深は18mです。当然昔つくった岸壁には入れないのです。そういう岸壁を維持しても意味がないのだから積極的に機能転換するか廃止するかを検討する。『ストックマネジメント』と言うのですが、全体ではストックの量を減らしながらストック効果を高めていけるわけです。そういう寿命の考え方もあります」

長期の視点で考える


茨城県・常陸那珂港(平成30年11月撮影)


-ほとんど使われない無駄なインフラへの批判も社会一般にありますね。
 「その点については、時間軸のどの断面で見るかということで考えてみる必要があると思います。ひとつ具体的な例を出すと、茨城県の常陸那珂港です。1989年に起工し、1998年の供用開始から10年間ぐらいは企業の立地も少なくて、あれだけの規模の開発が必要だったのかなどと言われることがありました。しかし、30年たった今は大手メーカーの工場がいくつも立地するだけでなく、北関東自動車道を通じて内陸部の工場とも接続し、完成自動車の対米輸出などの重要な拠点になっています。その結果、岸壁も足りないのが現状です」

 「インフラというのは、ある程度は先行して整備するものですから、時間軸の中では、必ずしも想定した利用がなされていないときもあるかもしれません。しかし、長い目で見ると地域経済を支える存在になるケースはいくつもあります。こうしたことも考えながら議論していくことが大切だと思います」

-かつて国の公共事業予算は、何年も続けて大きく削減されました。それでも世の中が回っていると、それまで無駄遣いをしていたようにも見えます。
 「国の財政の中で、どれだけの予算をインフラに回すべきかという議論はあるでしょう。ただ予算を減らせば完成が遅れたり、着工が延期されるものが少なくないと思います。『必要』と判断したインフラにも、優先順位はあります。予算削減によって整備が遅れるのは、経済活動の障害となる外部不経済です。地域間格差にもつながります。インフラは社会の基盤な訳ですから、必要なものを国民の皆さんにできるだけ早く提供し、そして便益を発現することが大切だと思います」

-社会情勢の変化に伴って、個々のインフラが高価になっているように感じます。同じ予算の中ではインフラの数を減らさないといけないのでしょうか。
 「インフラは社会の有り様と連動します。30年前の港は、その時に運航していた最も大きな船に対応していました。しかし今見るとすごく小さい。空港もそうです。60年前はプロペラ機しか飛んでなくて、今は大型ジェット機ですから必要な滑走路が長い。河川も、気候変動による集中豪雨に耐えられるようにしないといけません。求められるスペックが変われば、整備に要する費用も高くなることはあります」

 「しかし、インフラは国民の安全を守り、国の成長を支えるものです。それが財政の制約によって提供できないというのは、本来ならあってはならないことです。であれば、できるだけコストを下げる努力もまた必要になります。これはまさに技術力の問題ですね」

菊地 身智雄氏インタビュー 後編はこちらから

<プロフィール>
きくち・みちお 1961年宮城県生まれ。85年運輸省入省。港湾局総務課危機管理室長、近畿地方整備局港湾空港部長、港湾局計画課長、大臣官房技術参事官、港湾局長などを経て2018年7月より現職。羽田空港のD滑走路建設プロジェクトでは100年間の長期耐久性を維持しながらメンテナンスコストを安くする設計を組み込めたことが印象深いと語る。スキーのインストラクター資格を持ち、イギリスのロックバンド、レッド・ツェッペリンのエレキギターの音を愛し、アマチュアロックバンドとしてステージにあがることも。

明 豊

明 豊
03月15日
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国交省のウェブマガジン「Grasp」のインタビュー特集「公共インフラは、財政圧迫要因か? 新たな社会資産か?」。最後は菊地技監です。

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