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夏野剛×近藤那央スペシャル対談「ロボット社会の未来」(後編)

フォロワーに妥協しないビジネスモデルを!1万台で相当なブームが起こせる
夏野剛×近藤那央スペシャル対談「ロボット社会の未来」(後編)

「ハロに一番近いのがルンバ」(夏野)

 ―2人の対談は、「ハロ」や「ベイマックス」、さらにはビジネスモデルへと深まっていく。

 夏野 僕はSFオタクで、新しいテクノロジーやサービスを実現しようというきっかけになった。SF映画やアニメはこの50年間でロボットと人間の関わりをずっと追求してきて、最近もAI(人工知能)系とアバター(分身)系の映画がすごく増えている。でも物理学に準拠しているSFじゃないと。だからガンダムは造形美はいいけど、あまり好きじゃないんだよ。

 近藤 私はSFに興味はないですけど、ガンダムなら「ハロ」が好きですね。表情が変わらないのに感情が分かるところが面白い。それとディズニーの「ベイマックス」。あれがいいのは動きが自然なところ。そこで大切なのはメカでいう「遊び」。ペンギンロボットもサーボではなく一個のモーターからリンクを分けています。翼の部分は何も入れていなくて、金属板のはめる場所を変えてしならせている。人間が生き物のエージェントだと認識することが、ロボットがかわいいと思ってもらえる一番大切なことだと思うんですよ。ルンバ(米国アイロボット社が販売する掃除ロボット)も機械じゃないと認識されるから、かわいいと感じるのでは。

 夏野 ハロに一番近いのがルンバじゃないかな。ルンバを「ちゃん」付けで呼んでいる家庭は多いよね。しかも壁にバンバンぶつかって動きを覚えていくところとか動物的。日本だと、始めからぶつからないように作る発想でしょ。何より、ルンバがすごいところは、世界中の掃除機市場を再定義したこと。サービスロボットがもう一段普及していくには、ビジネスモデルを考え、市場を作っていく人が出てこないと。近藤さんのような若い人たちが今までの常識にとらわれず挑戦すればいい。そして女性がロボットの世界にもっと入ってくるべき。特に対コンシューマーになると、男性社会を前提にしたものを開発しても、受け入れられない。

 近藤 アイボの表現を作ったのも女性で、しかも理系じゃない方だと聞きました。周りにロボット好きの女子は少ないけど、私が作業をしているところを見ると、「ロボット、めっちゃ好きなの」とか言ってくる法学部の子がいたりするんです。でも実際に「自分はこんなロボットが欲しい」というところまではいかない。

 夏野 それは教育の問題だね。今の大人たちは子どものころから「ガンダム」や「ドラえもん」などを見て、ロボットが人格的なものを持って人間と共存する世界をアニメで知っている。にも関わらず作ってみる経験がほとんどない。近藤さんは東工大付属高校にいたから、工作室も充実していてペンギンロボットを作ったわけでしょ。初等教育で図工と理科を分けない授業をすればいい。粘土の中に回路を埋めて光らせれば、一種の立派なロボットになる。

 近藤 塾でもプログラミングを教えるところはあるけど、ハードはないですからね。もちろんソフトウエアは重要ですが、やはりハードができないと、見よう見まねでモーター動かしたら壊れちゃうとか、弱いサーボで動かして焼けているのをよくみるので。ペンギンロボットも今、ギリギリのところまできていて、面白いと評価されて展示会とかには出展はするんですが、買ってくれるにはまだ・・・欲しい人に売れるようにしたいです。

 夏野 まず世に出してみない?クレームも含めたくさんのフィードバックがくる。そして助けてくれる人もいっぱい出てくる。「この技術、使ってみたら」とか。お財布ケータイも構想した時は10年かかると思ったけど、5年でできた。テクノロジーに裏打ちされたとがったものは売る個数が大事。マーケティングをどうするか。それは生産ラインでいくつ作れるという発想ではない。例えば日本の小学生が600万人いて、その1%で6万台。1万台で相当なブームを起こせる。最初に飛びつく人を大事にして、フォロワー(追随者)に妥協しないこと。
 
 近藤 具体的に何人に、という考えは今までなかったです。

 夏野 もう少し小型がいいかもね。ペッパーが19万8000円でしょ。値段は高くてもいいと思う。あとプロトタイプなら、いつでも交換するサービスをやればいい。テスラも4年後買い取りサービスというのを始めた。ビジネスモデルそのものを変えちゃう。
 
 近藤 2020年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、東京をロボット特区にすれば、もっとチャレンジできると思うんですが。

 夏野 組織委員会の参与をやっている立場で言わせてもらうと、あと5年間しかない。今から面白いロボットを作りましょ、と言っても現実的には難易度が低いものになってしまう可能性が高い。どんなことを特区でやりたいの?

 近藤 ヒトの後ろを付いてくるロボット。ポケモンの「連れ歩き機能」を現実化したい。

 夏野 歩道なら特区じゃなくてもできると思う。僕が今、米国のクラウドファウンディングで応援しているものは、ドローン(無人飛行機)がずっと後ろから追いかけてきて、被写体をカメラで撮影するプロジェクト。技術的にすごいことと、世の中に役立つかは別次元の話。近藤さんたちには、本当にロボットには何がしてほしいのか、どういう存在であった時に人間にとってすごくよいのか。とことん追求してほしい。変わったことをしていると、潰そうという人たちもいる。日本は20代、30代に賭けて、上の世代で理解ある人が守ってあげることが必要。ほとんどの人はイノベーションを起こせないのだから。がんばって。

 近藤 はい、がんばります。

 <プロフィル>
●近藤 那央(こんどう・なお)1995年生まれ。東京工業大学付属科学技術高校(東工大付属高校)機械科の課題研究で、生物の動きを精巧に再現するチーム工房「トライボッツ」を結成。リーダーとしてペンギン型ロボットを開発する。「はやぶさ」の帰還を見て感動。宇宙工学をやりたくて、機械科のシステムデザインロボット分野に進む。昨年、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部に入学。大学では「人と暮らす」ロボットの研究に携わると同時に、グライダーの部活動に明け暮れる毎日。新世代の女の子を発掘するオーディション「ミスiD2015」に輝く。

●夏野 剛(なつの・たけし)1965年生まれ。早大政経卒、米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクール卒(経営学修士)。2008年にNTTドコモ退職後、慶大教授に就任。現在はKADOKAWA・DOWANGOをはじめ多くの企業の取締役を務める。 
日刊工業新聞2015年03月31日企画特集を大幅加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
どんなロボットに何をされたいか?というのは結構人によって違う。以前、英国の調査で、ロボットと身内のどちらに介護されたいか、という問いに対し、ロボットと答えた人が多かった。個人的にはあまりリアリティーのあるロボットに排泄のお世話をやってもらうのは、ちょっと嫌かも。でも慣れたら溺愛したりして。

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