働く母親「VRで体感」の圧倒的効果が組織力を最大化する

リクルート、ダイバーシティ研修を外部提供

 「明日までに資料を修正して」。夕食の準備中に上司から電話で告げられた。これから子どもに夕食を食べさせてお風呂に入れて寝かしつけて、明日の保育園の準備もあるけれど―。育児と仕事を両立する「働く母親」の1日を描く仮想現実(VR)映像を企業の管理職者などが体感した。

 3月上旬、東京都千代田区の三井物産本社で同社労働組合が主催する社内研修が行われた。育児や介護の両立など社員のライフスタイルが多様化する中で、組織の成果を最大化するには管理職などが各社員の事情を深く理解することが欠かせない。今回の研修では仕事と育児を両立する社員を深く理解するため、働く母親の生活を疑似体験できるVR映像を活用した。

 研修プログラムを企画したリクルートは、自社のダイバーシティを強力に推進してきた。VR研修もその一環として企画・監修から携わり、2017年に社内で実施したものだ。今回初めて外部に提供した。当事者の生活を疑似体験できるVR映像の活用には自社だけでなく、社会全体のダイバーシティを推し進められる可能性を感じたからだ。イノベーションを通して新しい価値のある仕組みを社会に提供することを企業使命に位置づけるリクルートが、ダイバーシティの分野でそれを果たそうとしている。

個の尊重が競争力になる


 リクルートはダイバーシティを経営戦略に位置づける。社員一人一人を尊重し、それぞれの力を最大限発揮できる環境づくりが企業の競争力向上につながると考えるからだ。06年に専門部署を設置し、事業所内保育園や女性経営人材育成のためのリーダーシップ研修などを実施した。一方、育児と仕事を両立する社員が年々増加する中で、管理者の負荷が課題になっていた。背景には育児の経験がないため事情がわからないもどかしさなどがあった。そこで育児を両立する社員の一日の生活を疑似体験できるVR研修を企画・監修した。

VR映像の一場面(企画・監修:株式会社リクルート/制作:グリー株式会社)

 VR研修は、最新技術を活用した優秀な人材管理の取り組みなどを対象とする「HRテクノロジー大賞」を受賞するなど注目を集めた。その結果、他社から関心を寄せられため、外部提供を決めた。ただ、外部提供の理由はそれだけではない。「VR映像による疑似体験は(育児や介護の両立などに取り組む)当事者の事情について深い理解を迅速に促す力がある。VR研修は日本各所でダイバーシティを推進するきっかけを生む可能性を秘めているため、他社にも導入してもらうことで、一緒にダイバーシティをさらに推進していきたい」(リクルート人事統括室ダイバーシティグループの塚本尚子グループマネジャー)という思いがあった。

働きがいのある職場作りへ


 三井物産労働組合がリクルートの企画したVR研修を実施した背景には、社員のライフスタイルが多様化する中でマネジメントの難易度が高まっているという問題意識があった。特に仕事と育児を両立する社員は増えており、これからのマネジメントを考える題材に適していた。

 同労組は「働きがいのある職場作り」を重点に活動している。この実現に向けて管理職者などが「仕事と育児を両立する社員」を深く理解し、効果的に力を引き出すきっかけになるようにとVR研修を実施した。三井物産労働組合の塩澤美緒中央執行副委員長は「(当社の)育児に深く関わってこられなった管理職者も、リアルに疑似体験できるVR映像を視聴することで気づきを得られると考えた」と説明する。

 研修で活用したVR映像の主人公は、2人の保育園児を持ち復職して半年の時短勤務の女性。約12分の映像では家庭や職場で1日に次々と起こる出来事を女性の視点で擬似体験する。研修では仕事と育児を両立する社員の事情や感情を理解した上で、参加者同士が意見交換しながら最適なマネジメント手法や組織のあり方などを模索した。

 実際に研修に参加した管理職者などからは効果を実感する声が上がった。人事管理業務を担当する管理職の男性は「(VR映像を視聴して)仕事と育児を両立する社員は職場でも家庭でもタスクが多いと感じた。部署内でプライベートの事情を少しでも開示しあえる環境が作れれば互いにサポートしやすくなると思った。難しい取り組みだろうが、自分から始めたい」と意気込んだ。同僚に働く母親がいるという一般社員の女性は「育児を両立する社員には家庭でも(子どものお漏らし対応など)矢継ぎ早にタスクが襲ってくることが臨場感を伴って伝わってきた。その環境の中で働く同僚に改めて尊敬の念を抱いた」と話した。

 また、別の管理職の男性は「仕事と育児を両立する生活がイメージしやすかった」とした上で「育児以上に介護の両立には大変な面があると思う。自分も含めて今後そうした事情を抱える従業員が増える可能性があるので(今回の研修のように)VR映像を見て当事者意識を学べる機会があれば」と語った。

 リクルートの塚本グループマネジャーは研修後、「参加者に多様な気づきを得てもらい、具体的な行動のアイデアも出てきた。価値のある研修だと再認識した」と語った。社会全体のダイバーシティ推進へ確かな一歩を踏み出した。

VR映像の視聴後に参加者同士で気づきなどを共有した

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