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企業の「ドナー休暇」は広がるか

独自の対応進む、柔軟な制度で融通も
企業の「ドナー休暇」は広がるか

競泳コナミ・オープンの会場で、白血病を公表した池江璃花子選手への寄せ書きをする人たち(16日=千葉県国際総合水泳場)

 競泳の池江璃花子選手の白血病公表を受け、骨髄提供者(ドナー)の登録をしたい人が急増しているという。ただ患者とドナーが適合しても、ドナーは移植前後で8回前後、医療機関に出向く必要があるうえ、移植手術の際は3泊4日程度入院する必要があり、個人での対応には限界がある。そこでその日数を有給休暇ではなく、企業が特別休暇として扱う「ドナー休暇」制度を導入する企業が増えており、国も制度を後押しする。

国が環境整える、専門職員が制度導入支援


 「希望する人がドナーになりやすい環境を整備することが重要だ」―。安倍晋三首相は18日の衆院予算委員会で池江選手が白血病を公表したことに関連し、企業にドナー休暇制度の導入を働き掛けるなど、骨髄移植の普及を支援する考えを示した。企業に制度を自主的に導入してもらうことで、ドナーが骨髄を提供しやすくし、円滑な移植につなげる。

 厚生労働省が2019年度予算案で施策を盛り込んでいる。具体的には、日本骨髄バンクに休暇制度導入に関わる社会保険労務士などを配置。その上で、大手企業約1万1000社にアンケートを実施して企業の休暇制度導入に伴う課題を抽出し、導入支援マニュアルを作成する。

 さらに企業向けに説明会も開催。講師には専門職員のほか、休暇制度導入済み企業の協力を得て、導入プロセスやメリットを説明してもらう。必要に応じて個別に企業を訪問し、企業の実情に即した導入設計を提案したりする。

 休暇制度を導入済みの企業・団体は18年10月現在で347社。厚労省移植医療対策推進室の井内努室長は、「19年度はまず現状を把握した上で、企業に導入してもらえないかお願いして回る」と説明する。

 骨髄移植での問題は、患者が移植を希望してから実際に実施されるまで平均で130―140日かかってしまう点だ。白血球の型が適合したとしても、最終同意まで得られるのは10人に1人程度だという。働きながらドナーになる人にとっては、会社から理解が得にくかったり、休暇が取りにくかったりして断念するケースも少なくない。

 今回の施策で企業に骨髄移植の重要性を認識してもらい、ドナーから骨髄をいち早く採取して患者に移植できるようにする。「ドナー環境の整備は移植環境の整備につながる」(井内室長)。

登録から提供まで、年齢・体重など基準に注意


 日本骨髄バンクによると池江選手の公表以降、「骨髄ドナーに登録したいという人からの問い合わせが増えている」という。骨髄ドナー登録の流れはこうだ。まず登録のしおりを読み、その上で登録申込書を提出する。

 登録のしおりの閲覧や請求、申込書のダウンロードは日本骨髄バンクのホームページからも可能だが、登録には献血ルームや保健所などの窓口に行き、申込書を提出する必要がある。窓口では採血で白血球の型を調べ、後日ドナー登録確認書が届く。

 患者と白血球の型が適合すれば、ドナー候補として通知が来る。年間2万4000―2万5000人ほどに適合通知書が送られるという。健康状態や家族や本人の骨髄提供への意向を確認のうえ、確認検査を受け、最終的に1人を選定する。

 提供者が最終的な同意をすれば、移植の約1カ月前ごろからさらに詳しい検査や移植後の貧血に備えた採血などを行う。移植1―2日前に入院し、移植後2―3日で退院する。術後、まれに発熱などを生じることがあるが、1週間以内に回復するという。また、退院後1カ月以内に、術後の健康診断を受ける。

 ドナー登録にあたっては年齢や体重に基準があり、疾患治療のため薬を服用している人など、登録できないケースがある。日本骨髄バンクは「ホームページから基準が確認できる。自分が登録できるか分からない場合は、電話の問い合わせで確認できる」と話す。また、ドナー休暇制度などを導入している企業や官公庁に向けて、証明書も発行している。

製薬大手はすでに導入


 ドナー休暇制度を導入している企業は徐々にだが、増えている。製薬業界では武田薬品工業やアステラス製薬、第一三共といった大手がいずれも導入しており、生命関連産業としての意識の高さがうかがえる。

 各社は従業員がドナー休暇を使っても、通常の有給休暇の日数は減らない枠組みを整備。武田薬品は「ドナー登録・検査・提供などの活動については、骨髄バンクが発行する予定表に基づいて必要日数を与える」運用をしている。

 大手の中でもエーザイは導入が1997年8月と早い。「制度化されていて安心して取得できる職場環境となっていることが、最終的な骨髄提供による患者様貢献に結びつく」(労務担当者)。

 ただ、各社の1年当たりのドナー休暇利用者数は数人以下。例えば08年に導入した田辺三菱製薬の場合、これまで骨髄移植で2人、確認検査などで4人の計6人が利用したにとどまっている。

 ドナー登録をしていても選ばれるとは限らないことや、骨髄提供の際には健康診断や入院が必要な点などが影響して、このような水準になるのかもしれない。制度をよく知らない従業員がいる可能性もありそうだ。

 一方、サッポロホールディングスとグループ各社は、個々の社員が使い残した有給休暇を最大で60日分ためられる「積立(つみたて)休暇」制度を持つ。本人のほか家族の入院などでも1日単位から活用でき、社員がドナーとして移植に対応する場合も充当できる。

 キリン(東京都中野区)、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの各社も、社員がドナーとして対応する場合に有給休暇と同等の休みを取得できる。

 関西電力は社会貢献に伴う社員のボランティア休暇制度の一環で、ドナー休暇にかかった日数分を認めている。利用実績はあるが、人数は公表していない。大和ハウス工業も骨髄ドナー休暇制度はないが、ボランティア休暇制度を活用した利用を推奨している。

 一方、大学関連では慶応義塾は、検査や入院などで必要と認められた日を1日または半日の単位で特別休暇の取得を認めている。

 96年、教職員就業規則で特別休暇の制度を導入。大学病院が設置されていることから、大学の社会貢献の一環としての狙いもある。「制度の認知度を高め、個人の必要に応じ休暇が取れるよう配慮したい」(慶応義塾広報)としている。

 東海大学も教職員に対し、骨髄ドナーのための休暇を勤務規則の中で認めている。大学のほか付属の幼稚園や高校、病院などに所属する教職員7000人が対象。約20年前から制度を導入している。

 学生に対してまだ事例はないが、医療機関の証明書などがあれば、ドナーに関する検査などで授業を休んだ場合、公欠扱いにする可能性があるという。
                    

日刊工業新聞2019年2月21日

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