グーグルが持ち株会社移行「新しいコングロマリット」の生き様

日本の複合企業体の代表格「日立」との共通点とは?

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日立の中西CEO(左)とグーグルのラリー・ペイジCEOのオフィシャルブログより
 米グーグルが経営組織の大幅な再編を発表した。持ち株会社「Alphabet(アルファベット)」を新たに設立、主力の検索・広告事業と自動運転などのベンチャー事業を分離して新会社の傘下に収める。持ち株会社のCEOになるラリー・ペイジ最高経営責任者(CEO)はブログで、「新たな組織構造により、われわれはグーグルが内包する途方もない機会に焦点を合わせ続けられる」と話している。

 今回の大胆な組織改革についてさまざまな見方ができる。まずグーグルの組織が大きくなり過ぎたこと。特に検索事業の利益が大きすぎて、「その他」の事業の収益性や責任が見えにくい。グーグルのこれからを考えると、持ち株会社化は正しい選択肢の一つだろう。また税制や規制対策という声も一部にあるが、それはあくまで副次的なものではないか。

 ラリーがブログで書いているように、グーグルが「途方もない機会」を持っているのは間違いなく、あらゆる領域で社会にインパクトを与えていこうする姿勢は、新しい社名(A~Zまで)にも表れている。

 もう7年(2008年)も前になるが、電機業界の連載でグーグルと日立製作所を比較した記事を書いたことがある。老舗で何をやっても「とろい」と言われた電機メーカーと、飛ぶ鳥を落とす勢いのインターネットの旗手を「なぜ?」と思うかもしれないが、ある部分でとても似ていると感じたからだ。

 日立はその後、リーマンショックを経て会社存亡の危機にさらされ、経営陣の大胆な入れ替えと構造改革で今や日本の産業界をけん引する存在までに復活した。グーグルは当時からさらに巨大になり、国家を超越する存在とまで言われている。そして今、両者とも巨大な組織のあり方を再び見つめ直している。

 日立の歴史は分社の歴史でもある。しかし、復活の立役者である川村隆前会長は「日立は事業持ち株会社を志向しており、日立本体の本社部門の役割は非常に重要だ」と話す。また川村氏とコンビを組み、会社を成長フェーズに変えた中西宏明会長兼CEOは以前、「さらにグローバルで成長していくためには、『HITACHI』という社名が無くなることだってありえる」と語ったことがある。

 二つのコングロマリットのガバナンスに引き続き注目したい。

「社会のつなぎ目」「世界を良くする」というビジネスモデルは共通


日刊工業新聞2008年7月23日付連載「電機復権」より


 「日立」をグーグルで検索すると、約3540万件ヒットする。これは「トヨタ」よりも多い数だ。日本最大の売上高を誇る電機複合企業体(コングロマリット)は2年後に創業100年を迎える。しかし時価総額(08年3月末時点)は、設立10年の検索ソフト会社の約5分の1にも満たない。
 
 「ウェブ上で世界中の情報をすべて整理する」―。米グーグルの創設者のラリー・ページ、セルゲイ・ブリンという若き天才が描く企業の存在理由だ。2人ともここまで検索事業が莫大な利益を生むとは思っていなかっただろう。しかしグーグルには「世界を良くするために働いている」(国内IT企業幹部)という社員が意外に多い。

 この教条的な側面はどこか日立と通じるものがある。明治末期、茨城県日立市にある小屋で創業者の小平浪平氏らが電動機を開発して以来、「お国のため」と電力や情報システムなどの社会インフラ整備に情熱を捧げてきた。

 “社会のつなぎ目”というビジネスモデルは、実はグーグルも日立も共通。グーグルが扱うインターネットの向こう側にある世界は見えにくく、日立は電力設備やハードディスク駆動装置などリアルな事業を手がけるという違いがあるだけだ。

 ネットに知識を開放したグルーグル。日立は“知の集積”をどう生かすか

 日立は長い間、コングロマリットディスカウント(複合企業による価値の割引)と市場からたたかれてきた。しかし古川一夫社長は「データセンターを省エネできるすべての技術を自社で持っている」と自負する。シンクライアントによる情報漏えい防止技術はグローバルIT市場の新しい潮流になるかもしれない。

 グーグルも今、携帯電話市場への参入や通信インフラへの投資などコングロマリット化を進めている。検索周辺事業だけの限界を感じているからにほかならない。それでもグーグルに活力がみなぎるのは、4―5人程度の無数のグループが、無駄かもしれない開発に自由に挑戦しているからだ。言い換えれば、社内にもう一つのシリコンバレーが存在する。

 日立で庄山悦彦会長の右腕である西川晃一郎専務は企業の合併・買収(M&A)のプロ。魅力ある投資案件に目を光らせるが「日立の競争力の源泉は研究所だ」という。良い意味で日立ほど“無駄”が似合う日本企業はほかにない。

 先週開催された日立のITフォーラム。篠本学副社長は「過去を変えるイノベーションも大切だが、これからは1社が市場を制覇するのではなく、社会に存在する多様な製品や技術と融合し、人に役立つITを追求する」と宣言。そうした戦略を指す言葉として「リノベーション」という概念を持ちだした。

 毎月発行される技術誌「日立評論」はこの7月で通巻1038号を刻んだ。グーグルはネットという公共空間に知識を開放する引き金になった。オープン・ソース時代に日立は“知の集積”を生かさない手はない。
(文=明豊)

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明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

グーグルのエリック・シュミット会長は共著「第5の権力」の最後に、「私たちは未来を楽観している。それは、技術とコネクティビティに、世のなかの悪癖、苦難、破壊を抑制する効果があるからなのだ」と記している。グーグルのマネジメントチームは、青臭いメッセージで生臭いビジネスをうまく包み込んでいる。ラリーたちは、「アルファベット」への移行で「第5の権力」を手に入れるのか、社会へ開放していくのか。

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