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日本の米スタートアップ投資に影響は?米政府が出資の監視を強化

対象技術などはまだ不透明
日本の米スタートアップ投資に影響は?米政府が出資の監視を強化

公式フェイスブックページより

 「2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」が、18年11月に発効された。外国企業による米国企業への出資の監視を強化するFIRRMAは、中国へのけん制が主な目的だが、日本を含む全ての国が対象となる。法律の運用には不透明な部分が残っており、場合によっては、米スタートアップへの投資を活発化している日本企業にも冷や水を浴びせかねない。

 FIRRMAによって、米政府内の外国投資委員会(CFIUS)の権限は強化される。外国企業が軍事技術や、軍事技術に応用可能な新興技術を持つ米国企業に出資する際、CFIUSの審査対象が、従来の過半出資から少額出資にも広がる。トランプ政権はCFIUSを活用して米国企業への外国企業の資本参加を制限しており、18年3月には、国家安全保障を損なう恐れがあるなどとして、シンガポールの半導体大手ブロードコムによる米クアルコムの買収を差し止めた。

 シリコンバレーを拠点とする米フェノックス・ベンチャーキャピタルのアニス・ウッザマン共同代表パートナー兼最高経営責任者(CEO)は「米国の重要技術分野のスタートアップへの投資が難しくなる」と警告する。同社はアイシン精機などの日本企業からも多く資金を集めており、FIRRMAの動向を注視する。

 出資先企業がどんな技術を持てばCFIUSの審査対象となるかは、現時点で不透明な部分が残る。軍事技術の定義はミサイルや宇宙、核などで新興技術の定義は今後決まる。輸出入管理の法律では新興技術としてバイオテクノロジーなどの複数の技術を定義しているが「FIRRMAの定義が同じになるかはわからない」(ウッザマンCEO)という。

 審査対象となれば従来よりも実際に出資するまでに時間がかかる可能性がある。ウッザマンCEOは「外国投資家にとって不利だ。ユニコーンや人気の会社の資金調達はあっという間に枠が埋まってしまう」と指摘する。一方で同氏によれば、米国に本社を置き、米国人のジェネラルパートナーが運営している投資ファンドを通じての少額出資は審査を免除される。FIRRMAは20年3月5日まで試験的な運用期間とされており、対象の定義や内容の見直しの可能性がある。

 米国のベンチャーの急成長は、外国からの資金に支えられてきた。米中の対立が深まる中で、中国による対米投資は、この2年の間に減ってきている。FIRRMAが直接影響しているかは不明だが、現地報道によれば、19年1月に海外からの投資減少によって拡張現実(AR)技術の米Meta(メタ)が倒産した。米国企業への投資環境の変化をしばらく注視する必要がありそうだ。
日刊工業新聞2019年2月22日掲載
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
どんな技術が対象になるか明確になると、影響の大きさがわかってきます。ウッザマンCEOによると、「ヨーロッパ企業がCFIUSに申請し、出資の許可が下りたらしいという噂がシリコンバレーでは出ている」とのこと。引き続き状況をウォッチしていきます。

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