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英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(後編)

文=小泉雄介 ロンドン警察が身体装着ビデオを導入。市民への撮影告知が必要
英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(後編)

ロンドン警視庁で採用されたBWV(出典=ロンドン警視庁)

 監視カメラに関連した技術の利用状況については、英国では顔認識技術はいまだそれほど普及しておらず、警察や空港で一部導入されているのみである。最近では6月に地方の音楽イベントで10万人の観衆を対象として欧州連合(EU)の拘留者データベースとの顔照合が行われている。

 また、主要空港には電子パスポートゲートがあり、登録者についてパスポート内の顔写真とゲート通過時の顔画像を照合している。顔認識の商用利用は実験段階であり、スーパーでの実証などは行われたが、実運用はこれからとのことである。

 日本でも2月の東京マラソンにおいて話題となったが、英国では警官による身体装着ビデオ(BWV)の着用が一般になりつつある。ロンドン警視庁は15年6月には2万台のBWVの本格導入を発表した。その目的は、警官が遭遇する事件・事故の証拠を残すことである。今後は駐車監視員やナイトクラブのドアマンなどでの利用拡大も見込まれている。

 ICO(情報コミッショナーオフィス)の行動規範では、BWVはその可搬性のため、通常の監視カメラよりもプライバシー侵害性が高いとされている。BWV端末はオンオフのスイッチを持つが、撮影時には外から分かるようにすべきであり、連続的な撮影は極力避けるべきである。撮影者が興味を持った人物を追跡する恐れがあるからである。

 また、BWV端末は目立たないものだったり、運転中や混雑時に使用されうるため、一般市民に対して十分に告知を行うべきである。例えば、BWVを装着する係員の服などに明確な掲示が必要とされる。

 ドローンについても今後、警察での実証実験が計画されている。ICOの行動規範には既にドローンに関する節があるが、彼らもまだ適切な規制方法を検討中であるという。ドローンは見晴らしの利く位置から撮影ができるため、不必要に個人の画像を記録するというプライバシー侵害をもたらす可能性が非常に高い。

 撮影される画像から必ずしも直接的に個人が識別できないかもしれないが、撮影されたコンテキストや、ズーム機能の使用によって特定個人が識別されることもありうる。そのため、ホームユーザー以外がドローンを使用する場合にはプライバシー影響評価(PIA)を行うことが推奨されている。

 またBWVと同様、ドローンの使用においても市民は撮影されていることに気付かないため、市民向けの十分な告知が重要となる。行動規範では、ドローンで撮影していることが分かるようにオペレーターが派手な服装を着ることなどが例示されている。わが国でも同様な問題は議論されることとなろう。
 国際社会経済研究所主任研究員(NECグループ)小泉雄介氏
※毎週金曜日に日刊工業新聞で「ICT世界の潮流」を連載中
日刊工業新聞2015年08月07日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本も2020年のオリンピックを契機に監視国家へ大きく踏み出す可能性が高い。国民の納得感は国によって違う。

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