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DBを経由しない新IoT技術、プッシュ型サービスを変える

データの集中を防ぎ、超分散処理の社会へ
 米バンティック(カリフォルニア州)は、データベース(DB)を経由せず、複合的な条件で最適にシステムを動かせるIoT(モノのインターネット)の技術概念「イベントメッシュ」の提案を始めた。現在はDBに蓄積した後、情報の見える化や分析する利用方法が主流。だが、データの集中は技術的な課題に加え、特定企業にデータが集中すれば政治的な問題にもつながりかねない。同概念が解決策となるか注目される。

 イベントメッシュとは、温度計であれば「50度Cになったら教えて」「50度Cになった」のようなイベント(事象)だけをメッシュ状につなぐ考え方。例えば、駐車場の情報サービスの場合、現在はドライバーが近くの空き駐車場を検索して、そこへ向かう。だが、向かう途中で他の車が来て、到着すると満車になっていることもある。イベントメッシュ方式では、車が「どこそこの近くの駐車場を教えて」といった情報をメッシュ上に流しておけば、近くに来た時に空き駐車場の情報をプッシュ通知で受け取れる。先に他の車が入ったら、別の駐車場をプッシュで伝える。ここで流れているイベント情報は、エリアと駐車場が空いたか埋まったかといったものだ。

 また、運送会社のトラックの行き先や運行情報を共有し、積載率を高めることもできそうだ。メッシュにデータを流すのと並行して、自社のDBにも蓄積。蓄積データを分析して、よりシステムを最適化するイベントの条件を設定することもできる。

 現在のDBを経由するIoTシステムは、扱うデータの種類が増えるほど、DB内での処理に時間がかかるため、リアルタイムにシステムを動かしにくくなる。イベントメッシュはDBを経由しないため、こうした問題が発生しない。

 また、DBを経由しなければ、他社とも連携しやすい。各社のDBには社外に出せないデータも含まれるため、DBの統合はできないためだ。。日本での営業・マーケティング活動を担当する川北潤氏は、「企業間で連携する際、データを統合せず、イベントだけ共有したいニーズはあるはずだ」と、イベントメッシュの用途を予想する。

 バンティックは、イベントメッシュ方式のシステムを構成する基本ソフト(OS)の役割を担うソフトウエアパーツを提供する。2018年11月に、同方式を利用したシステムやソリューションの開発を広げるための「EDAコンソーシアム」を設立。ミツイワ(東京都渋谷区)やキヤノンITソリューションズ(同品川区)などと協力し、イベントメッシュの普及を目指す。

 イベントメッシュ方式では、機械やセンサーなどのモジュールを相互接続し、メッシュを形成しておけば、「どんなイベントが発生した時にアクションを起こす」というフローチャートを構築して簡単にシステムを組める。一つのセンサーを複数のシステムに利用することもできる。工場内での利用に加え、「メッシュで社会を包めたら、プッシュ型サービスが変わり、社会を救う」(川北氏)と期待する。

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日刊工業新聞2019年1月29日掲載
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
同社の創業者は、複数の起業経験のあるソフトウエア起業家。バンティック以前に設立したForte Softwareは、10億米ドル以上で買収されたそうです。

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