ホンダやカシオ…学生とのコラボで企業が学ぶ「大人の上から目線は間違いだった」
“Z世代”から見える未来の価値観
中学・高校生などの若年層と企業のコラボレーションが広がってきた。1995年以降生まれの彼らは、幼いときからスマートフォンが身近にあり、参加交流型サイト(SNS)から得る情報に対して敏感。起業や社会課題の解決への意欲が高い人も多い。彼らの世代は「ジェネレーションZ(Z世代)」と呼ばれており、新しい感覚でアイデアを生み出す担い手として注目が集まる。
両手に収まるサボテン型デバイスをリビングに。家族に日頃伝えられない「ありがとう」も「ごめんね」も、音楽でラッピングしてサボテンが伝える。すれ違いの多い“砂漠化家族”に潤いを与えたい―。
18年末に都内で開かれた中高生と企業が一緒にモノづくりやコトづくりに挑むコンテスト「モノコトイノベーション2018」の決勝大会。優勝したサボテン型デバイス「Laughie(ラッフィー)」は、宮城県と東京都、神奈川県、大阪府の女子中高生4人のチーム「今を翔(かけ)る少女。」が考案した。
アイデアや試作モデル、熱のこもった発表のいずれの完成度も高いと評価された。リビングに置いた親機のサボテンに音声メッセージを録音。スマホで伝えたい相手や自分の気持ちを設定する。相手が近づいた時、音声メッセージと気持ちに合わせた音楽をサボテンが再生する。相手がメッセージを聞けば、自室に置いた子機が光って教える。
このコンテストは、企業の持つ課題に対し、中高生らがチームを組んでアイデアを発想。これをもとに、勝ち残った8チームが企業と一緒に約4カ月かけて試作モデルを完成させ、決勝で披露した。デンソーやダイヤモンドメッキ技術を持つジャスト(山形県上山市)などが参加した。
家族に素直な気持ちを伝えるのが気恥ずかしいのは昔も同じだが、今どきの家族ならではの事情もある。メンバーの1人は、「生活時間帯が違い、家族がリビングに集まらない」と話す。LINEのやりとりは、「家族のように近い存在の人ほど、簡単に済ませて、素っ気なくなる」。そこで声と音楽を使うことを思いついた。
同チームと組んだカシオ計算機の担当者は、「最初は学生にメーカーの開発プロセスを知ってほしいという“上から目線”の気持ちもあった。実際は教えられることの方が多かった」と振り返る。
企業の商品開発では多くの人が関わり、さまざまな制約がある。「普段は“大人の事情”でやれないことも、この4カ月は中高生たちの『やりたい』という気持ちに向き合った」(カシオ)。
他チームも、中高生ならではのアイデアと企業の技術をうまく組み合わせた。2位の「NEW CREATE(ニュークリエイト)」は、本田技術研究所とタッグを組み、通学時に教科書などの重い荷物を載せ、学生の歩く斜め前を走行する小型モビリティー「LIGHT(ライト)」を提案した。
審査員を務めたデザイナーの長谷川哲士氏は、「徒歩通学をすること自体は変えていないことに感銘を受けた」という。人の移動を楽にするモビリティーは乗り物が多い。同チームの調査では、中高生は平均10キログラムの荷物を持って通学するというが、乗り物で移動を楽にするより、「友だちと話をしながら通学するのも大事な時間」と考えた。
個人で所有せず、駅前でのレンタルを想定。すぐ荷物を手に取れる高さと走行位置、荷物の大きさに合わせて伸縮できる天板のデザインを工夫した。
コンテストは今回で4回目。約500人の応募者から275人を選抜して予選を開き、企業の出した各課題に対するアイデアを競った。決勝に進出できたのは、各課題に対して1チームずつ選抜された合計30人だ。
審査員のインクルージョン・ジャパン(東京都品川区)の吉沢康弘取締役は、「会社が大きくなるかどうかは大会の順位と関係ない。自分たちが起業して世の中をどう変えられるか想像し、挑戦してほしい」と、参加者にエールを送った。過去3回の大会出場者から、実際に起業した人も出てきている。
楽天もZ世代のアイデアを活かそうと、18年8月から、全国の高校生と同社社員が一緒に地域課題の解決策を考えるプログラムを展開。同年末に都内で開いた発表会では、10校の学生たちがインバウンド(訪日外国人客)や熊本地震からの復興、高齢化地域でのコミュニティーなど、多様な課題へのアイデアを披露した。いずれも楽天のサービスを使った地方創生のアイデアだ。
大賞に選ばれた静岡県の富岳館高校は、地元・富士宮のブランド化につながる農業の取り組みを発表。「富士宮やきそば」は全国で知られる名物だが、富士宮産の野菜は使われておらず、「地元の農業とのつながりがない」と高校生は指摘する。地元の農家の情報を発信するアイデアを考えたが、高齢の農家には難しい。そこで、自分たちでオンライン上の活動を始めた。
高校生のプレゼンを見た小林正忠常務執行役員は、「大人だけが正解を知る時代は終わった」と喜ぶ。地域課題を解決する技術やサービスは海外でもニーズがある。小さな一歩も、世界の課題を解決することにつながる。
Z世代が注目されるのは独創性に富み、全世代を動かす行動力があるからだ。海外では14年にマララ・ユスフザイさんがノーベル平和賞を受賞。米国では銃社会の反対運動をリードする。日本でもワンファイナンシャル(東京都港区)を起業した高校生の山内奏人さんがレシートなどの画像を買い取るスマホソフトを発表し、耳目を驚かせた。
この動きは、Z世代がITスキルやリテラシーの高い「デジタルネイティブ」であることと関係する。ソフトを開発すれば簡単に販売でき、ハード開発も必要な情報や知識をネットから得る。モノづくり自体もデジタル化した。必修化されるプログラミング教育はこの動きを後押しする。
SNSは社会問題などの慎重な話題も扱いやすい。専門家ともつながり、知識を深められる。豊富な知識とノウハウを持つ企業とつながれば、新たなビジネスや社会変革の連鎖が期待される。
(文=梶原洵子)
コミュニケーションに今の家族らしさ
両手に収まるサボテン型デバイスをリビングに。家族に日頃伝えられない「ありがとう」も「ごめんね」も、音楽でラッピングしてサボテンが伝える。すれ違いの多い“砂漠化家族”に潤いを与えたい―。
18年末に都内で開かれた中高生と企業が一緒にモノづくりやコトづくりに挑むコンテスト「モノコトイノベーション2018」の決勝大会。優勝したサボテン型デバイス「Laughie(ラッフィー)」は、宮城県と東京都、神奈川県、大阪府の女子中高生4人のチーム「今を翔(かけ)る少女。」が考案した。
アイデアや試作モデル、熱のこもった発表のいずれの完成度も高いと評価された。リビングに置いた親機のサボテンに音声メッセージを録音。スマホで伝えたい相手や自分の気持ちを設定する。相手が近づいた時、音声メッセージと気持ちに合わせた音楽をサボテンが再生する。相手がメッセージを聞けば、自室に置いた子機が光って教える。
このコンテストは、企業の持つ課題に対し、中高生らがチームを組んでアイデアを発想。これをもとに、勝ち残った8チームが企業と一緒に約4カ月かけて試作モデルを完成させ、決勝で披露した。デンソーやダイヤモンドメッキ技術を持つジャスト(山形県上山市)などが参加した。
家族に素直な気持ちを伝えるのが気恥ずかしいのは昔も同じだが、今どきの家族ならではの事情もある。メンバーの1人は、「生活時間帯が違い、家族がリビングに集まらない」と話す。LINEのやりとりは、「家族のように近い存在の人ほど、簡単に済ませて、素っ気なくなる」。そこで声と音楽を使うことを思いついた。
『大人の事情』を持ち出さない
同チームと組んだカシオ計算機の担当者は、「最初は学生にメーカーの開発プロセスを知ってほしいという“上から目線”の気持ちもあった。実際は教えられることの方が多かった」と振り返る。
企業の商品開発では多くの人が関わり、さまざまな制約がある。「普段は“大人の事情”でやれないことも、この4カ月は中高生たちの『やりたい』という気持ちに向き合った」(カシオ)。
他チームも、中高生ならではのアイデアと企業の技術をうまく組み合わせた。2位の「NEW CREATE(ニュークリエイト)」は、本田技術研究所とタッグを組み、通学時に教科書などの重い荷物を載せ、学生の歩く斜め前を走行する小型モビリティー「LIGHT(ライト)」を提案した。
あえて徒歩、に価値
審査員を務めたデザイナーの長谷川哲士氏は、「徒歩通学をすること自体は変えていないことに感銘を受けた」という。人の移動を楽にするモビリティーは乗り物が多い。同チームの調査では、中高生は平均10キログラムの荷物を持って通学するというが、乗り物で移動を楽にするより、「友だちと話をしながら通学するのも大事な時間」と考えた。
個人で所有せず、駅前でのレンタルを想定。すぐ荷物を手に取れる高さと走行位置、荷物の大きさに合わせて伸縮できる天板のデザインを工夫した。
コンテストは今回で4回目。約500人の応募者から275人を選抜して予選を開き、企業の出した各課題に対するアイデアを競った。決勝に進出できたのは、各課題に対して1チームずつ選抜された合計30人だ。
世の中を変える挑戦
審査員のインクルージョン・ジャパン(東京都品川区)の吉沢康弘取締役は、「会社が大きくなるかどうかは大会の順位と関係ない。自分たちが起業して世の中をどう変えられるか想像し、挑戦してほしい」と、参加者にエールを送った。過去3回の大会出場者から、実際に起業した人も出てきている。
楽天もZ世代のアイデアを活かそうと、18年8月から、全国の高校生と同社社員が一緒に地域課題の解決策を考えるプログラムを展開。同年末に都内で開いた発表会では、10校の学生たちがインバウンド(訪日外国人客)や熊本地震からの復興、高齢化地域でのコミュニティーなど、多様な課題へのアイデアを披露した。いずれも楽天のサービスを使った地方創生のアイデアだ。
大賞に選ばれた静岡県の富岳館高校は、地元・富士宮のブランド化につながる農業の取り組みを発表。「富士宮やきそば」は全国で知られる名物だが、富士宮産の野菜は使われておらず、「地元の農業とのつながりがない」と高校生は指摘する。地元の農家の情報を発信するアイデアを考えたが、高齢の農家には難しい。そこで、自分たちでオンライン上の活動を始めた。
Z世代の独創性、全世代を動かす
高校生のプレゼンを見た小林正忠常務執行役員は、「大人だけが正解を知る時代は終わった」と喜ぶ。地域課題を解決する技術やサービスは海外でもニーズがある。小さな一歩も、世界の課題を解決することにつながる。
Z世代が注目されるのは独創性に富み、全世代を動かす行動力があるからだ。海外では14年にマララ・ユスフザイさんがノーベル平和賞を受賞。米国では銃社会の反対運動をリードする。日本でもワンファイナンシャル(東京都港区)を起業した高校生の山内奏人さんがレシートなどの画像を買い取るスマホソフトを発表し、耳目を驚かせた。
この動きは、Z世代がITスキルやリテラシーの高い「デジタルネイティブ」であることと関係する。ソフトを開発すれば簡単に販売でき、ハード開発も必要な情報や知識をネットから得る。モノづくり自体もデジタル化した。必修化されるプログラミング教育はこの動きを後押しする。
SNSは社会問題などの慎重な話題も扱いやすい。専門家ともつながり、知識を深められる。豊富な知識とノウハウを持つ企業とつながれば、新たなビジネスや社会変革の連鎖が期待される。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2019年1月17日掲載