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企業がけん引する「新しい東京」

世界へつながるエコシステムに
企業がけん引する「新しい東京」

渋谷のスクランブル交差点

 東京都は迫る東京五輪・パラリンピックの成功に向けた施策や、築地市場の豊洲市場への移転などに取り組む一方、女性活躍や女性起業家の育成・支援も加速するなど「新しい東京」の実現に向け、施策を進めるている。

 小池百合子知事は、「東京の経済を支えているのは99%が中小企業。都として長年にわたっていろんなコンサルに総合的に応じていく」と企業支援、中でも中小への支援の重要性を改めて強調する。

 小池都政の産業施策としてはまず、創業支援が挙げられる。都が支援の目玉として2017年1月に東京・丸の内に開設したスタートアップ拠点「TOKYO創業ステーション」の登録者数は6月末時点で累計1万6998人、相談人数同1万345人と想定以上だ。

 同拠点では、アイデアから事業化まで一連の創業過程を疑似体験できる3カ月間の無料プログラム「トーキョードカン」も実施しており、学生を含め累計138人が参加するなど、起業する人の裾野を着実に広げている。

 都市の活力のバロメーターとも言える企業の開業率をみると、17年度の都内開業率は5・9%。全国平均より0・3ポイント高いものの、開業率10%台の米英などの主要都市に比べるとまだまだ低く、開業率の引き上げに力を注ぐ。

ロボット・医療など成長促す


 一方、製造業向け施策では引き続きロボットや医療機器、航空機産業など成長産業分野の支援に取り組む。

 4年目に入った東京都ロボット産業活性化事業では、東京都立産業技術研究センターの公募型共同研究で28件が採択。このうち、ウィル(横浜市鶴見区)の「パーソナルモビリティ」など5件が製品・事業化された。

 また、2月にシンガポールで開かれた航空ショーでは、東京圏の中小企業コミュニティー「TMAN」ブースの出展・商談指導をし、「参加企業合計で過去最高の80件の商談マッチングをした」(産業労働局商工部)と手応えを感じた。

 次に中小の事業承継への取り組み。東京都中小企業振興公社では、17年度から大企業OBら専門相談員が個別に企業を巡回した際、そのまま相談に応じられる仕組みに変えるなど、支援を強化。17年度は前年度比2倍強にあたる267社の新規相談に応じた。18年度は巡回相談員数を前年度比3倍の30人に増やした。

外国企業も興味


 さらに外国企業誘致にも積極的に動く。政府の国家戦略特区制度に基づき、東京特区に業務統括拠点や研究開発拠点を設置もしくは、3年以内に設ける外国企業数は、18年3月末で約100社。これをさらに増やす。

 昨年5月には、海外企業の誘致拠点「Access to Tokyo」をシンガポールに開設し、これで拠点はロンドン、米サンフランシスコ、パリの4カ所になった。

 それも奏功し、海外スタートアップ企業向け育成プログラム「ビジネスキャンプ東京」への18年度応募数は、金融系・非金融系の2分野合計で17年度実績の150社を上回った。支える側の、国内大手企業を中心としたメンター企業数も18年度は非金融系分野だけで20社へと倍増。「国内の大企業も、オープンイノベーションの必要性、理解が進んできている」(政策企画局調整部)とみる。

 キャンプ参加企業で仏企業のシフトテクノロジーは、1月に日本法人を千代田区に設立した。三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損保と協業済みで、早くも実績が出始めている。

日刊工業新聞2018年8月2日


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 世間をにぎわすゾゾタウンやメルカリなどのニュースを見るにつけ、日本でもようやくベンチャー、スタートアップ(新しい技術やビジネスモデルをもとに短期間に急速な成長を遂げる新興企業)が生まれ、それを受け入れる文化が根付いてきたと感じる今日このごろ。とはいえ、世界で戦えるスタートアップはまだまだ少ないのが実情だ。

 そうしたことから、経済産業省ではスタートアップの海外展開やユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の非上場企業)創出を含め、有力スタートアップの集中支援プログラム「J-Startup(ジェイ・スタートアップ)」を開始した。その第1弾の支援対象に92社を選定している。

 では、なぜ世界に通じるスタートアップが必要なのか。米国や中国を見回してみればいい。IT分野をはじめ新興企業が次々と登場し、グローバル展開を果たしながら、例えば中国・ファーウェイ(華為技術)のように既存の大企業の存在を脅かすまでに急成長している。

 それに対し、日本は大企業信仰が根強い。大企業発のイノベーションもあるにはあるが、それまでの成功体験があだとなり、現状をひっくり返すような製品やサービスは生み出しにくい。優秀だが常識的な人材を抱えた大企業型の組織形態では経営判断に時間がかかる上、リスクが高く、うまくいくかどうか分からない案件に挑戦するモチベーションがそもそも保ちにくい環境にある。

 「日本は新しい産業を作れる人材も、トップレベルの研究者も多くはない。世界競争の中でどうやって日本の未来を作っていくかが課題だ」。9月11日に都内で開かれた「デロイト トーマツ イノベーションサミット」に登壇した経産省産業資金課長兼新規事業調整官の福本拓也氏は、こうした危機感がJ-Startup立ち上げにつながったことを明らかにした。

 ただ、常識外れのスタートアップを生み出すには、常識外れの環境づくりも欠かせない。フリマ(フリーマーケット)アプリで人気のメルカリの小泉文明社長兼最高執行責任者(COO)は「海外ではアマゾンでも中国企業でもグロース(成長)を重視する。トップライン(売上高)を伸ばすのがすべて、という意識を日本でも広げていきたい」と力説する。

 小泉社長によれば、日本国内の機関投資家から寄せられる質問は「いつになったら利益が出るのか」という目先の話が多く、将来の成長に向けた有益なディスカッションになりづらいという。日米欧で医療用ロボットスーツなどを展開するサイバーダインの山海嘉之社長も「海外の機関投資家に聞かれるのは企業のビジョンなのに対し、日本ではいつ黒字化するのかという話ばかり」と、投資家とのビジョンの共有の大切さを訴えた。

 電気自動車(EV)メーカーの米テスラは、低価格セダン「モデル3」の量産にてこずった上、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)のツイッターでの不用意なつぶやきから、経営危機までささやかれる事態に見舞われた。黒字転換も視野に入ってきているようだが、業績はいまだに赤字のまま。それでも時価総額は米ビッグスリーを優に上回る。投資家は現在の利益ではなく、将来の成長性を見て、それが株価を押し上げているのだ。

 「まずは利益を」と小さくまとまるスタートアップが、世界の強豪相手に戦えるわけがない。J-Startupの支援企業に限った話ではないが、世界に羽ばたき、世界を変えるスタートアップと関係者の頑張りに期待したい。
(文=藤元正)

日刊工業新聞2018年10月4日



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