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森川亮が積み上げてきた「シンプルな哲学」

「企業にはそれぞれ課題があるが、結局ヒット商品を出すことで経営環境は変わる」(森川氏)
森川亮が積み上げてきた「シンプルな哲学」

森川氏

 ―初著作ですがとても分かりやすいうえ、本質的でユニークなことが書かれています。「差別化は考えない」、「イノベーションは目指さない」とか。一番伝えたかった部分は。
 「必要ないものは載せないように書いたのでどれも意味がある。『ここだけ抜き取ってやります』だと、社内も混乱する。実践して行く上で最も難しいのは、全部セットで進めていくこと」

 ―森川さんは「未来」に楽観的ですね。
 「日本人は先が見えないことをすぐ批判する。計画がないとか、社長のビジョンがないとか。そんなのはどうでもいい。大切なのは個人がどう考え、行動するか。その結果として未来がある。コスト削減より、未来に投資して成長する方が日本のためになる」

 ―企業が成長するにはヒット商品が欠かせません。
 「企業にはそれぞれ課題があるが、結局ヒット商品を出すことで経営環境は変わる。ではどうすればヒット商品が生まれるかといえば、社長や上司の評価を得るためではなく、徹底的にユーザー目線になるしかない。中間管理職が出世を考えている組織から、絶対にヒット商品は出ない」

 ―本の中でも「経営は管理ではない」という言葉があります。
 「大量生産で価値が創出できる時代ではない。新しい価値観を大切に、ある程度任せながら自由にやらせた方がイノベーションが生まれやすい。すごい人は空気を読まずに突き進む。『空気を読む人』は、ささいなことに気をつかって本質を見ていない。その瞬間、誰かを傷つけても、正しい選択をすることの方がよっぽど重要。空気を読んでいけないのは経営者も同じ。”優しい経営“と見られたら意思決定が難しくなる」

 ―森川さんをみてると、思考も行動も柔軟だな、と感じます。
 「変なこだわりがないので。『シンプルに考える』は僕の信条で。悩むことをやめたとも言える。あれも大事、これも大事とリソースを分散させると、ユーザーニーズという本質に応えることができない。役職や年齢に関係なく、能力と情熱のある人が、リーダーシップを発揮し、他社より早くサービスや商品を出すことに徹するべきだ」

 ―社員の企画や提案はどのように選別し、見分けるんですか。
 「独りよがりではまずいが、そのサービスや商品を『これは絶対に面白い、必ずいける!』という実感が本人にあるかどうか。単なる数字を積み上げたプランは深みがない。新事業はアイデアを出すことではない。それを見抜くのもトップの役割」

 ―本に書かれていることはLINEの社長になってから、言葉としてまた行動として整理できるようになったんですか。
 「社長になる前と社長になった後でずいぶん変わった。ナンバー2や3の人は、事業をうまくやれば会社を経営できると思いがち。いざ社長になると事業はほんの一部で、『経営』とはどういうことなのか、ということとしっかり向き合わないといけない。そこからすごく学びがある」
 (聞き手=明豊)
 <プロフィール>
 C Channel社長・森川亮(もりかわ・あきら)
 筑波大卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピューターシステム部門に配属。ソニーを経て2003年にハンゲーム・ジャパン(現LINE)入社、07年に社長に就任。15年3月社長を退任し動画メディアを運営するC Channelを設立。神奈川県出身、48歳。
 『シンプルに考える』(発行=ダイヤモンド社刊 発売=2015年5月 価格=1,500円+消費税)
日刊工業新聞2015年08月03日 books面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ニュースイッチではかれこれ3~4回、森川さんのことをフィーチャーした記事を掲載している。噛めば噛むほど味が出る、するめのような経営者である。

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