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大都会・新宿で星空が見える?!技術が広げる双眼鏡の可能性

競馬実況の七つ道具にも
大都会・新宿で星空が見える?!技術が広げる双眼鏡の可能性

天の川Ⅰ(撮影:成澤広幸氏)

 双眼鏡は、コンサートでアイドルの姿を追いかけたいファンからの人気に続き、新たな利用の可能性を模索し始めた。似たような形のものでも、レンズの大きさやコーティングなどの違いによって、異なる特徴を持たせられる。

メガネのような双眼鏡


 「新宿の街中でも、双眼鏡で淡い星が見えるんですよ」。ビクセン(埼玉県所沢市)総合管理室マーケティングチームの坂口直史係長はこう言って、見慣れない形の双眼鏡を差し出した。厚みは5センチメートルほど。双眼鏡というよりも、大昔の鼻眼鏡を厚くしたような印象だ。

 この星空観察用双眼鏡「SG2・1×42」は、対物レンズの有効径42ミリメートルと大きく、薄型。倍率は2・1倍のため、6-10倍程度の通常の双眼鏡に比べて広範囲が視界に入り、開放感がある。星座の星の並びやその中にある星雲などを観察でき、郊外の暗い夜空けでなく都会でも星空を楽しめるという。

 ガリレオ式という光学系を採用したことで、低倍率だが薄型の双眼鏡にできた。通常の双眼鏡は、対物レンズも接眼レンズも凸レンズで、そのままでは像がひっくり返るため、間にプリズムを配置している。ガリレオ式は対物レンズに凸レンズ、接眼レンズに凹レンズを使っているため、プリズムが必要なく、薄くできる。

 坂口係長は「星空観察以外にも、用途を特化した双眼鏡を強化していきたい」と話す。ビクセンはスポーツ観戦用や、和装と合わせやすいデザインの双眼鏡も販売している。「アリーナスポーツM8×25」は、ナイター照明などで発生するゴースト・散乱光を軽減する特殊なコーティングをレンズに施した。この散乱光は、通常は高価な双眼鏡ほど発生しやすい。都築泰久取締役企画部長は「スポーツ観戦用途は大きなビジネスチャンスがある」と期待する。

 コーティングの違いによって、レンズに取り込める光の量も変わり、像をより明るく見ることもできる。コーティングは双眼鏡の機能を高める名脇役だ。

Made in Saitamaにこだわったビクセンの「SG2.1×42」

何パターンも試した手ぶれ補正


 キヤノンのイメージコミュニケーション事業本部ICB光学事業部の家塚賢吾課長も、「『パワードIS』で手ぶれ補正機能を大幅に進化させたが、これで我々が止まるわけがない。より多くの人に喜んでもらえる製品を作りたい」と、双眼鏡の進化へ意欲を語る。用途特化型の製品開発を進めるビクセンに対し、キヤノンは防振双眼鏡に特化し、レンズの有効径と倍率によって選びやすいラインアップ。そこに、より強力に手ぶれをピタッと止める「パワードIS」や、防水仕様・全天候仕様を用意している。

 当面、まだまだ防振双眼鏡の知名度を上げる必要があると見ており、「手ぶれ補正の認知を広げたい。体験が増えれば、自ずと利用者は増える」(同部の島田正太氏)という。意外にも、手ぶれ補正機能は星空観察にも役立つ。見えにくかった星雲をはっきり見ることができる。競馬場で馬の毛並みもよく見えるため、競馬実況者の七つ道具として紹介されたこともある。

 また、ひとくちに手ぶれ補正と言っても、キヤノンは「どんな手ぶれ補正か」に、並々ならぬ情熱を注ぐ。パワードISは大きな手ぶれも消すため、ゆっくり動いている時と手ぶれの判別が難しい。「手ぶれ補正の制御は何パターンもつくり、男性も女性もいろいろな人が試して、違和感なく見られるようにした」(島田氏)。

 ビックカメラ新宿西口店(東京都新宿区)でカメラコーナーを担当する荻山麻美主任も、双眼鏡ユーザーの一人。「8―10倍の倍率なら月のクレーターも見える。花火も普通では難しいほど大きく見えて感動する」と、多様な双眼鏡の楽しみ方を提案する。

 年末はコンサート開催が多く、冬場は星空も観察しやすい。メーカーのこだわりを知って双眼鏡をのぞけば、一層楽しくなりそうだ。

関連記事:バーチャル時代に“リアル”の逆襲、双眼鏡ブームはなぜ続く?

キヤノンの島田氏(左)と家塚課長

ビクセンの坂口係長(左)と都築取締役
ニュースイッチオリジナル
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
似たような形に見えても、双眼鏡は違う役割を持たせることができ、進化しています。

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