水資源有効利用の切り札「ネットゼロウォーター」が日本上陸

ネットゼロウォーター研究会、2月15日に都内でセミナー開催

 水道事業民営化法が2018年12月に成立し、日本の水事情が大きく変わろうとしている。水を多用する工場などは料金高騰や水質維持などの点で不安を募らせていることだろう。こうした中で、緑地を使って水資源を再利用する「ネットゼロウォーター」の普及を目指す持続可能な水資源利用の取組みが始まった。2018年6月に地盤工学会元会長の末岡徹氏を会長に依頼し、ネットゼロウォーター研究会が発足し、2月15日には赤坂インターシティAIRで第1回セミナーを開く。研究会メンバーの1人である、日比谷アメニスの坂本哲水事業準備室長に海外のネットゼロウォーターの取組みや日本での今後の展開などについて聞いた。

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緑や土壌の力で水を浄化し再利用する


 日比谷アメニスは1872年に東京都葛飾区堀切で始めた庭園業が起源という老舗企業である。母体である日比谷花壇は、戦後、日比谷公園に花卉の小売店舗を出店し、1950年に社名を「日比谷花壇」とした。その内の造園土木部門として1991年に日比谷アメニスが誕生した。当初は公共の公園や緑地の建設を事業とし、現在は、都市や地域のさまざまな緑や緑地空間の提供を手がけている。

「私たちが関わっている緑や緑地に、どのような機能を持たせ、どのような価値を付加していくかは、常に課題として捉えていました。価値の一つとしてグリーンインフラという考え方が出てきて、最初はそれを欧米に見に行き、ネットゼロウォーターの取組みに出会いました」。 ネットゼロウォーターとは具体的には水の収支をゼロにする、一度入れた水を循環し続けるという意味である。今回、米国とカナダを視察した坂本室長は「欧米ではネットゼロウォーターの概念は知れ渡っており、使用した水を再利用することを20年ほど前から始めたようです。進歩している様に衝撃を受けて帰ってきました」と話す。

坂本哲氏

水を使う場所で水を生み出す「人工湿地」


 使用した水をグリーンインフラで使われている浸透型緑地に入れるだけだと地下に水が還るだけではないだろうか。この疑問に対し、坂本室長は「濾過するのです。機械濾過ではなく、緑地部に流し、緑や土壌の力できれいな水に変えて、その水を再利用する。緑と土で浄化するというのが非常におもしろいと思いました。そうすると緑地にも新しい価値が出てくるのです」と説明する。

 おおざっぱにいうと緑地にまいた水を土壌の中を通すことで浄化した後、水を受ける施設に貯めるイメージだ。エネルギーだったら使う場所で、たとえば太陽光発電を使って生み出す。それと同じように、水もその場所で生み出していこうという考え方のようだ。普通は植物に水をまいて土に浸透して終わりだが、そこに別のシステムがあるわけだ。具体的には緑地より深いところに水受けをつくって、そこに水を戻す。坂本室長の視察先ではいろいろなやり方があり、水受けは自然なものもあるし、コンクリートでしっかりつくったものもあるそうだ。「それを緑地と一体型でやっているところに妙があるのです」(坂本室長)。

 水は植物がある程度は浄化してくれるが、ほとんどは土壌の力による。そのため、水を浄化しやすい土を入れているそうだ。「緑が多いところですと、そこ自体が大きな浄化槽になるという形です」(坂本室長)。日本では省エネルギーの話は毎日のようにしているが、“省水”“節水”という話を最近はあまり聞かない。エネルギーは日本にほとんどないから真剣なのだろう。一方、水は無駄遣いがもったいないという感覚はあるが、何となく水は潤沢だというイメージが日本人にはあるのかもしれない。

 坂本室長の話でひとつ気になったのは、たくさん灌水(水やり)すると地面がドロドロになってしまわないかということ。これに対し、坂本室長は「いつも湿地なわけでなく、水位が下がっていけば乾燥します。だから米国では湿地と乾燥に耐える植物を使っていました」と説明する。水に関しては雨水が緑地に集まるように周辺に勾配をつけている。「だから灌水をするところはあまり見なかった」そうだ。こうした仕組みの全体をネットゼロウォーターというわけだが、土壌を通して水を浄化する仕組みを日本では「人工湿地」と呼んでいるそうだ。

 

緑地の多い工場に最適の技術


 ではネットゼロウォーターはどんなところに使うのが有効なのだろうか。坂本室長は「まずは工場」と即答する。工場立地法で緑地比率が面積の20%以上との決まりがあるので、緑地を使うこの仕組みに適しているからだ。「いろいろな提案の方法があります。たとえば水を循環利用する考え方がない場合には、取水と排水の両方にお金がかかっているはずです。そのような状況の場合で水を循環利用することを提案するといいねという話になります」(坂本室長)。大きな工場では水に膨大なお金をかけているところもある。ネットゼロウォーターはそういう工場などにメリットがありそうだ。

 また大工場は緑地面積も当然、広くなり、緑地をつくった後の管理が必要で、何千万単位になることもあるようだ。これは工場の大きな負担になる。「そこで緑地がネットゼロウォーターの仕組みを取り入れれば、負担の軽減になると思う。そういう提案ができるのが1つの強みだと思っています」(坂本室長)。

 大きな工場は地域の顔になっている。働く人にとってもきれいな緑が身近にある方がよいだろう。もともと緑地はそういう役割もあるスペースなのだ。「そのような場所に水という要素が入ることで、より豊かな景観を形成し、工場で働く人たちの憩いの場になれば、これまでに比べさらに生産性を上げるということにもなる。そのような使い方で緑や緑地がコミュニティ空間になっていく、最終的にはそのような方向に持っていきたい」と坂本室長は力説する。

経済・環境・社会の3つの軸を満たす


 ネットゼロウォーターで回収した水の水質は上水と下水の間の中水のレベルになる。米国では灌水や工場の冷却水、トイレなどで一般的に使われているそうだ。「ただし人に触れる部分は消毒がいる。日本では今後、自治体との協議も必要になるでしょう」(坂本室長)。
なかなか興味深い話だが、ネットゼロウォーターの仕組みをつくるコストはどのくらいになるかを知りたいところだ。

 「案件が出てきてから精査しないと何とも言えませんが、米国の事例を踏まえて計算はしています。経済的には数年で元を取れますが、ネットゼロウォーターを導入される方は環境や社会的な部分といった観点を重視されていると思います。通常の景観や緑の話は見る人や使う人の主観に訴えるところが多かったのですが、ネットゼロウォーターは経済価値の部分もあるので、話がしやすいと思っています」(坂本室長)

 企業がネットゼロウォーターを導入することは単に節水だけでなく、地域社会に対し環境にやさしい視点でやっているというPRにもなりそうだ。また、防災などにも役立つと考えられる。「われわれとしては経済以外の部分に着目していただいた方がよいのですが、経済・環境・社会の3つの軸を総合してそのメリットを感じていただけると、ありがたいと思います」(坂本室長)。

 水道事業民営化法が可決されたが、ネットゼロウォーターを導入すれば、あまり水道に頼らなくてもよくなるかもしれない。坂本室長は「熊本地震で井戸が大活躍しましたが、東京は井戸が掘れないのです。そういう意味では別の水源があることは重要です。オルタナティブな電源とか水源とかは防災の意味ではすごく生きてくるようなシステムだと思います」と防災にも有効と強調する。
(文章=日刊工業新聞論説委員 山崎和雄)
          

 ネットゼロウォーター研究会は2月15日に第1回セミナーを開催する。基調講演は米ポートランド市で持続可能なまちづくりのデザインに携わっている山崎満広氏。ネットゼロウォーターをランドスケープに取り入れるシアトル市の事例をジョナサン・モーリー氏(Berger Partnership)、アジアの事例を近江明氏(office ma)の両氏がランドスケープのデザイナーの視点で講演する。

●イベントの詳細・申し込みはこちらから
https://netzerowater.jp/seminar.html 
「ネットゼロウォーターの可能性‐緑地をつかった水資源の再利用‐」
【日時】2019年2月15日(金)13:00~17:00
【会場】赤坂インターシティコンファレンス
【定員】300名 参加費無料

  

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