ニュースイッチ

【連載】挑戦する地方ベンチャー No.3 FULLER(後編)

迷った時は楽しい方を。チームが会社の強み
**「明日ロンドンに来れるか」
 FULLER代表取締役社長の渋谷修太氏の運命を変えたライフネット生命代表取締役社長兼COOの岩瀬大輔氏との出会いは、本人に会うことでさらにFULLERの運命を変える。2011年の起業前に、岩瀬氏の主催する「起業家塾」に参加した渋谷氏は、プレゼンを気に入られ後日岩瀬氏より連絡を受けた。「ロンドンであるキャピタルが日本IT企業の投資先を探している。明日ロンドンに来れるか」。

 英語でプレゼンもしたことがなかった渋谷氏。だが二つ返事でロンドンに飛び、移動時間内に残ったメンバーは構想段階にあった次期プロダクトのデモを作製。たった48時間でロンドンでのプレゼンにこぎつけたのだ。この働きに感動したキャピタル側は1億の投資をその場で決めた。
 しかし万事が順風満帆にいったわけではない。海外からの資金調達には予想以上に時間がかかったうえ、英語の契約も困難だった。これを乗り切ったのも、岩瀬氏をはじめとする人々のサポートだったという。

 さらにその後も資金調達でピンチに陥る。予定していた調達が破棄になったのだ「あと2週間くらいで潰れる、というところまでいった時に助けてくれたのが、日本交通の川鍋一朗社長と、インフォテリアの平野洋一郎社長。「FULLERのゴキブリのような生命力に賭けるよ」と出資してくれた。

 「ですが、このままやっていてもダメかもしれないという思いがあり、じゃあもう最後にみんなでシリコンバレーに行こう、ということで1カ月間開発合宿を実施しました」。そこで得られたものは3つ。エンジニアと広報の社員2名、投資家だ。「その後も、投資してくれる人はチームを見て即決してくれる人がほとんどで。チームがこの会社の一番の強みだと思います」。

 良いチームを作っていく上で欠かせない採用にあたって、渋谷氏が大事にしていることがある。夢があることと、今のチームの誰も持っていないスキルがあること。「迷った時は楽しい方をやる、というのが会社のカルチャーです。だから、やりたいことや部署異動は本人の希望通りにします」。

柏の葉キャンパスにキャンパスオフィスを


 はじめは筑波大学に近いということでつくばからスタートしたが、どこでも働けるというIT企業の利点を生かし、住みやすく、かといって東京から遠すぎず、ストレスなく仕事に集中できる環境ということで柏の葉キャンパスを選んだ。「柏の葉キャンパスがなんとなくシリコンバレーに似ている気がしたんです。つくばエクスプレスがカルトレインみたいな感じで(笑)」。

 柏の葉キャンパスで三井不動産が展開するインキュベーション施設「KOIL」に、2014年10月から入居している。「3Dプリンターやレーザーカッターがあるモノづくりスペースや、コワーキングスペースに魅力を感じて入居を決めました。また、ベンチャーって人数が増えるときは一気に増えるので、オフィス内でフレキシブルに対応できる点は助かります。クラウドみたいですね」。人数が増えたため5月に増床。現在は社員18人だが、月1人のペースで増えており今年中には30人になる予定だ。

 「最近ではKOILを気に入って、オフィスに来たいと言ってくれるお客さんも増えています。グーグルやフェイスブックの本社も辺鄙なところにありますが来客が多い。僕らも将来、たくさんのお客さんに来たいと思わせるようなキャンパスサイズのオフィスを柏の葉に作りたいですね」。
 地域とのつながりも徐々に増えている。オフィスを作った際には、オフィス会員や企業に机作りを手伝ってもらい、交流会をした。他にもイベントを定期的に行っている。「柏の葉はスマートシティでもあり、実証都市。また、ファミリーから大学関係者、留学生などダイバーシティが意外とあるんです。ここでしかできない事業も行っていきたいと、布石をいくつか打っています」。

 「ローカルに発想し、グローバルに行動する」。これは建築家のバックミンスター・フラーの言葉で、サッカーボール状の正多面体ドームの建築物を造った人物だ。炭素原子60個からなるフラーレンの名前はこの建築物に似ていることに由来し、実はFULLERの社名はフラーレンから取られている。フラーの言葉を実行できる日も近い。
佐藤 史章
佐藤 史章 Sato Fumiaki
高専出身者が中心の優秀なエンジニア集団です。 FULLER社が展開するアプリの使用分析ツールは、スマホ時代のアプリビジネスを乗り切る重要なツールになります。 「アプリをとりあえずは作ったけど・・・」という方々にはぜひ使っていただきたいサービスです!

編集部のおすすめ