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【COP14の論点】企業へ求める生物多様性保全の“主流化”とは

エジプトで開催中の生物多様性COPの要点を解説
【COP14の論点】企業へ求める生物多様性保全の“主流化”とは

東芝キヤリアのタイ拠点ではウミガメを保護している

 国連の生物多様性条約第14回締約国会議(COP14)が17日、エジプトで始まる。日本で生まれた「愛知目標」に代わる次の世界目標を決める準備がスタートする。またCOP14ではメーカーやエネルギー産業などに対し、あらゆる活動に生物多様性(用語参照)を組み込む「主流化」を要請する。モノづくり企業が多い日本の産業界もCOP14を注視する必要がありそうだ。
【用語】生物多様性=種、生態系、遺伝子の多様性が保たれた状態。天然資源の調達、生産で使う水、廃水浄化などは生態系サービスと呼ばれ、企業も恩恵を受けている。

主要議題は“ポスト愛知目標”


 COP14開催地はエジプトの観光地であるシャルム・エル・シェイク。会期は29日まで。主要議題が“ポスト愛知目標”を話し合う検討プロセスの決定だ。現在の世界目標「愛知目標」は2010年、名古屋市で開いたCOP10で採択された。「生物多様性の損失速度を10年までに顕著に減少させる」としていた当時の世界目標が未達となりそうな状況を受け、愛知目標は「損失を止める効果的、緊急な行動を実施する」と踏み込んだ。

 愛知目標の期限は20年までのため、次期目標を20年に中国で開催するCOP15で決める必要がある。COP14後、急速に議論が盛り上がりそうだ。

 次期目標の内容を左右する報告書も19年に相次いで発行される。その一つが、政府間組織のIPBESが19年5月に公表する最終報告書だ。科学的知見から生態系の劣化を評価する。温暖化被害を科学者が予測するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、国際交渉に大きな影響を与えてきた。“生物多様性版IPCC”と呼ばれるIPBESの報告書次第では、次期目標は厳しい内容となるだろう。

 また19年夏には愛知目標の中間評価報告も発表される。14年公表の中間評価では、愛知目標の20の個別目標のうち三つしか達成が見込まれなかった。19年の中間評価も未達が多いと、各国は厳しい対応を迫られる。

 COP14のもう一つの議題が主流化だ。原田義昭環境相は「経済活動における生物多様性の主流化、特に第2次産業を対象にした議論がある」と強調する。主流化とは、あらゆる活動に生物多様性保全を組み込むこと。本会議前の14日に始める閣僚級会合でもメーカーなどの主流化を議論し、宣言を採択する。

 気候変動枠組み条約のCOPでは15年末に「パリ協定」が合意されると、企業に二酸化炭素(CO2)排出の大幅な削減を求める潮流が生まれた。生物多様性でも次期目標が策定されると、企業への生態系保全の要請が強まると予想される。日本企業も生物多様性を主流化しておく必要がある。

 

三菱電機や東芝、身近な工場から意識高める


 エジプトで17日に始まる国連の生物多様性条約第14回締約国会議(COP14)では、あらゆる企業活動に生物多様性保全を組み込む「主流化」を話し合う。食品や建材メーカーであれば事業と生態系との関連を意識しやすい。原材料の天然資源が枯渇し、調達価格が高騰すると経営に打撃となるためだ。資源の節約が生物、事業とも守ることになる。

 一方、天然資源を直接、加工しないメーカーだと主流化は難しい。2010年の「愛知目標」採択以来、電機メーカーも模索を続けてきた。三菱電機は工場を活用し、従業員の意識向上を図っている。活動の一つが、地域の生き物が利用できる緑地の整備だ。工場の植栽は手入れがしやすい樹木が選ばれがちだが、地域の固有種を植えるようにしている。周辺の緑地との連続性が生まれ、鳥や昆虫が飛来するからだ。静岡製作所は開発のため街で切り倒された樹木を引き取って移植した。

 希少種や固有種の保護も活動の一つ。有識者が調査すると、三菱電機の福岡や長崎の拠点でニホンウナギなどの希少種が見つかった。環境推進本部の中野文恵さんは「動植物を見たり、希少種がいたりすると従業員の意欲も沸く」と手応えを語る。

 活動は海外へも広がり、中国では従業員が敷地の植物を撮影し、種類などを調べている。生物の保全が自発的な取り組みとなっているが、課題は継続。環境推進本部の中野博文本部長は「継続のため外部認証を検討するが、活動の狙いはマインド育成にある。認証を目的化してはいけない」と悩む。

 東芝は拠点ごとに指標となる生物を決め、その種の増加などを保全の成果として評価してきた。東芝ライテックは盗掘被害が絶えない多年草のハマカンゾウを工場内に移植。大切に育て生息していた土地に戻した。工場は天敵が侵入する恐れがなく、希少種にとって安全な場所だ。

 社外にも活動を広げている。ジャパンセミコンダクター大分事業所はホタルの幼虫のエサとなる貝を所内で育て、地域の川に放流している。ホタルの生息が確認できるようになり、住民と観賞会を開くまでになった。東芝キヤリアのタイの拠点ではウミガメやサンゴを保護している。

 世界69拠点の活動はホームページで紹介している。環境推進室の福嶋香子さんは「外部との連携や情報発信は従業員のがんばろうという気持ちの醸成になる」と話す。従業員の参加意欲が主流化につながる。メーカーは身近な工場を意識向上の場にできる。
日刊工業新聞 2018年11月14、15日

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