三井物産関係会社で初の女性社長、山から考える「社会と会社」の関係
三井物産フォレスト社長・菊地美佐子氏
「社会と会社」。三井物産広報部に在籍中の2004年、製作した広告コピーだ。「社会(世の中)が健全でないと会社(経営)も持続しない。人、社会があって会社がある。いつも自分にも言い聞かせている」と語る。
三井物産では、主に広報とCSR(企業の社会的責任)に関連する部署を歩んだ。コピーは広報、CSRの両方の視点から生まれた。
新天地の三井物産フォレストは全国74カ所にある三井物産の社有林を管理する。木材需要を創出し、得た収益を広大な森の手入れに回す持続可能な森林経営が社会、グループにも価値をもたらす。「社会と会社」の実践の場だ。
三井物産の関連会社で初の女性社長は「森には何度も行った」という社内きっての“山ガール”でもある。(編集委員・松木喬)
(日刊工業新聞 2018年11月13日掲載)
〈日刊工業新聞 2015年7月22日掲載〉
三井物産は木材需要を喚起して林業を活性化しようと、北海道に木質バイオマス発電所を建設する。木材を売って得た利益は、森を自然な状態に戻す保全に活用する。同社は国土面積の0・1%に相当する森林所有者であり、生物多様性や防災など森の機能を守る社会的責任を負う。林業の活性化と保全を両立する森林経営に取り組み、責任を果たす。
三井物産の森は全国74カ所に約4万4000ヘクタールある。生物多様性の価値が高いなど、森の状態を細かく区分して管理している。人手が入る人工林は全体の40%。木材利用のためにまとめて木を切り出して苗を植える循環林と、伐採後に自然に戻す天然生誘導林がある。
北海道十勝郡の石井山林では木材になる木だけを切り、後は種が発芽して育つのを待つ天然更新に取り組む。2011年の石井山林の取得時、所有者から天然更新も引き継いだ。木の成長した姿を思い描き、太陽光の注ぎ方まで計算して切る木を選ぶ。社有林・環境基金室の近藤大介室長は「経験が求められるため、恐る恐る切っている」と話す。
全国で放置された人工林が問題となっている。戦後、安い輸入材が入ると林業が衰退。人の手が入らなくなると木々が密集して幹は細くなり、土壌の保水力が落ちて土砂災害を起こしやすくなった。樹種は杉に偏り、生物多様性も失われた。
ドイツの林業は天然に近い人工林でも利益が出ており、保全と経営が両立されている。ドイツ型の天然更新は理想だが、非効率なためすべての山に展開できない。
一番の解決策は林業の活性化であり、国産材の利用を増やす「出口戦略が重要」(近藤室長)。同社は、木材を切り出す循環林で得た利益を天然生誘導林や天然林の管理にあてる持続的な森林経営に取り組んでいる。
地元企業などと共同で北海道苫小牧市に建設する木質バイオマス発電も出口戦略。16年に出力5800キロワットで稼働すると、燃料の3分の1は社有林の木材を使う計画だ。
20年の東京五輪にも期待する。12年のロンドン五輪では適切な管理を示す「FSC認証」を取得した森の木材が使われた。同社はすべての森でFSC認証を取得している。大木貴嗣室長補佐は「東京五輪でも認証材を使い世界にPRしてほしい。国産材の需要が増えるきっかけになる」と語る。
(文=松木喬)
三井物産では、主に広報とCSR(企業の社会的責任)に関連する部署を歩んだ。コピーは広報、CSRの両方の視点から生まれた。
新天地の三井物産フォレストは全国74カ所にある三井物産の社有林を管理する。木材需要を創出し、得た収益を広大な森の手入れに回す持続可能な森林経営が社会、グループにも価値をもたらす。「社会と会社」の実践の場だ。
三井物産の関連会社で初の女性社長は「森には何度も行った」という社内きっての“山ガール”でもある。(編集委員・松木喬)
【略歴】きくち・みさこ 84年(昭59)早大第一文学卒、同年三井物産入社。15年環境・社会貢献部長、千葉県出身、57歳。10月1日就任。(東京都中央区日本橋本町3の3の6)
(日刊工業新聞 2018年11月13日掲載)
三井物産の森林経営とは?
〈日刊工業新聞 2015年7月22日掲載〉
三井物産は木材需要を喚起して林業を活性化しようと、北海道に木質バイオマス発電所を建設する。木材を売って得た利益は、森を自然な状態に戻す保全に活用する。同社は国土面積の0・1%に相当する森林所有者であり、生物多様性や防災など森の機能を守る社会的責任を負う。林業の活性化と保全を両立する森林経営に取り組み、責任を果たす。
三井物産の森は全国74カ所に約4万4000ヘクタールある。生物多様性の価値が高いなど、森の状態を細かく区分して管理している。人手が入る人工林は全体の40%。木材利用のためにまとめて木を切り出して苗を植える循環林と、伐採後に自然に戻す天然生誘導林がある。
北海道十勝郡の石井山林では木材になる木だけを切り、後は種が発芽して育つのを待つ天然更新に取り組む。2011年の石井山林の取得時、所有者から天然更新も引き継いだ。木の成長した姿を思い描き、太陽光の注ぎ方まで計算して切る木を選ぶ。社有林・環境基金室の近藤大介室長は「経験が求められるため、恐る恐る切っている」と話す。
全国で放置された人工林が問題となっている。戦後、安い輸入材が入ると林業が衰退。人の手が入らなくなると木々が密集して幹は細くなり、土壌の保水力が落ちて土砂災害を起こしやすくなった。樹種は杉に偏り、生物多様性も失われた。
ドイツの林業は天然に近い人工林でも利益が出ており、保全と経営が両立されている。ドイツ型の天然更新は理想だが、非効率なためすべての山に展開できない。
一番の解決策は林業の活性化であり、国産材の利用を増やす「出口戦略が重要」(近藤室長)。同社は、木材を切り出す循環林で得た利益を天然生誘導林や天然林の管理にあてる持続的な森林経営に取り組んでいる。
地元企業などと共同で北海道苫小牧市に建設する木質バイオマス発電も出口戦略。16年に出力5800キロワットで稼働すると、燃料の3分の1は社有林の木材を使う計画だ。
20年の東京五輪にも期待する。12年のロンドン五輪では適切な管理を示す「FSC認証」を取得した森の木材が使われた。同社はすべての森でFSC認証を取得している。大木貴嗣室長補佐は「東京五輪でも認証材を使い世界にPRしてほしい。国産材の需要が増えるきっかけになる」と語る。
(文=松木喬)