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“親孝行”だったのに…東京海上に再保険子会社の売却を迫った変化

トキオ・ミレニアム・リーを約1685億円で再保険大手に
“親孝行”だったのに…東京海上に再保険子会社の売却を迫った変化

海外では元受保険事業に経営資源を集中する(東京海上日動本社)

 東京海上ホールディングス(HD)が欧州の再保険子会社トキオ・ミレニアム・リー(TMR)を約1685億円で英領バミューダ諸島の再保険大手に売却することを決めた。東京海上HDにとって、TMRは年間100億円規模の利益を安定して上げてきた“優等生”であり、海外に事業基盤を広げる契機となった戦略上重要なグループ会社だ。「再保険市場を取り巻く環境が変化している」。永野毅社長は日刊工業新聞の取材に対し、売却の理由をこう語った。売却決断の背景を探る。

 2017年12月期は、米国の大型ハリケーンで保険金の支払いがかさんで当期赤字を余儀なくされたTMRだが、00年の設立以来、グループへの利益貢献は計約1300億円にのぼるなど“親孝行”を続けてきた。

 TMRには東京海上HDの海外展開の潮目を変えた立役者の側面もある。同社は90年代、過去の米保険事業の撤退などが尾を引き、海外進出に慎重だった。当時、企業商品業務部長だった隅修三会長らが危機感を抱き、TMRの立ち上げと育成を主導。TMRの成長に弾みを付けた同社は08年の英キルンを皮切りに大型買収を相次いで実施し、海外事業の再構築を進めた。

 永野社長がTMR売却の理由に挙げた「環境の変化」とは、緩和マネーの流入で拡大する再保険市場の現状を指す。再保険は「保険の保険」と呼ばれ、保険会社が責任を他の保険会社に補填させるもので、自然災害など比較的大きなリスクを引き受けることが多い。保険料率は本来、リスクに見合ったものとなるが、年金基金などの緩和マネーが市場に流れ込んで、競争が激化し、自然災害が頻発する中でも保険料率は横ばいで推移。収益性の低下を招いている。

 東京海上HDは再保険市場の動向を見据え、TMRに稼ぐ力があるうちにバミューダ市場の代表企業であるルネサンス・リー・ホールディングスに売却し、同社と関係強化を図ることが先決だと判断したようだ。

 TMRの売却に向かわせたもう一つの要素が、大型買収で強化した海外の元受保険事業だ。東京海上HDは国内市場の縮小を海外事業の拡大で補う戦略を採るが、得意とする元受保険事業を伸ばす中で、再保険事業の縮小が戦略に与える影響は軽微と判断した。実際、海外からの正味収入保険料に占める再保険は現在10%弱まで低下している。TMRの売却でこの割合はさらに3%程度まで引き下がる見通しだ。

 「先進国、新興国の双方で、収益性が高く安定した元受保険事業をさらに拡大し、よりリスク分散の効いた事業ポートフォリオを構築していきたい」と永野社長は今後の展開を語る。

 業界最大手の一手を受けて、次の焦点は競合他社に移る。SOMPOホールディングスと三井住友海上火災保険がそれぞれ海外子会社で再保険を展開するほか、あいおいニッセイ同和損害保険は本体で再保険を引き受ける。ある業界関係者は、「海外の再保険は実入りが読みにくい事業になりつつあるが、海外比率が低い日系企業ほどこの重要な収益源は手放せない。たちまち縮小に動く可能性は低く、保険料率の上昇までじっと待つのでは」と指摘する。再保険事業をめぐる損保の動向に注目が集まる。
(文=小野里裕一)
日刊工業新聞2018年11月2日

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