METI
スマート工場は日本のお家芸
現場力を重視、人間中心で機械と協働
IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)が引き起こす第4次産業革命により、モノづくりが大きく変わりそうだ。デジタル技術で情報(サイバー)とモノ(フィジカル)を高度に融合させる次世代システムが、国内外で構想されている。カイゼン活動など現場の力で競争優位を保ってきた日本企業にとっては、負けられない領域だ。ビッグデータの活用や人とロボットの協働など、先進的な事例も現れ始めている。
琵琶湖の東岸に広がる滋賀県草津市。市の中心部に位置するオムロンの制御機器工場は、生産データを有効利用する国内屈指の“スマート工場”として知られる。
内部にセンサーを設けた電子部品実装機など複数の機械で、制御機器に使われるプリント基板の実装ラインを構成。次々と流れる基板一枚一枚の通過を複数地点で検知し、“いつどの位置にあったか”を記録できるようにしている。生産を見える化し、ムダなどがあればすぐに発見・対応できるようにすることが狙い。2014年に取り組みを開始して以来、生産性は30%以上改善した。
こうしたモノづくりのIT化は、世界的なトレンドだ。ドイツ政府は、産業施策の中長期戦略「インダストリー4・0(I4・0)」でデジタル技術を徹底活用する「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」を提唱。ITシステムと現場の円滑な連携により、飛躍的な効率化やマスカスタマイゼーション(個別大量生産)などを実現させる構えだ。既にシーメンスやロバート・ボッシュなど有力企業が、先進事例を生み出し始めている。
また、米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)などが産業用IoTの標準化団体「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」を推進。さらに中国、フランスでは各政府がI4・0に通じる戦略を始動させるなど、国家も絡む大きな潮流になりつつある。
日本でも国レベルでの動きが活発化している。経済産業省は第4次産業革命が進む中で、目指す社会像である「ソサエティ5・0」(超スマート社会)を実現する産業のあり方として新戦略「コネクテッドインダストリーズ」を3月に発表。オムロンのような先進事例を支援しつつ、国際標準化などの取り組みも強化し、モノづくりの次世代化をリードする構えだ。
コネクテッドインダストリーズは、人間中心の考え方を特徴とする。「ドイツはシステム的なアプローチに強みを有する。一方、わが国としては臨機応変な課題解決力、継続的なカイゼン活動などに強みがあり、これらが活かせる産業のあり方を目指していく」と徳増伸二製造産業局参事官は解説する。
モノづくりにおいては、日本が得意としてきた現場力を重視する方針。構想の実現に向けては、単に機械がIT化するだけでなく、人と機械の円滑な連携が重要なテーマとなる。
山梨県忍野村、産業用ロボット大手のファナックは、射出成形機の製造で自社製ロボットと人が協力する仕組みを構築している。対象はボールネジに軸受を圧入する工程。10キログラム以上あるボールネジをロボットが運搬・保持し、作業者は軸受のセットや圧入機の操作などを担う。負担のかかる作業から人を解放し、得意とするより細かい仕事に専念させることが狙い。
人とロボットが接触すると即座にモーターが停止するなど、高度な安全機能が両者の共存を可能にした。ファナックはこの機能を“緑の”次世代ロボット「CRシリーズ」に適用し、商品化。スマート工場の構成要素として、さらなる普及が見込まれる。
ファナックの例に限らず、これまで主に分業してきた人と機械が近づく上で、ロボットは重要な役割を担うかもしれない。機械ではあるが、人のように柔軟で汎用的な動きが可能。より専用的な機械と人の間で、橋渡し役として活躍できそうだ。
幸い、日本はロボット分野で世界をリードする存在。産業用ロボットの世界市場では、ファナックや安川電機など日本企業が上位に君臨する。それだけに、人と協働できる次世代ロボットの利活用は、日本が変革を主導できる領域として有望だ。
経産省はオムロンやファナックのような大企業だけでなく、国内企業の9割以上を占める中小企業にも第4次産業革命への対応を促す方針。このため全国各地の自治体、経済団体、大学などを対象に、製造現場でロボット化やIoT化を指導できる人の育成・派遣を支援する取り組み「スマートものづくり応援隊事業」を開始した。
2017年4月には愛知県幸田町、北九州産業学術推進機構、さいたま市産業創造財団、山形大学など21件を採択。各採択先が地域の拠点認定機関となり、地場企業によるロボットやIoTの導入を後押しする仕組みだ。
琵琶湖の東岸に広がる滋賀県草津市。市の中心部に位置するオムロンの制御機器工場は、生産データを有効利用する国内屈指の“スマート工場”として知られる。
内部にセンサーを設けた電子部品実装機など複数の機械で、制御機器に使われるプリント基板の実装ラインを構成。次々と流れる基板一枚一枚の通過を複数地点で検知し、“いつどの位置にあったか”を記録できるようにしている。生産を見える化し、ムダなどがあればすぐに発見・対応できるようにすることが狙い。2014年に取り組みを開始して以来、生産性は30%以上改善した。
国家で戦略競う
こうしたモノづくりのIT化は、世界的なトレンドだ。ドイツ政府は、産業施策の中長期戦略「インダストリー4・0(I4・0)」でデジタル技術を徹底活用する「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」を提唱。ITシステムと現場の円滑な連携により、飛躍的な効率化やマスカスタマイゼーション(個別大量生産)などを実現させる構えだ。既にシーメンスやロバート・ボッシュなど有力企業が、先進事例を生み出し始めている。
また、米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)などが産業用IoTの標準化団体「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」を推進。さらに中国、フランスでは各政府がI4・0に通じる戦略を始動させるなど、国家も絡む大きな潮流になりつつある。
日本でも国レベルでの動きが活発化している。経済産業省は第4次産業革命が進む中で、目指す社会像である「ソサエティ5・0」(超スマート社会)を実現する産業のあり方として新戦略「コネクテッドインダストリーズ」を3月に発表。オムロンのような先進事例を支援しつつ、国際標準化などの取り組みも強化し、モノづくりの次世代化をリードする構えだ。
コネクテッドインダストリーズは、人間中心の考え方を特徴とする。「ドイツはシステム的なアプローチに強みを有する。一方、わが国としては臨機応変な課題解決力、継続的なカイゼン活動などに強みがあり、これらが活かせる産業のあり方を目指していく」と徳増伸二製造産業局参事官は解説する。
モノづくりにおいては、日本が得意としてきた現場力を重視する方針。構想の実現に向けては、単に機械がIT化するだけでなく、人と機械の円滑な連携が重要なテーマとなる。
ロボット王国の面子にかけて
山梨県忍野村、産業用ロボット大手のファナックは、射出成形機の製造で自社製ロボットと人が協力する仕組みを構築している。対象はボールネジに軸受を圧入する工程。10キログラム以上あるボールネジをロボットが運搬・保持し、作業者は軸受のセットや圧入機の操作などを担う。負担のかかる作業から人を解放し、得意とするより細かい仕事に専念させることが狙い。
人とロボットが接触すると即座にモーターが停止するなど、高度な安全機能が両者の共存を可能にした。ファナックはこの機能を“緑の”次世代ロボット「CRシリーズ」に適用し、商品化。スマート工場の構成要素として、さらなる普及が見込まれる。
ファナックの例に限らず、これまで主に分業してきた人と機械が近づく上で、ロボットは重要な役割を担うかもしれない。機械ではあるが、人のように柔軟で汎用的な動きが可能。より専用的な機械と人の間で、橋渡し役として活躍できそうだ。
幸い、日本はロボット分野で世界をリードする存在。産業用ロボットの世界市場では、ファナックや安川電機など日本企業が上位に君臨する。それだけに、人と協働できる次世代ロボットの利活用は、日本が変革を主導できる領域として有望だ。
中小企業へも波及狙う
経産省はオムロンやファナックのような大企業だけでなく、国内企業の9割以上を占める中小企業にも第4次産業革命への対応を促す方針。このため全国各地の自治体、経済団体、大学などを対象に、製造現場でロボット化やIoT化を指導できる人の育成・派遣を支援する取り組み「スマートものづくり応援隊事業」を開始した。
2017年4月には愛知県幸田町、北九州産業学術推進機構、さいたま市産業創造財団、山形大学など21件を採択。各採択先が地域の拠点認定機関となり、地場企業によるロボットやIoTの導入を後押しする仕組みだ。
METIジャーナル2017年06月14日