人とロボットの新しい関係とは?カギ握るオムロンのコア技術

代替から協働、融和へ

 人と共に働くコラボレーション(協働)ロボットが実用化され、ロボットの活躍するシーンは大きく広がろうしている。その進化は我々の職場や社会をどのように変えるのだろうか。ファクトリーオートメーション(FA)の総合メーカーであるオムロンが、真正面から取り組んでいるテーマがこれである。同社が事業展開や研究開発において掲げているテーマは「人と機械の関係を考える」。そこでは人と機械が相互にかかわりながら、ともに進化していく世界を描く。「Sensing&Control+Think」というオムロンのコア技術が、そんな新たなロボット時代の幕を開けつつある。

FA技術が支える協働ロボット


 オムロンが米国のアデプトテクノロジーを買収し、産業用ロボットに参入したのは2015年のこと。そして今年5月には台湾のテックマン・ロボットと提携し、協働ロボットの共同開発に乗り出した。これまでFA機器メーカーとして工場の自動化などを手がけてきた同社が、自らロボット事業に乗り出したのは、新しい「人と機械の関係」を見出すためだ。「ロボット技術も手の内に持って、我々のFA技術とすり合わせていくことで、人と機械の新しい関係を作り上げていきたい」と、福井信二執行役員技術開発本部長は話す。

 自動搬送モバイルロボットから伸びたアームロボットが、まるで背を屈めるような姿勢で器用に部品を取り出し、もう一つの自動搬送モバイルロボットが運ぶ箱に移載する。10月に開催されたワールドロボットサミット(WRS)東京大会の展示会場で、オムロンが実演した部品供給ロボットである。

設定は三つの情報だけ


 アデプトの自動搬送モバイルロボットとテックマンのアームロボットを融合したこのロボット。事前に設定されているのは、どの位置の棚に、どの部品が入っていて、それがどういう形状かという、三つの情報だけという。どのように取るのか、また同じ部品が複数個ある場合はどれを選ぶのかなどは、その時々の状況からロボット自身が考えて判断を下す。

自ら棚に近づき、まるで背をかがめるように部品を手に取る。


 棚に近づいて、必要な部品を取ってくる。そんな動作は人であれば簡単この上ないが、これまで固定された場所で限られた範囲の作業を担ってきたロボットにとっては実は困難極まりない。実際、生産現場ではラインへの部品供給の自動化はほとんど進まず、人手に頼っているのが実情だ。この自動化で欠かせなかったのは、実はロボットそのものの技術というより、むしろオムロンが長年にわたって培ってきたFA技術だったという。つまり外部情報を集めるためのセンサーと、それらの情報を分析、判断し、指令を飛ばすコントロール(制御)技術である。さらにAI(人工知能)技術がここに加わった。

人と協働し、人の成長を加速


 オムロンが目指すのは、単に人をロボットで代替することだけではない。「代替」から「協働」、そして「融和」へ。これがオムロンの描く「人と機械の関係」の進化の道筋だ。現在は人と共に働く「協働」が実現しつつあるところだが、将来の姿として「融和」を描く。例えば、人によるチームが担うセルライン。工程の一部をロボットが担えるようになれば、人が行ってきた作業を代替するだけでなく、自ら判断できるロボットがラインに加わり人と協働することで、人の習熟を加速するとともに、人の能力や創造性も引き出すことにもつながる。さらにそのことがロボットの可能性を広げる。そんな人と機械の相互作用が期待されている。

 実はオムロンがロボットと人との協働や融和を意識したのは、今回が初めてではない。同社が2014年に初公開した卓球ロボット「フォルフェウス」がそれである。ボールの動きをステレオカメラで追いかけて三次元計測で軌跡を予測し、同時にロボット自身の軌跡も計算しながら、パラレルリンクロボットが最適のパスでラケットを動かす。「もともとはカメラやコントローラー、サーボシステム、ロボットなどFA機器をアピールするために開発した。しかし人と機械が一緒にラリーを続けている姿を見てしまうと、その光景がすごく新鮮に思えた」と福井執行役員が振り返る。

2014年に初登場したフォルフェウス。今ではスマッシュを打ち返すまで腕を上げた。

卓球コーチロボットとしてギネス認定


 卓球ロボットによる最大の収穫は、思いがけず人と機械との相互作用が現れたことだ。ラリーを重ねれば重ねるほど人の技量は上達する。そしてそれに対応するためにロボットの改良も重ねる。「我々も決して卓球がうまいうわけではないが、上達してくるとスマッシュだって打ちたくなる」(福井執行役員)と、スマッシュを打ち返す機能も開発して後から搭載した。人の動きをカメラでとらえ、スマッシュを打つ時などの骨格情報を基にAI技術によって次の動きを予測するという。今回のWRSで展示、実演したフォルフェウスは4代目。会場では、フォルフェウスが返球のスピードなど相手のレベルに応じて、リアルタイムに打ち返すスピードや場所を調整する姿が見られた。2016年には「最初の卓球コーチロボット」として、ギネス世界記録に認定されている。

ILOR+Sで網羅する技術と経験


 オムロンの強みは「ILOR+S」で表される。「Input(センサ)」、「Logic(コントローラ)」、「Output(出力機器)」、「Robot(ロボット)」、「Safety(セーフティ機器)」という、オートメーションに必要な製品を網羅していることだ。フォルフェウスが年々卓球の“腕”を上げているのは、“目”や“頭脳”まで含めた総合力の賜物だ。同社がロボット事業そのものを傘下に収めたのは2015年以降と決して古くはない。しかし、ロボットの動作をつかさどるアルゴリズムやセンシング技術の開発では長年に渡って蓄積された経験があり、これがフォルフェウス開発の基盤となった。こうしたノウハウや技術は部品供給ロボットにも生かされており、アデプトとの買収からほとんど時間をおかず、開発、実演にまでこぎつけている。

 福井執行役員は「ロボットがどのような進化を遂げるかについてはいろんな議論があっていい。現在はさまざまな可能性が存在する混沌とした段階。もともとオムロン1社だけですべてできるとは思っていない。自ら目指すべき方向を広く発信しながら必要なテクノロジーを募り、オープンイノベーションを進めていきたい」と意気込む。
 

  

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