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“クアルコム・ショック”戦略転換に動く電子部品メーカー

端末メーカーがプロセッサー内製化。全方位外交が不可欠に
“クアルコム・ショック”戦略転換に動く電子部品メーカー

クアルコムのスティーブ・モレンコフCEO TiEcon 2014(YouTube)

 スマートフォン向け半導体で絶対的トップに君臨してきた米クアルコムの地位が揺らいでいる。スマホメーカーが、半導体を内製化する動きが活発化し、クアルコムの販売が苦戦していることが背景の一つ。日本の電子部品メーカーはクアルコムと二人三脚でスマホ事業拡大を図ってきた。王者の変調に部品メーカーは、戦略転換に動きだしている。

 クアルコムが22日に発表した15年4-6月期決算は売上高が前年同期比14%減の58億3200万ドル、純利益が同47%減の11億8400万ドル。業績低迷が鮮明になった。

 クアルコムは、スマホの頭脳となる「アプリケーションプロセッサー」と呼ぶ半導体で圧倒的な強さを誇ってきた。その王者の変調について、「まだ一定の影響力を持つものの、かつての勢いは見られない」と日本の電子部品メーカーは口をそろえる。

 ある部品メーカー担当者は「13年ごろから、クアルコムが近い将来伸び悩むことは想定できた」と指摘する。台湾メディアテック、中国スプレッドトラムといった新興のプロセッサーメーカーが台頭してきたためだ。さらにスマホメーカーがプロセッサーを内製化する取り組みを活発化していることが、クアルコムにとって逆風となっている。

 サムスンやファーウェイが「脱クアルコム」へ

 韓国サムスン電子は、春に発売した旗艦モデル「ギャラクシーS6」に、自社の「エクシノス」を採用。中国ファーウェイの高機能スマホは、傘下のハイシリコンのプロセッサーを搭載する。また中国シャオミは、中国リードコアと提携し、内製化に乗り出す方針を打ち出した。

 スマホの成長鈍化や汎用品化が進み販売競争が激化する中、スマホメーカーは、プロセッサーの内製化により端末の設計・機能面の差別化を狙う。またクアルコムのプロセッサーを採用する場合、スマホメーカーは特許の利用許諾料を支払う必要があり、この負担軽減の意図もある。

 クアルコムは、自社プロセッサーを核に、スマホ開発に必要な半導体や部品を記載した「設計図」をスマホメーカーに提供するビジネスモデルで成長した。日本の部品メーカーにとっては、この設計図の推奨製品に選定されることが拡販に不可欠で、クアルコムと関係強化を図ってきた。

 クアルコムの地位が揺らぐ中、日本の部品メーカーは同社との距離を測り直している。すでに多くのメーカーが、営業資源をメディアテックやスプレッドトラムにも振り向けている。また、ある部品メーカー担当者は「半導体メーカーよりも先にスマホメーカーに営業をかける必要性が出てくるかもしれない」と指摘。別の部品メーカー担当者は「(スマホメーカーとの)直接的な関係を、より強固にしなければならない」と話す。

 スマホビジネスで継続的に収益を上げるため、クアルコム、新興半導体メーカー、スマホメーカーの3者に目を向けた「全包囲網外交」がより不可欠になってきた。
 (文=後藤信之、下氏香菜子)

  
日刊工業新聞2015年07月28日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本の電子部品メーカーは依然としてスマホ向けで収益を上げている。一方で、スマホ依存を減らそうという動きは2年ほど前から顕在化している。もちろん端末の販売はまだ伸びるだろうが、多くのプレーヤーが収益を上げる時代は過ぎた。クアルコムの変調は「スマホ時代の終わりの始まり」か。

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