IoTやAIの進化や定着の課題は?工作機械メーカー首脳座談会
工作機械業界の最大イベントの一つ「国際製造技術展(IMTS)2018」が、米シカゴで15日まで開かれている。社会や産業が大きな変革期にある今、会場ではIoT(モノのインターネット)、ロボットや工程統合型の機械による自動化、積層造形(AM)などの新技術が多く披露された。日本工作機械工業会(日工会)会長、副会長を務めるメーカー首脳の目に、IMTS2018がどう映ったかを聞いた。
出席者
日本工作機械工業会会長(東芝機械会長) 飯村幸生氏
同副会長(DMG森精機) 森雅彦氏
同副会長(ヤマザキマザック社長) 山崎智久氏
ファナック社長(稲葉善治日工会副会長の代理) 山口賢治氏
日工会専務理事 天野正義氏
司会 日刊工業新聞社編集委員 六笠友和>
―展示から現在の米国製造業の状況、要求をどう読み説きましたか。
飯村 ロボットを含めたシステム化による効率化提案が多く、システム構築力のあるメーカーは集客が多い。労働コストが上がったり、人材を集めにくくなったりする中、設備をシステムで入れて作り上げる方向に向かっている。これは日本も同じだ。メーカーとしては、システム提案をできるかが大きなポイントだろう。
森 機械を2時間“残業”させ、オートメーションでやっていくと、よりもうかる。そのためのロボットやパレットハンドリングがかなり人気で、買ってもらっている。自動化が進んだことで人がいなくなり、監視のためのデジタル技術も非常にウケている。また、とても成熟した5軸機と複合加工機で、従来専用機を使っていたギアやタービンブレードの加工、研磨などを自由自在にできるようになったことも大変面白い。計測が合わさり、測定、修正しながら加工する高度な展示もあった。
山崎 今の米国は失業率が2000年以降で最も低く、深刻な人手不足にある。工場労働者に対するロボットの台数「ロボット化率」は日独に比べまだまだ低く、政策で国内回帰が続けば自動化、ロボット化は進むだろう。
山口 当社集計では500台を超えるロボットが会場にあり、インテグレーターの展示も活発だ。非常に洗練されたハンドリングなど、米国には得意領域を持ったインテグレーターが多いようだ。ビジネスとしても成立していると感じた。日本で加速していけたらと強く印象付けられた。それにはロボットをもっと使いやすくしないといけない。工作機械とロボットをもっと連携しやすくする機能などに力を入れる。
―AMの動向についての分析は。
飯村 AMはパウダーベッド方式、デポジション方式ともに2年前から実用に向けて相当進んだ印象だ。
山崎 AMの専用エリアは、前回より広いスペースに40社以上が出展している。さすがに一時の過剰なブームは去った感があるが、造形方法や材料の選択肢が広がってきた。AMも進化している。
―AMでは米HPが出展しています。今回は、IT関連など工作機械業界以外からの出展も目立ちます。
山崎 米マイクロソフトや独SAPといったIT産業が独自出展しているのも今回の特徴だろう。生産システムの統合業務パッケージ(ERP)などを連携させる高度なニーズが出てきた。工場のスマート化にはITと、我々のOT(オペレーションテクノロジー)の両方が必要。ITと工作機械の連携が進みそうだ。
天野 主催者によると登録者数、出展者数、出展国数、展示面積が過去最高だ。全館を使用する初めての展示会になったのだが、規模だけでなく、「テクノロジーのショー」を強調していた。中でも工業のデジタル化の意味で、シリコンバレーの技術が製造業のメーンストリームになってきたとの話があった。
森 シリコンバレー系企業の出展もあった。昔、パソコンNC(コンピューター数値制御)がにぎやかになった際、結局我々が使いこなし、各社の操作パネルにつながっていった。興味を持ってもらうのは良いことだ。話を精査してうまく使い、成長に役立てたい。
―IoTや人工知能(AI)の進化、定着の課題については。
山口 前回の「つなぐ」という展示から、今回はさらに一歩進み、何ができるかを示す展示が増えた。当社は工場用IoT基盤「フィールドシステム」を始めた。まずは少数を入れていろいろ試している段階だ。何ができるかの費用対効果を顧客に示すとこれから伸びる気がする。顧客のやりたいことが分かってきたので、プラットフォームを提供し、顧客の持つデータを使って、何がしたいのかという、アプリケーションを作るところも支援していきたい。
飯村 中小企業が高価な製造実行システム(MES)やERPを導入するとなるとハードルが高い。簡易的で効果的なIoT、デジタル化で顧客に納得してもらうには、メリット、ハードセービング(効果)を顧客に示すのが必要だ。日本では機械を購入したらIoTは無料だと考えられがちなことも変えないといけない。
―工作機械産業は活況が続きました。今回、米国の工作機械ユーザーの投資マインドをどう感じましたか。
山崎 まだ下がってきている感じはないが、主催者によると、19年の第1四半期(1―3月)から変わってくるのではないかという話だ。貿易摩擦が背景と思われるような出展内容の変化もある。
森 17年から18年にかけての加速感はなくなっている。巡航もしくは、やや着陸が見えてきた感じがする。
―出展者は新顔が増えましたが、来場者にも変化はありますか。
森 70%がSME(中堅・中小企業)で世代交代が進んでいる。当たり前だが、しっかりした後継ぎがいる会社が残っている。その残った会社が自分たちより規模の大きい後継ぎのいない会社を買うという流れもある。そんな相談がブースで多かった。
山崎 08年のリーマン・ショックから10年目のIMTSだ。リーマン後の出張費節約で会場をくまなく見て回るのでなく、ネットで興味のあるモノを勉強し、ピンポイントで見る傾向が始まった。それが一部で定着した。つまり、我々出展者がウェブなどを使った事前のPRに力を入れる必要性が増している。
森 それはある。「クリック・アンド・モルタル」だ。実体験を知るためにここに来るということだ。
飯村 米国でオペレーター不足が深刻な問題になっている。代理店が顧客に、機械と優秀な人をセットで欲しいと言われるという。機械と対話しながら操作する技術の展示があったが、ただのアクセサリーではなく、必要なモノになるように感じる。製造業へのイージーエントリーとして、例えばTVゲームの世界からCADに誘導し、それが工作機械につながっているといったパスが求められる。そうしたパスを米国の工業会は真剣に考えている。
山崎 労働力不足を背景にした人材の取り込みについて、必ずしも理系の学生だけでなくパソコンやゲームに夢中の学生、高校生にも製造業に興味を持ってもらい将来の米国製造業の人材の多様性を図りたいという感じがある。
―本日はありがとうございました。
日本工作機械工業会会長(東芝機械会長) 飯村幸生氏
同副会長(DMG森精機) 森雅彦氏
同副会長(ヤマザキマザック社長) 山崎智久氏
ファナック社長(稲葉善治日工会副会長の代理) 山口賢治氏
日工会専務理事 天野正義氏
司会 日刊工業新聞社編集委員 六笠友和>
―展示から現在の米国製造業の状況、要求をどう読み説きましたか。
飯村 ロボットを含めたシステム化による効率化提案が多く、システム構築力のあるメーカーは集客が多い。労働コストが上がったり、人材を集めにくくなったりする中、設備をシステムで入れて作り上げる方向に向かっている。これは日本も同じだ。メーカーとしては、システム提案をできるかが大きなポイントだろう。
森 機械を2時間“残業”させ、オートメーションでやっていくと、よりもうかる。そのためのロボットやパレットハンドリングがかなり人気で、買ってもらっている。自動化が進んだことで人がいなくなり、監視のためのデジタル技術も非常にウケている。また、とても成熟した5軸機と複合加工機で、従来専用機を使っていたギアやタービンブレードの加工、研磨などを自由自在にできるようになったことも大変面白い。計測が合わさり、測定、修正しながら加工する高度な展示もあった。
山崎 今の米国は失業率が2000年以降で最も低く、深刻な人手不足にある。工場労働者に対するロボットの台数「ロボット化率」は日独に比べまだまだ低く、政策で国内回帰が続けば自動化、ロボット化は進むだろう。
山口 当社集計では500台を超えるロボットが会場にあり、インテグレーターの展示も活発だ。非常に洗練されたハンドリングなど、米国には得意領域を持ったインテグレーターが多いようだ。ビジネスとしても成立していると感じた。日本で加速していけたらと強く印象付けられた。それにはロボットをもっと使いやすくしないといけない。工作機械とロボットをもっと連携しやすくする機能などに力を入れる。
―AMの動向についての分析は。
飯村 AMはパウダーベッド方式、デポジション方式ともに2年前から実用に向けて相当進んだ印象だ。
山崎 AMの専用エリアは、前回より広いスペースに40社以上が出展している。さすがに一時の過剰なブームは去った感があるが、造形方法や材料の選択肢が広がってきた。AMも進化している。
―AMでは米HPが出展しています。今回は、IT関連など工作機械業界以外からの出展も目立ちます。
山崎 米マイクロソフトや独SAPといったIT産業が独自出展しているのも今回の特徴だろう。生産システムの統合業務パッケージ(ERP)などを連携させる高度なニーズが出てきた。工場のスマート化にはITと、我々のOT(オペレーションテクノロジー)の両方が必要。ITと工作機械の連携が進みそうだ。
天野 主催者によると登録者数、出展者数、出展国数、展示面積が過去最高だ。全館を使用する初めての展示会になったのだが、規模だけでなく、「テクノロジーのショー」を強調していた。中でも工業のデジタル化の意味で、シリコンバレーの技術が製造業のメーンストリームになってきたとの話があった。
森 シリコンバレー系企業の出展もあった。昔、パソコンNC(コンピューター数値制御)がにぎやかになった際、結局我々が使いこなし、各社の操作パネルにつながっていった。興味を持ってもらうのは良いことだ。話を精査してうまく使い、成長に役立てたい。
―IoTや人工知能(AI)の進化、定着の課題については。
山口 前回の「つなぐ」という展示から、今回はさらに一歩進み、何ができるかを示す展示が増えた。当社は工場用IoT基盤「フィールドシステム」を始めた。まずは少数を入れていろいろ試している段階だ。何ができるかの費用対効果を顧客に示すとこれから伸びる気がする。顧客のやりたいことが分かってきたので、プラットフォームを提供し、顧客の持つデータを使って、何がしたいのかという、アプリケーションを作るところも支援していきたい。
飯村 中小企業が高価な製造実行システム(MES)やERPを導入するとなるとハードルが高い。簡易的で効果的なIoT、デジタル化で顧客に納得してもらうには、メリット、ハードセービング(効果)を顧客に示すのが必要だ。日本では機械を購入したらIoTは無料だと考えられがちなことも変えないといけない。
―工作機械産業は活況が続きました。今回、米国の工作機械ユーザーの投資マインドをどう感じましたか。
山崎 まだ下がってきている感じはないが、主催者によると、19年の第1四半期(1―3月)から変わってくるのではないかという話だ。貿易摩擦が背景と思われるような出展内容の変化もある。
森 17年から18年にかけての加速感はなくなっている。巡航もしくは、やや着陸が見えてきた感じがする。
―出展者は新顔が増えましたが、来場者にも変化はありますか。
森 70%がSME(中堅・中小企業)で世代交代が進んでいる。当たり前だが、しっかりした後継ぎがいる会社が残っている。その残った会社が自分たちより規模の大きい後継ぎのいない会社を買うという流れもある。そんな相談がブースで多かった。
山崎 08年のリーマン・ショックから10年目のIMTSだ。リーマン後の出張費節約で会場をくまなく見て回るのでなく、ネットで興味のあるモノを勉強し、ピンポイントで見る傾向が始まった。それが一部で定着した。つまり、我々出展者がウェブなどを使った事前のPRに力を入れる必要性が増している。
森 それはある。「クリック・アンド・モルタル」だ。実体験を知るためにここに来るということだ。
飯村 米国でオペレーター不足が深刻な問題になっている。代理店が顧客に、機械と優秀な人をセットで欲しいと言われるという。機械と対話しながら操作する技術の展示があったが、ただのアクセサリーではなく、必要なモノになるように感じる。製造業へのイージーエントリーとして、例えばTVゲームの世界からCADに誘導し、それが工作機械につながっているといったパスが求められる。そうしたパスを米国の工業会は真剣に考えている。
山崎 労働力不足を背景にした人材の取り込みについて、必ずしも理系の学生だけでなくパソコンやゲームに夢中の学生、高校生にも製造業に興味を持ってもらい将来の米国製造業の人材の多様性を図りたいという感じがある。
―本日はありがとうございました。
日刊工業新聞2018年9月14日