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アジア投資活発の工作機械、各社の地域動向を総点検

市場は2020年代に現在の1兆5000億円規模から2兆円産業に発展も
アジア投資活発の工作機械、各社の地域動向を総点検

台湾の新工場稼働で生産能力を1.5倍に高めた(オークマ)

 工作機械各社のアジア投資が相次いでいる。オークマは台湾に新工場を完成させたのに続き、隣接地に新棟建設を検討する。ツガミは中国内陸とインドにそれぞれ工場を新設する。ソディックはタイでの生産能力の増強を完了し、シチズンマシナリー(長野県御代田町)はフィリピン、タイ、ベトナムの工場を拡張する。工作機器ではTHKがインドに直動案内機器(ガイド)の工場を建てる。工作機械市場は2020年代に現在の1兆5000億円規模から2兆円産業に発展するとの指摘もある。中長期で成長余力の大きいアジアでの供給体制を整備する考えだ。米中貿易摩擦の余波で計画が今後修正される懸念はあるが、各社の動向を地域別に再点検する。

東アジア 中国、スマホ減も好調


 中国は、日本工作機械工業会(日工会)がまとめた1―6月の受注高が前年同期比7・2%増の1828億円と過去最高を記録した。受注規模の大きいスマートフォンの筐体(きょうたい)を加工する機械の需要はピークを過ぎてはいるが、一般機械や自動車をはじめ広範に好調で、スマホ向けの落ち込みをカバーしている。同期の台湾の受注高は同32・0%増の173億円、韓国は同19・6%増の219億円だった。

 20年に年産能力1200台の工場を計画しているのがツガミだ。同社は、細く短い棒材の加工に向く主軸台移動型自動旋盤で中国シェア首位。すでに同1万台超の量産工場を構えるが、能力を上回る受注をした月もあり、「生産キャパシティーの課題を解消したい」(西嶋尚生会長兼社長)と東部の安徽省に新工場建設を決めた。

 段階的に用地を確保し、将来的に上海近郊の14万平方メートルと広大な現工場と同規模に広げる考えだ。中国に2カ所目となる鋳物工場も建てる。これにより、中国の年産能力をまず現在比1割増の約1万3000台に拡大する。

 台湾ではオークマが8月上旬までに生産能力を従来比5割増に引き上げた。台湾企業との合弁会社「大同大隈」の工場(新北市)を拡張し、旋盤・立型マシニングセンター(MC)「GENOS(ジェノス)」シリーズを月300台生産する体制を整えた。

 オークマのブランド力と価格競争力を兼ね備えた製品として、日本を含む世界に供給する。中長期的な需要拡大を見越し、数年のうちに新工場の隣接地に再び工場を建て、生産能力をさらに3―4割引き上げる考えだ。このための用地をすでに確保した。

インド 毎月のように大型の案件


 インドに生産拠点を持つ工作機械メーカーはまだ少ない。1―6月の受注高は同19・0%増の233億円と2ケタ増で、中国を除いたアジアの中では最大の需要地の一つだ。足元では自動車業界の設備投資が活発。5月には牧野フライス製作所や三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)が自動車関連のまとまった受注を獲得するなど、このところ毎月のように大型の案件がある。

 現地では牧野フライスとツガミが工作機械をそれぞれ製造している。THKはインドの現状が、「中国に進出した96―00年ごろの様相」(寺町彰博社長)と爆発的な市場拡大の手応えがあり、20年1月にガイドの工場を稼働する計画だ。

 20万平方メートルの用地に、延べ床面積3万4000平方メートルの建屋を第1期に予定。現在は第2期まで計画している。当初はインドの内需に対応し、国外への輸出も視野に入れる。

 ツガミは中国にとどまらず、インドでも能力増強に動く。3年後をめどに、生産能力を現状のほぼ2倍に当たる月産100台に引き上げようとしている。

東南アジア タイ回復、車がけん引



 東南アジア最大の市場がタイだ。タイの1―6月受注高は156億円。前年同期比では40・4%増と大きな伸びをみせた。自動車産業が集積する様子から「東洋のデトロイト」と一時はもてはやされたが、低迷が続いた。ただ、今年の自動車生産は5年ぶりに200万台に達しそう。ピークだった13年の245万台にはほど遠いが、ここにきて回復基調が強まっている。

 東南アジアは工作機械の生産基地としての印象が薄いが、80年代の岡本工作機械製作所を皮切りに、ソディック、OKKが、00年代に入ってシチズンマシナリーなどが進出した。タイ国内向けというよりも輸出拠点の位置付けだ。

 シチズンマシナリーは東南アジアへの投資を拡大している。フィリピンでは北部バタンガスの工場を増床し、低中価格帯の主軸台固定型自動旋盤の生産能力を19年にも年間960台に倍増する。自動車、建設機械向けだけでなく、電子機器や住宅設備向けにも受注が伸びていて、能力増強によってこの旺盛な需要の受け皿にする。

 ほかにも、タイのアユタヤで塗装工場の能力を3倍に、ベトナムでは鋳物工場を30%増にそれぞれ引き上げ、今夏稼働する。

 一方、ソディックは年初に、タイで放電加工機の生産能力を約2割増やした。工作機械業界以外の生産財メーカーの動きとしては、プレス機械・板金機械メーカーのコマツ産機(金沢市)が8月初めにインドネシア・ジャカルタにショールームを開設した。

 インドネシアは「市場の拡大が期待できる」(川西宣明社長)と日系、現地企業の開拓を進める。

タイの製造業は回復基調(6月にバンコクで開かれた展示会)

(文・六笠友和)
日刊工業新聞2018年8月21日

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