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「5年後の東京」2020年7月24日午後8時、五輪の開会式が始まる

今と未来の『日和下駄』をどのように描くか
 5年後の今日を、どこでどんな思いで迎えているだろう。東京オリンピックは2020年7月24日午後8時に開会式の予定。メーン会場となる新国立競技場の建設計画は迷走を重ねた末、安倍晋三首相の一言で白紙に戻った。

 巨大アーチを組み込んだ当初案をどう受け止めたかは人それぞれだろう。だが周囲の意見を聞く限り、奇抜なデザインのハコモノが東京のど真ん中に出現することへの違和感を覚えた人は少なくなかった。

 「見ずや木造の今戸橋は蚤(はや)くも変じて鉄の釣(つ)り橋となり、江戸川の岸はせめんとにかためられて再び露草の花を見ず」―。東京・小石川生まれの永井荷風は随筆『日和下駄(げた)』で、古き良き風景が失われていく様子をこう記した。

 荷風がフランス遊学から戻った大正初め。日本は近代化の道を突き進み、とりわけ首都・東京では破壊と建設が日常化していた。東京の町をこれほど歩いた文学者も珍しいとされる荷風だが、その変貌に接し、せめて文章の中だけでも江戸の残り香漂う東京の風景を留めておこうと生まれたのがこの作品。

 ノスタルジーだけでは前に進めない。だが振り返った時に追慕したくなるような「風景」をどう造り上げるか。五輪を“負の遺産”にしたくはない。
日刊工業新聞2015年07月24日1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東京出身ではないが、戦後、昭和20~40年代くらいまでの東京の街並みを撮った写真集を見るのが大好きだ。自分の知らない東京が沢山あってワクワクする。日常に生きていると、街の変化にあまり気づかない。大きなビルがたったなぁ~というぐらいの感じである。おそらく5年前と比べても相当変わっているはずだ。「都市の活力」を生みながら「都市の香り」をどう残していくか。新国立競技場の問題を、単なる政治問題、スポーツサークルの議論に終わらせてはいけない。

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