次のロボット開発を担う世代が日本で競う、WRS開幕目前!
本番前にジュニア部門がスタート
WRS熱戦に向けて-。ワールド・ロボット・サミット(WRS)の17日開催を前に、ジュニア部門で静かに戦いが始まっている。8カ国から中高生が来日し、日本チームを含めて16チームが開発してきたプログラムをペッパーに実装し始めた。13日は初めて競技の指定課題が伝えられた。初めて挑戦する機能もあり、チュートリアルを読み込む姿が目立つ。WRS開幕まで残り3日。どこまで仕上げられるか、気力や体力が問われる戦いになりそうだ。
「また難しい課題がでた。これを子どもたちが数日で実現できると示せたら、社会の常識が変わるのではないか」ー。茨城県立竹園高等学校の宮内和広教諭の声には不安と期待が入り交じる。竹園高校からはパソコン部の二年生6人が参戦している。ペッパーを企業から借り、一カ月前から放課後にロボットプログラミングを学んできた。
「たった一カ月で簡単な画像認識や表情認識が動くようになったことは驚いた」と振り返る。画像や表情の認識は大学で研究するようなテーマだ。現在も認識率を向上させる研究が進んでいる。ペッパーではこうした機能がモジュール化され、中高生でも頑張れば使うことはできるようになった。電卓が普及した社会で算数を教えるように、いま過渡期にある認識処理も教育と活用の議論が必要になるかもしれない。
「画像認識を習得した生徒たちを褒め、彼らの自信になったと思う。ただWRSはそれらを組み合わせて、よりハードな課題になっている。実現できればすごいことだが、大丈夫かな」と宮内教諭は気が気でない様子だ。
ジュニア部門のスクールロボットチャレンジでは、ソフトバンクのペッパーを標準機(プラットフォーム)として提供し、四つの指定課題と自由なオープンデモを競う。タスク1は人との会話だ。近づいて話しかけてきた人に対して、ペッパーは言葉を交わし、最後に何かを探すように頼まれる。この探し物を別の専門家に引き継ぐ。人物や音声の認識、対話が求められる。
タスク2では人の少し深い認識だ。相手の感情や挙げている手、シャツの色を認識し、様子を説明する。タスク3は文字認識と単語の発話。タスク4ではパネルやボールを認識して、そこに移動する。いずれもロボットに求められる基本機能であり、大学などでの研究テーマでもある。
竹園高校の生徒は「色の識別をどうしよう。カメラのRGBデータはどこから触れるのか」と技術マニュアルを読み返す。相模女子大中学部の1年生3人のチーム「バニラ」は、初日は難しそうなタスク2を後回しにした。まずタスク1と3、4から分担して開発している。タスク3の文字認識と単語判定では、考えられる文字列すべてを書き出し、漏れのない仕組みを考えた。文字列は120通り。「大変だけど、確実な方がいい」と頑張った。
オーストラリアからは中3から高2までの5人が参戦。「オープンデモは作り込んできたから自信がある。四タスクの進捗率は50%から70%。17日までには間に合うだろう」と自信をみせる。このチームは17年のトライアル大会で優勝した強豪だ。
南米チリからは中3から高3までの6人が参戦した。8月に初めてペッパーに触れたという。チリの東大にあたるチリ大学でペッパーの扱い方を教えてもらった。もともとレゴマインドストームやアルドゥイーノ、パイソンができるため、スムーズに取り組めたという。改めて、「色の認識や文字認識に苦労するかも。でも指定課題がクリアできれば楽勝」と笑う。
16チーム全体としては余裕のあるチームは一部で、技術書やチュートリアルと格闘しているチームの方が多い。ジュニア競技委員会の江口愛美委員長(米ブルームフィールド大学准教授)は「わからない、エラーが消えないと、もっと大人を頼るかと思ったが、みな自分で勉強しながら頑張っている。その集中力がすごい。一日一日、どれくらい伸びるか非常に楽しみ」と期待する。
ワールド・ロボット・サミット(WRS)2018年大会競技会のジュニアカテゴリーは、子どもたちが自由に未来を描く。誘導や把持などの定型課題はあるものの、自由にロボットとの生活を表現してもらう。家庭や学校でどんなロボットがあったらうれしいか、子どもたちは自ら考え、作り、世界に発信する。大会期間中に成長する姿が最大の見所だ。教師として、大人として、次の世代がどう伸びようとしているのか、大人が子どもから教わる大会になる。
参加者は中高生から大学2年生までの19歳以下。次のロボット開発を担う世代だ。ホームロボットチャレンジでは高さ30センチメートル程度の自作ロボット、スクールロボットチャレンジではソフトバンクの「ペッパー」を標準機として技を競う。定型課題は認識や把持などの基本機能を問うが、ともにオープンデモに最大の点数を配分した。国や文化によってロボットへの期待や役割が変わるためだ。未来の生活を自由に表現してもらう。
特にスクールロボットチャレンジは、ハッカソン(技術開発コンテスト)に近い。大会直前にペッパーに触れ、3日半で開発し、プレゼンテーションに挑む。運営側は、これまで子どもたちの伸びしろの見極めに苦労した。標準機の使い勝手によって大きく変わるためだ。
トライアル大会を重ねた結果、伸びしろはかなり大きいと判明し、オープンデモで子どもたちの自由にさせ挑戦させる競技設計にした。最終日は参加チームを混ぜて国際混成チームで開発する。大会期間中に子どもたちが成長する姿から、大人は次世代の芽を伸ばす術(すべ)を学ぶことになる。
―オープンデモに重点を置くと審査が難しくなりませんか。
「タガをはめたくなかった。いまは大人がロボットと働く将来像を描いているが、実際にロボットを使うのはいまの子どもたちだ。その世代がどんな未来を求めるか自由に描いてもらう。トライアル大会を重ねてきて、たった3日でも大きく伸びることがわかった。心配はしていない」
―大会の見所は。
「子どもたちの発想の広さだ。欲しいものを素直に実現しようとする。できれば期間中に成長していく姿を見てもらいたい。ロボットに触れた初日は全然動かなくても試行錯誤してモノにしていく」
―プログラミング教育の必修化など、日本では次の教育の形が模索されています。
「技術の進化が速く、何をどう教えればいいか迷う先生もいると思う。正解を教えるよりも、わからない未来に向けて子どもと一緒に学んでいける先生がいい先生だ。WRSは世界から子どもたちが集まる。その成長する姿から感じ取ってもらえればありがたい」
「また難しい課題がでた。これを子どもたちが数日で実現できると示せたら、社会の常識が変わるのではないか」ー。茨城県立竹園高等学校の宮内和広教諭の声には不安と期待が入り交じる。竹園高校からはパソコン部の二年生6人が参戦している。ペッパーを企業から借り、一カ月前から放課後にロボットプログラミングを学んできた。
「たった一カ月で簡単な画像認識や表情認識が動くようになったことは驚いた」と振り返る。画像や表情の認識は大学で研究するようなテーマだ。現在も認識率を向上させる研究が進んでいる。ペッパーではこうした機能がモジュール化され、中高生でも頑張れば使うことはできるようになった。電卓が普及した社会で算数を教えるように、いま過渡期にある認識処理も教育と活用の議論が必要になるかもしれない。
「画像認識を習得した生徒たちを褒め、彼らの自信になったと思う。ただWRSはそれらを組み合わせて、よりハードな課題になっている。実現できればすごいことだが、大丈夫かな」と宮内教諭は気が気でない様子だ。
ジュニア部門のスクールロボットチャレンジでは、ソフトバンクのペッパーを標準機(プラットフォーム)として提供し、四つの指定課題と自由なオープンデモを競う。タスク1は人との会話だ。近づいて話しかけてきた人に対して、ペッパーは言葉を交わし、最後に何かを探すように頼まれる。この探し物を別の専門家に引き継ぐ。人物や音声の認識、対話が求められる。
タスク2では人の少し深い認識だ。相手の感情や挙げている手、シャツの色を認識し、様子を説明する。タスク3は文字認識と単語の発話。タスク4ではパネルやボールを認識して、そこに移動する。いずれもロボットに求められる基本機能であり、大学などでの研究テーマでもある。
竹園高校の生徒は「色の識別をどうしよう。カメラのRGBデータはどこから触れるのか」と技術マニュアルを読み返す。相模女子大中学部の1年生3人のチーム「バニラ」は、初日は難しそうなタスク2を後回しにした。まずタスク1と3、4から分担して開発している。タスク3の文字認識と単語判定では、考えられる文字列すべてを書き出し、漏れのない仕組みを考えた。文字列は120通り。「大変だけど、確実な方がいい」と頑張った。
オーストラリアからは中3から高2までの5人が参戦。「オープンデモは作り込んできたから自信がある。四タスクの進捗率は50%から70%。17日までには間に合うだろう」と自信をみせる。このチームは17年のトライアル大会で優勝した強豪だ。
南米チリからは中3から高3までの6人が参戦した。8月に初めてペッパーに触れたという。チリの東大にあたるチリ大学でペッパーの扱い方を教えてもらった。もともとレゴマインドストームやアルドゥイーノ、パイソンができるため、スムーズに取り組めたという。改めて、「色の認識や文字認識に苦労するかも。でも指定課題がクリアできれば楽勝」と笑う。
16チーム全体としては余裕のあるチームは一部で、技術書やチュートリアルと格闘しているチームの方が多い。ジュニア競技委員会の江口愛美委員長(米ブルームフィールド大学准教授)は「わからない、エラーが消えないと、もっと大人を頼るかと思ったが、みな自分で勉強しながら頑張っている。その集中力がすごい。一日一日、どれくらい伸びるか非常に楽しみ」と期待する。
大人が子どもから教わる
ワールド・ロボット・サミット(WRS)2018年大会競技会のジュニアカテゴリーは、子どもたちが自由に未来を描く。誘導や把持などの定型課題はあるものの、自由にロボットとの生活を表現してもらう。家庭や学校でどんなロボットがあったらうれしいか、子どもたちは自ら考え、作り、世界に発信する。大会期間中に成長する姿が最大の見所だ。教師として、大人として、次の世代がどう伸びようとしているのか、大人が子どもから教わる大会になる。
参加者は中高生から大学2年生までの19歳以下。次のロボット開発を担う世代だ。ホームロボットチャレンジでは高さ30センチメートル程度の自作ロボット、スクールロボットチャレンジではソフトバンクの「ペッパー」を標準機として技を競う。定型課題は認識や把持などの基本機能を問うが、ともにオープンデモに最大の点数を配分した。国や文化によってロボットへの期待や役割が変わるためだ。未来の生活を自由に表現してもらう。
特にスクールロボットチャレンジは、ハッカソン(技術開発コンテスト)に近い。大会直前にペッパーに触れ、3日半で開発し、プレゼンテーションに挑む。運営側は、これまで子どもたちの伸びしろの見極めに苦労した。標準機の使い勝手によって大きく変わるためだ。
トライアル大会を重ねた結果、伸びしろはかなり大きいと判明し、オープンデモで子どもたちの自由にさせ挑戦させる競技設計にした。最終日は参加チームを混ぜて国際混成チームで開発する。大会期間中に子どもたちが成長する姿から、大人は次世代の芽を伸ばす術(すべ)を学ぶことになる。
ジュニア競技委員長・江口愛美氏に聞く
―オープンデモに重点を置くと審査が難しくなりませんか。
「タガをはめたくなかった。いまは大人がロボットと働く将来像を描いているが、実際にロボットを使うのはいまの子どもたちだ。その世代がどんな未来を求めるか自由に描いてもらう。トライアル大会を重ねてきて、たった3日でも大きく伸びることがわかった。心配はしていない」
―大会の見所は。
「子どもたちの発想の広さだ。欲しいものを素直に実現しようとする。できれば期間中に成長していく姿を見てもらいたい。ロボットに触れた初日は全然動かなくても試行錯誤してモノにしていく」
―プログラミング教育の必修化など、日本では次の教育の形が模索されています。
「技術の進化が速く、何をどう教えればいいか迷う先生もいると思う。正解を教えるよりも、わからない未来に向けて子どもと一緒に学んでいける先生がいい先生だ。WRSは世界から子どもたちが集まる。その成長する姿から感じ取ってもらえればありがたい」
日刊工業新聞2018年9月12日の記事に加筆