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世界で広がる使い捨てプラ対策、日本の立ち位置は?

リーダーシップ発揮できるか
 海洋ゴミ問題をきっかけにストローなど使い捨てプラスチック対策が動きだしている。日本政府は解決に向けたリーダーシップを発揮する考えを国際会議で表明。社員食堂で使い捨てプラの提供をやめる企業も出てきた。国内の廃プラ製品が海外に輸出されている現状を改め、国内で再生プラを循環利用する取り組みも始まった。

【世界で深刻「海洋ゴミ問題」】
 問題となっている海洋ゴミは、大きさ5ミリメートル以下の微小なプラスチック片(マイクロプラスチック)。陸で捨てられた容器やレジ袋などが海へ流れ、波で砕かれて微小プラとなり、有害物質を吸着しながら波間に漂う。汚染プラが魚や貝に蓄積(生物濃縮)されると生態系を破壊し、摂取した人体への健康被害も懸念されている。

資源循環戦略 “使い捨て”なくす


 9月20日、カナダで開かれた主要7カ国(G7)環境・海洋・エネルギー大臣会合に出席した中川雅治・前環境相は環境省で審議中の使い捨て製品の削減方針などを盛り込む「プラスチック資源循環戦略」が「海洋プラスチック憲章の内容を取り込み、それを上回る」と表明した。

 海洋プラ憲章は6月のG7首脳会議でまとめた使い捨てプラ削減の具体策。微小プラとなる使い捨てプラの海洋流出を食い止めるため、「2030年までにプラ容器のリサイクルか再利用を55%以上、40年までに100%にする」などの数値目標を設けた。ただし、日本は米国とともに署名しなかった。産業界や国民生活への影響を懸念したためだ。

 日本は状況を座視するわけではなく、独自のプラ資源循環戦略の中で、使い捨てプラの削減や再利用に数値目標を設定する方針。海洋プラ憲章を超え、さらに「20カ国・地域(G20)の枠組みで実効性のある取り組みを議論する」(中川前環境相)と紹介した。

 環境省によるとG7から海洋へ流出する廃プラは全世界の2%にすぎない。ほとんどが東南アジアなど新興国からの排出だ。こうした実態を踏まえ、途上国も含めたG20の対策の必要性を日本は訴える。19年6月には日本が議長国を務めるG20首脳会議が開かれる。G7大臣会合では各国から「日本のリーダーシップに期待する」との声も聞かれたという。

 環境省は19年度予算の概算要求で廃プラ対策費を増額要求した。プラ製品のリサイクル工程の省エネ化や生分解性プラ普及の実証事業の新設に50億円を充てる。さらにリサイクル設備導入を補助する事業費に18年度当初予算比で3倍の45億円を計上するなど、本腰を入れる。

 
 

ストロー廃止 三井住友海上、


 三井住友海上火災保険は8月下旬から本店(東京都千代田区)の社員食堂でプラ製のストローと飲料容器の提供をやめ、紙製に替えた。9月上旬には東京都中央区、千葉県印西市の事業所でもやめた。

 もともと同社は使用後のプラ製品は発電の燃料などとして再利用しており、海に流出させていない。それでもやめた理由について、同社地球環境・社会貢献室の浦嶋裕子課長は「社員に廃プラ問題を理解するきっかけにしてもらいたい。そしてリスクの発現を防ぎたい」と説明する。


 警戒するリスクとは「顧客企業のリスク」だ。欧州では使い捨てプラの使用禁止が議論されており、欧米の外食やホテルチェーンが自主規制を打ち出した。もし同社の保険契約者が使い捨てプラを大量に扱えば、欧米企業のサプライチェーンから排除される危険がある。非政府組織(NGO)から批判され、企業の信頼を落とす恐れもある。社食のストロー廃止は、こうしたリスクへの感度を高めて顧客企業に助言するようなことを営業員に期待している。

(右)三井住友海上の社食で提供を始めた紙製のストローと容器

再生プラ拡大 魚箱をペレット化


 川崎市宮前区の中央卸売市場北部市場にある小さな建物で、プラ製品の材料となるペレットが生産されている。原料は発泡スチール製の魚箱だ。場内で使い終わった魚箱を砕いて溶かし、丸い形状にカット後、冷やしてペレットにする。小規模だが、ペレット製造工場の設備がそろう。

 建物は社会福祉法人「同愛会リプラス」(横浜市保土ケ谷区)の障がい者就労支援施設だ。魚箱からシールなどの異物を取り除く作業を障がい者が担う。ペレットはリコーなどが購入し、製品に再利用する。

 発泡スチロールを大量廃棄する事業所では、箱を押し固めてインゴット(塊)状にし、業者に手数料を支払って回収してもらうのが普通だ。発泡スチロール協会によると発泡スチロールのリサイクル率は90%台と高い。用途はプラ材料への再利用が半分を占めるが、実態はインゴットのまま中国へ売られ、現地でプラ製品に再生されるものが多い。

 ただ中国が17年末、廃棄物の輸入を制限したため、今は東南アジアへインゴットが輸出されペレットに加工後、中国へ送られているようだ。ペレットなら製品材料なので中国も輸入を認めている。

 東レ出身で再生プラの事情に詳しい同愛会リプラスの大川正夫顧問は、「なぜ、日本の資源を中国に輸出するのか疑問だった。国内で循環させるべきだ」と思い、ペレット化の事業を始めた。ペレットの販売で収入が入るので、市場経済の中で障害者支援も資源循環も継続できる。

粉砕した魚箱をペレット化する装置(魚市場にある同愛会リプラスの作業所)

魚箱を含む再生プラからできたリコー製品の給紙トレー


 リコーは購入した魚箱由来ペレットをオフィス複合機の給紙トレー(用紙入れ)に使っている。もともと同社は、使用済み複合機から回収したプラを製品に繰り返し使うリサイクルに取り組んでいる。ただ、再生プラの活用を増やすには自社製品由来プラだけでは限度があり、他の廃棄製品からの利用を増やすことにした。

 問題は品質だった。他製品の再生プラは材質がバラバラで劣化もしている。同社第二設計本部の秋葉康シニアスペシャリストは、「(再生後の品質を高める)アップグレードのため、材料メーカーとの協力が必要」と考え、日鉄ケミカル&マテリアル(東京都千代田区)と共同で強度や難燃性のある新しい再生プラを開発した。

 安定調達も課題だったが、同愛会リプラスからなら魚箱由来の再生プラを安定的に確保できる。三菱電機系の家電リサイクル工場からも調達し、標準的な機種の給紙トレーを再生プラから作れるようになった。

 メーカーが再生プラの使用量を増やせば国内で資源が循環され、海洋への流出も防げる。リコーサステナビリティ推進本部の長澤孝幸グループリーダーは、「資源循環にはいろいろな協業が必要」とし、再生プラの供給先を探している。
 帝人とも協業し、筐体にも生プラの活用を始めた。

魚箱を含む再生プラからできたリコー製品の給紙トレー

(文=編集委員・松木喬)
日刊工業新聞2018年10月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「市場経済でやっている」という大川顧問のコメントが印象的でした。障害者の施設だからペレットを買ってもらっている訳ではないそうです。魚箱に限らず、廃ペットボトルなど他の廃プラ製品も国内でのペレットへの再生は増えないのでしょうか?プラ対策はこれから急展開するのでは。

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