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ロームが電源ICで世界3強を追撃!海外企業買収で“アナ・デジ”技術に厚み

アイルランドのデジタル電源LSIメーカーを買収。アナログ特化戦略が次のフェーズへ
 ロームは23日、デジタル電源LSIメーカーである、アイルランドのパワーべーション(コーク市)を買収し、完全子会社化したと発表した。買収金額は約7000万ドル(約86億円)。自社で手がけていなかったデジタル電源制御技術を手に入れることで、電源LSI事業を強化するのが狙い。

 パワーべーションは高精度の電源供給制御が必要なデータセンターなどに適したデジタル電源LSIを手がける。ロームは、幅広く手がけてきたアナログ電源LSIに、デジタル電源LSIを加えることで、電源LSI事業のラインアップを強化する。
 
 パワーべーションへは技術者を派遣してデジタル電源LSIの開発を加速。ロームの販売ネットワークを活用することで、販売拡大につなげる。パワーべーションはデジタル電源LSIに特化したファブレスメーカーで、従業員は37人。アイルランドのほか、米国シリコンバレーに拠点を持つ。

日刊工業新聞2015年07月17日 電機・電子部品・情報・通信面



インテルとの協業成果じわり。TIの背中が見え始めた?


 ロームが電源集積回路(IC)で存在感を増している。かつて電源ICでは上位10社にも入っていなかったが、現在は自社推定で4位に浮上。最近では米マイクロソフト(MS)の基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」を搭載したタブレット端末(携帯型情報端末)向けの電源ICで定番となり、米テキサス・インスツルメンツ(TI)など上位メーカーに迫る勢いだ。リーマン・ショック以降、アナログ・パワー分野に特化してきたLSI事業の戦略が、実を結び始めた。
 
 直流電圧を変換するDC/DCコンバーターや、入出力の電圧差が小さいLDOレギュレーターなど複数の電源ICと制御回路を統合したロームのシステム電源ICが、MSの最新タブレットに搭載された。

2010年から米インテルと協業し、中央演算処理装置(CPU)向け電源ICを開発。4月にはインテルの最新CPU向け電源ICを協業第4弾として投入。その電源ICを搭載したタブレットが続々と商品化されてきた。

 個々の電源ICでロームは目立った存在ではない。TIや米マキシム、米リニアテクノロジーの大手3社が市場の過半数を抑える。そこでロームが着目したのがリファレンスデザイン(参照設計)。あらゆる機器でCPUの高性能化が進み、その電源制御は複雑化している。

 【市場総取りも】
 一方で中国など新興国メーカーの多くは、CPUメーカーのリファレンスデザインをそのまま採用する。つまりCPUメーカーの要求に応じた電源ICを供給できれば、その市場を総取りできる可能性があるのだ。インテルとの協業ではタブレットだけでなく、自動車・産業機器分野でカーナビゲーションなどを高度化する車載インフォテイメント向けに電源ICを供給。また、車載分野で高いシェアを持つ米フリースケールとも13年から協業している。

 「品質第一で取り組んできたことが評価され、ロームのアナログICへのニーズが海外でも高まってきた」とLSI商品戦略本部の太田隆裕副本部長は手応えを話す。システム電源ICで存在感を示したことで、個別の電源ICも好調。国内の半導体大手がシステムLSIに特化し、アナログ技術者の多くがロームに流れ込んだこともあり、国内では電源ICでトップを走る。

 薄型テレビなどで国内家電が劣勢となるにつれ、カスタムICを主力としていた同社のLSI事業も低迷。10年3月期に1821億円だった同事業の売上高は、13年3月期に1407億円まで落ち込んだ。それが再び増勢に転じ、16年3月期は1814億円を計画。「アナログ・パワーに絞ったことが正解と出た」(太田副本部長)と自信を深めている。
 (文=尾本憲由)
日刊工業新聞07月24日 3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
一時、ロームの半導体事業は低迷し大がかりな構造改革を断行した。今回の買収は、その手応えからだろう。これからアナログとデジタルをミックスした技術は電源系に必要不可欠。

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