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英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(前編)

文=小泉雄介 個人情報保護の見解カギ
英国はどこまで人を追い続けるのか。“監視カメラ大国”の最新事情(前編)

監視社会を予見したジョージ・オーウェル「1984」の演劇(ロンドンにて)

 英国国内に設置される監視カメラは400万―600万台と言われ、世界有数の監視カメラ大国である。監視カメラコミッショナー(SCC)によると、英国の都市で市民が1日にカメラで撮影される回数は平均300回だという。近年利用が増えている身体装着ビデオ(BWV)など可搬式のものを含めれば、市民はそれ以上の露出に晒(さら)されている。

 英国初の監視カメラは1961年に地下鉄Holborn駅に設置された。70年代―80年代にかけての設置は店舗での防犯、車道での交通監視、地下鉄での安全運行と目的が限定的であったが、90年代以降は公道や学校といった公共空間での一般市民を対象とした撮影が拡大していった。

 この大きな契機となったのが、93年のジェイムス・バルジャー事件であり、少年2人組による幼児殺害事件において、監視カメラ画像が犯人特定にある程度寄与し、政府はこれ以降、カメラ設置を推進することとなった。

 【5年間で1億ポンド】
 98年制定の犯罪・秩序違反法の下で開始されたCCTV(監視カメラ)イニシアティブでは、内務省が自治体のカメラ設置に5年間で1億ポンド強の補助金を拠出している。05年にはロンドン同時爆破テロが発生し、ここでも実行犯の特定にカメラ画像が寄与している。

 ただし、10年のブラウン労働党政権からキャメロン保守自由連立政権への政権交代に伴い、監視カメラの規制を強める政策に舵(かじ)が切られた。背景には、公共空間において犯罪と無関係な一般市民を常時撮影することについて、市民団体による強い反対運動があったことが挙げられる。

 従来から98年制定のデータ保護法で規定されたICO(情報コミッショナーオフィス)という個人情報保護の監督機関がCCTVの行動規範を策定してきたが、上記の政権交代によって12年に自由保護法が制定され、同法の下でSCCという公共分野の監視カメラ専門の監督機関が新設された。併せて13年に監視カメラ行動規範が策定された。このように英国には二つの監督機関があり、市民にとって分かりにくいとの意見もある。

 【法改正で議論】
 日本でも個人情報保護法改正に当たって議論されるのが、監視カメラで撮影した人物画像が保護対象の個人情報に当たるか否かの問題である。英国ICOの見解では、顔画像は特定個人を識別できる限り、個人情報である。また、顔認識技術において顔画像を数値に変換した顔特徴データについても、当該個人にユニークなものであり、本来的に特定個人に結びついているので、それ単体で個人情報との見解であった。次回も法解釈上の論点について紹介する。
  文=国際社会経済研究所主任研究員(NECグループ)小泉雄介氏
 (後編は7月31日公開予定)
 ※毎週金曜日に日刊工業新聞で「ICT世界の潮流」を連載中

 
日刊工業新聞2015年07月24日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ディープラーニングを使うと人間の画像認識の精度を超えるほど画像認識技術は向上している。これから人工知能が生活に入ってくると、既存の法制度で定性的に人間が納得していたものに、定量的にパラメーター設定されていくことになるだろう。法制度だけでなく、人間の根本的な倫理感が問われてくる。

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