デザイナー・水戸岡鋭治氏が語る「或る列車」の本質的な魅力
「予算を超えたところに感動するゾーンがある」―JR九州の観光列車がいよいよ8月8日から運行
JR九州が8月8日から運行を始める「或る列車」。金色に輝く車両は、1906年に当時の九州鉄道が米国のブリルに発注した幻の豪華客車を、鉄道模型の大家である原信太郎氏が残した模型から再現したもの。JR九州の観光列車と言えば、「ななつ星」が未だに高い人気を誇る。ななつ星以来の最新観光列車となる「或る列車」のデザインを手がけた水戸岡鋭治氏にその魅力を聞いた。
デザインに光る職人技
―JR九州の観光列車としては、ななつ星以来、10作目となりましたが、デザインの特徴は。
「1両目は明るく、僕の苦手なスタイルで、ロマンチックにした。2両目はちょっと大人の雰囲気で、和のテイストもふんだんに使っている。スイーツトレインということで、ちょっと恥ずかしいけど、ハートマークのモチーフもデザインした。車内にもハートマークがいっぱいある。世界に一つしかない車両を作るということをこだわった」
―約6億円を投じて「キハ47形」を改造しましたが、デザインで手をかけた部分はどこですか。
「フロント部分の唐草は、車体に合わせるために職人が何度もばらしながら、一つ一つ調整して留めている。6ミリの厚みの鉄板を切って磨き直し、金の粉を吹き付け、出来たものをもう一回、角をとるなど、非常に時間かかっている。私も昨日まで職人と一緒に磨きの作業をしていた。ドア部分のステンドグラスも、自分で形と色を決めたし、車内に飾っている絵も、カーペットも自分でデザインを描いた。すべて特注品で既製品は使っていない。すべて図面から書いたオリジナル。8月8日から走り始めると、使い勝手など問題点が出てくるので、ずっとデザインしていかないといけない。デザインメンテナンスをこれからもやっていく」
―車両の改造だけで6億円というのは、他社の観光列車の投資額と比べても非常に高額です。
「或る列車やななつ星は、思いがないと作れない。採算を度外視ししても、利用者に対する優しさをもっている、JR九州しか作れない。予算内で出来る仕事でいい仕事はない。予算少し超えたところにヒットする、感動するゾーンがある。そういう意味では、ちょっとお金を使いすぎてしまった」
他にも観光列車はあるが、誰もJR九州のように本気で作ってない
―観光列車では、JR九州が他のJR各社をリードしていますが、なぜ、観光列車に力を入れる必要があるのでしょうか。
「JR九州は上場も控えていて、会社の価値や考え方を目に見えるものでしっかり伝えないといけない。一般の方に理解してもらうためには、車両はもってこいのプレゼンテーションの道具で、これで少々赤字になっても十分効果はある。その代わり、本気で作らないと、誰が見ても満足できなければ失敗だし、見た人が家族と乗ろうと思ってくれれば最高だ」
「他のJRも観光列車を作っているけど、誰もJR九州のように本気で作ってない。九州の人が見ればすぐわかる。九州の人たちは知らないうちにオリジナルのものに乗っている、他の街に行くと既製品を使っていて特注感ないから、寂しいと思ってしまう。JR九州のお金はもともと九州の人から集めたものだから、電車も九州の人たちが所有している」
「地域の人に何を提供するか、というのは非常に重要で、電車だけでなく、駅もそうだし、いいものを作っていかなければならない。そうすると信頼関係が生まれて、JR九州を愛してくれるし、もっと使ってくれるようになる。結果的にみんながハッピーになる。そのためにはプレゼントが必要で、或る列車はその一つだ」
―車両のデザインで最も大事にしていることは。
「いつも利用者の目線で車両のデザインをしている。だから、使い勝手が悪いとか、鉄道会社とはぶつかることも多い。でも、それを許してくれるのはJR九州しかない。それでいいと言ってくれるのはJR九州だけだ。デザインはななつ星が終わってから、約2年かけてやってきたが、その間に他の仕事の依頼もあった。でも自分にとってはJR九州の仕事が一番大事で、今回、非常に楽しく仕事をさせてもらった」
「JR九州は私の育ての親であり、私をデザイナーにしてくれた会社。私のデザインを守ってくれたのは九州の人たちで、九州の利用者がおもしろいと言ってくれたから、私が生き残れた。ななつ星や或る列車は九州の人たちへの恩返しであり、乗らなくても見るだけでも感動するような列車を作るのが私の役割だと思っている」
(聞き手=高屋優理)
<プロフィール>
水戸岡 鋭治(みとおか・えいじ)1947年生まれ、岡山県出身。工業デザイナー、イラストレーター。岡山県立岡山工業高校卒業後、大阪やイタリア・ミラノのデザイン事務所などを経て、1972年、東京にドーンデザイン研究所設立。家具や建築のデザインを中心に行う。JR九州の香椎線にリゾート列車(アクアエクスプレス)をデザインし、脚光を浴びる。これをきっかけにJR九州の車両、駅舎などを多数デザインし、また多くの賞を受賞している。>
デザインに光る職人技
―JR九州の観光列車としては、ななつ星以来、10作目となりましたが、デザインの特徴は。
「1両目は明るく、僕の苦手なスタイルで、ロマンチックにした。2両目はちょっと大人の雰囲気で、和のテイストもふんだんに使っている。スイーツトレインということで、ちょっと恥ずかしいけど、ハートマークのモチーフもデザインした。車内にもハートマークがいっぱいある。世界に一つしかない車両を作るということをこだわった」
―約6億円を投じて「キハ47形」を改造しましたが、デザインで手をかけた部分はどこですか。
「フロント部分の唐草は、車体に合わせるために職人が何度もばらしながら、一つ一つ調整して留めている。6ミリの厚みの鉄板を切って磨き直し、金の粉を吹き付け、出来たものをもう一回、角をとるなど、非常に時間かかっている。私も昨日まで職人と一緒に磨きの作業をしていた。ドア部分のステンドグラスも、自分で形と色を決めたし、車内に飾っている絵も、カーペットも自分でデザインを描いた。すべて特注品で既製品は使っていない。すべて図面から書いたオリジナル。8月8日から走り始めると、使い勝手など問題点が出てくるので、ずっとデザインしていかないといけない。デザインメンテナンスをこれからもやっていく」
―車両の改造だけで6億円というのは、他社の観光列車の投資額と比べても非常に高額です。
「或る列車やななつ星は、思いがないと作れない。採算を度外視ししても、利用者に対する優しさをもっている、JR九州しか作れない。予算内で出来る仕事でいい仕事はない。予算少し超えたところにヒットする、感動するゾーンがある。そういう意味では、ちょっとお金を使いすぎてしまった」
他にも観光列車はあるが、誰もJR九州のように本気で作ってない
―観光列車では、JR九州が他のJR各社をリードしていますが、なぜ、観光列車に力を入れる必要があるのでしょうか。
「JR九州は上場も控えていて、会社の価値や考え方を目に見えるものでしっかり伝えないといけない。一般の方に理解してもらうためには、車両はもってこいのプレゼンテーションの道具で、これで少々赤字になっても十分効果はある。その代わり、本気で作らないと、誰が見ても満足できなければ失敗だし、見た人が家族と乗ろうと思ってくれれば最高だ」
「他のJRも観光列車を作っているけど、誰もJR九州のように本気で作ってない。九州の人が見ればすぐわかる。九州の人たちは知らないうちにオリジナルのものに乗っている、他の街に行くと既製品を使っていて特注感ないから、寂しいと思ってしまう。JR九州のお金はもともと九州の人から集めたものだから、電車も九州の人たちが所有している」
「地域の人に何を提供するか、というのは非常に重要で、電車だけでなく、駅もそうだし、いいものを作っていかなければならない。そうすると信頼関係が生まれて、JR九州を愛してくれるし、もっと使ってくれるようになる。結果的にみんながハッピーになる。そのためにはプレゼントが必要で、或る列車はその一つだ」
―車両のデザインで最も大事にしていることは。
「いつも利用者の目線で車両のデザインをしている。だから、使い勝手が悪いとか、鉄道会社とはぶつかることも多い。でも、それを許してくれるのはJR九州しかない。それでいいと言ってくれるのはJR九州だけだ。デザインはななつ星が終わってから、約2年かけてやってきたが、その間に他の仕事の依頼もあった。でも自分にとってはJR九州の仕事が一番大事で、今回、非常に楽しく仕事をさせてもらった」
「JR九州は私の育ての親であり、私をデザイナーにしてくれた会社。私のデザインを守ってくれたのは九州の人たちで、九州の利用者がおもしろいと言ってくれたから、私が生き残れた。ななつ星や或る列車は九州の人たちへの恩返しであり、乗らなくても見るだけでも感動するような列車を作るのが私の役割だと思っている」
(聞き手=高屋優理)
水戸岡 鋭治(みとおか・えいじ)1947年生まれ、岡山県出身。工業デザイナー、イラストレーター。岡山県立岡山工業高校卒業後、大阪やイタリア・ミラノのデザイン事務所などを経て、1972年、東京にドーンデザイン研究所設立。家具や建築のデザインを中心に行う。JR九州の香椎線にリゾート列車(アクアエクスプレス)をデザインし、脚光を浴びる。これをきっかけにJR九州の車両、駅舎などを多数デザインし、また多くの賞を受賞している。>
日刊工業新聞2015年07月27日パーソン面に加筆