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リーマン・ショック10年、元経産次官・北畑氏が語る危機の本質

元経済産業事務次官の北畑隆生氏インタビュー
 米リーマン・ブラザーズが経営破綻してからまもなく10年を迎える。米国でサブプライムローン問題が起こり、低所得者向け住宅ローンが回収できなくなり、銀行が破綻。ローンの引き受け手であった投資銀行・リーマン・ブラザーズが倒産し、世界的金融危機「リーマン・ショック」につながっていった。日本でも日経平均株価が大暴落し、失業率が上昇、大きな打撃を受けた。現在、日本経済は立ち直り、日経平均株価は2万円台で推移、企業は過去最高益を出すなど好調だが、仮想通貨の台頭や新興国通貨の下落など新たな懸念材料も出てきている。リーマン・ショックとは何であったのか。その教訓と展望を当時の関係者に聞く。初回は元経済産業事務次官の北畑隆生氏。(3回連載)

 ―リーマン・ショックの本質とは。
 「新しい米国型の金融システムが挫折したということだ。当時、住宅や自動車のローンを組めるかどうか分からない人にまで貸し、それらの債権を金融工学で確率計算して組み合わせる金融を開発し転売していた。金余りの状況だったので、運用先を求める顧客が世界各地にいた。だがローンを返済できない人が続出し(債権者が)共倒れになってしまった」

 ―当時の経済情勢をどう見ていましたか。
 「100年に1度の大不況と報道されていたが、そんなことはないだろうという直感があった。日本は石油ショックやバブル経済の崩壊など、もっと大きな不況があった。消極的になると一段と悪化すると考え、日本の経営者には『100年に1度の大不況ではない』と言っていた」

 ―その理由は。
 「欧米に比べて日本は不良債権が少なく、金融システムは揺らいでいなかった。つまり、景気循環の問題だけだった。一時的に生産は落ちるが、いずれ在庫が解消されて好景気になるという話であり、実際、トヨタ自動車など日本の製造業は大幅に減産したので回復は早いと思った」

 ―海外も着実に回復していきました。
 「米国は人口増加社会であり、しばらく減産すれば必ず住宅と自動車は売れる。また中国は国の威信をかけた上海万博を目前に控え、不況にするわけにいかず、需要を喚起すると予想していた。実際に4兆元(約57兆円)の財政出動を行った。米国は自力で回復し、中国も減少した需要をカバーするので、日本の産業界には『もう少し待てば回復する』『自信を失う必要はない』と言っていた」

 ―同様の金融危機が再び起きるリスクはありますか。
 「過去の経験もあるし、国際決済銀行(BIS)規制の強化など防止システムも整備されたので、再度起きることはなく制御できるだろう。ただ仮想通貨など金で金を稼ぐビジネスは危うい。警戒しないといけない」

元経済産業事務次官・北畑隆生氏

(2018年9月4日)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
2008―09年ごろは危機感をあおる情報が氾濫し、経営者は座標軸を失っていた。こうした中、北畑氏の冷静な分析と発言は、当時の経営者にとって大きな指針となっただろう。危機に陥った時こそリーダーの真価が問われると言うが、北畑氏の行動はまさにその真価を発揮したと言える。(編集委員・敷田寛明)

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