患者や家族の負担を少なくする…がん・認知症の治療法の今

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日本光電の物忘れ相談プログラム。記憶力のテストなどで認知症の早期診断をする(鳥取大提供)
 高齢化社会が進み、加齢と関連が深い疾患への対策が急務となっている。中でも認知症とがんは、加齢に伴って発症リスクが増大する代表的な疾患だ。国民の2人に1人ががんになるといわれ、認知症は2025年には65歳以上の5人に1人が発症すると予測されている。自分や家族がこうした疾患になった場合、いかに通常の生活を維持できるかが重要だ。近年、こうした疾患の予防法や負担の少ない治療法が広がりつつある。

「認知症」 睡眠習慣の改善重要


 認知症は、原因となるたんぱく質「アミロイドベータ」(Aβ)が30―40年かけて脳の神経細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことで発症する。数十年かけて発症する生活習慣病的な特徴から、予防の重要性を再評価する医師が増えてきた。

 認知症予防を研究する鳥取大学の浦上克哉教授は認知症の発症と生活習慣との関連について、「睡眠をしっかりとった人とそうでない人とでAβのたまり方が違う。3―5年以内には発症率との関連が示されるのではないか」と説明する。30―40代からの睡眠習慣改善を促す。

 効果的な予防法の研究も進む。軽度認知症(MCI)ではまず嗅覚神経に異常があらわれ、脳の神経へと進行し認知症になる。「これまでの研究により、ローズマリーなどの抽出成分の香りを嗅ぐアロマセラピーで神経を刺激すると、MCIであれば回復する患者がいることが分かってきた」(浦上教授)と予防の効果を指摘する。

 しかし介護のために家族が仕事を断念するという介護負担の問題は残る。徘徊(はいかい)や暴言、日常生活が困難になるといった「行動・心理症状」(BPSD)は大きな問題だ。

 このBPSDについて浦上教授は「患者への接し方を改善すればBPSDは防げる」と話す。「記憶力は大事な能力。これに障がいがあると全てがダメだと感じてしまい、家族が患者を叱ることがある。患者の家族には『記憶のつえになってください』と助言する」(浦上教授)。医師からの適切な助言で対策を講じることで、BPSDに困らずに生活できるケースもある。


「がん」 放射線治療で狙い撃ち


 がんの場合、男性では50代から患者数が増加するなど働く世代にとって大きな問題だ。優れた治療法や薬が開発されているが、不安や負担は少なくない。

 その中で、放射線を使ったがん治療は、化学療法で起きる脱毛や吐き気などの副作用が少なく治療期間も短いといった利点がある。特に炭素イオンなどの重粒子を使った「重粒子線治療」は、よく用いられるX線やガンマ線より優れた特徴を持つ。X線やガンマ線は体の表面より深部では線量が弱くなるため、がん組織を死滅させるために何度も照射する必要がある。一方、重粒子線は体の深部で線量が高くなる性質があり、がん組織だけを狙って攻撃でき、照射回数が少なく正常細胞への負担が少なくて済む。

 量子科学技術研究開発機構の東達也部長は、「重粒子線治療は、体への負担が小さくて済む。放射線に弱い消化器を除けば、肺や膵臓(すいぞう)などの多くのがんで効果が期待できる」とメリットを説明する。

 さらに放射性同位体(RI)を注射や経口投与で体内に取り込む「核医学治療」も利用が拡大する。骨へ転移した前立腺がんの治療薬「ゾーフィゴ」が国内で承認されてから、治療可能な患者が増加した。ゾーフィゴは放射性同位体ラジウム223を使った放射性医薬品。注射で投与したラジウムはがん細胞に取り込まれ、そのラジウムが放出するアルファ線でがん細胞を攻撃する。アルファ線は数マイクロメートル程度しか飛ばないため、2―3個のがん細胞のみを攻撃でき、正常組織に影響を与えないというメリットがある。東部長は「体の外に放射線が出ないので、入院が不要で患者の負担が少ない」と話す。

 さらに量研機構は7月、国内で製造する初めての放射性医薬品「64Cu―ATSM」を悪性脳腫瘍患者に投与する治験を始めると発表した。量研機構の放射線医学総合研究所が保有する加速器(サイクロトロン)で薬剤を製造する。

 

日刊工業新聞2018年8月16日

COMMENT

普通の生活を送りながら、疾患の治療や介護ができれば患者やその家族の負担を減らせる上、経済損失を防げる。加齢と切り離せない疾患の治療は効果の高さだけでなく、治療の負担を減らし生活への影響が少ないかが重要な視点だ。今後、研究開発や実用化が進みそうだ。 (日刊工業新聞社・安川結野)

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