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トヨタ自動車のロボットへの本気度はいかに?

開発環境のオープン化でアプリケーションの充実を図る
トヨタ自動車のロボットへの本気度はいかに?

トヨタの生活支援ロボット「HSR」

 トヨタ自動車がロボット事業を前進させる。開発環境をオープン化し、生活支援ロボットの実用化を加速させる。トヨタの正式発表と2014年9月に日刊工業新聞に掲載された記事から、トヨタのロボットにかける動きを紹介する。

生活支援ロボットの開発コミュニティを発足


 トヨタ自動車は障害者や高齢者向けの生活支援ロボット(HSR)の実用化を研究機関などと共同で進める「HSR開発コミュニティ」を発足すると発表した。共同研究をしてきた数機関と9月をめどに活動を始める予定。加盟機関にはトヨタが開発した新型HSRを貸与する。

 加盟機関はトヨタのHSRを使い、障害者や高齢者などの生活支援を想定した機能を高める技術開発を推進。ソフトウエアやノウハウなどの研究成果を共有して技術開発を加速する狙い。トヨタは実証実験の協力先を紹介するなど、実験の推進面も支援する考え。

 HSRは小回りのきく円筒型のボディーに格納できるアームを備え、床の上の物を拾ったり、棚から物を取ってきたりするロボット。2012年の発表以降、障害者や介護福祉関係者などの評価を踏まえ、改良を重ねていた。今回、研究用として貸与する新型HSRは、機能性、安全性、運用性などを向上させているという。

外部の知を活用してアプリケーション開発を加速


 トヨタ自動車はサービスロボットの開発環境を1年内にオープン化する。基盤となるプラットフォーム機を2015年までに提供した上で、用途別のアプリケーションは社外の技術者やユーザーを巻き込んで開発する体制を築く。

 多目的なロボットを現場のニーズに沿って実用化するには、「クラウドソーシング」のように、より多くの知恵を結集することが必要と判断、オープン化にカジを切る。同様に生活ロボの開発を進めるソフトバンクや米インテルなどもオープン化を志向しており、家庭用ロボットをめぐるプラットフォーム競争が加速しそうだ。

 トヨタはプラットフォーム機として生活支援ロボット「HSR」の次期モデルを2015年までに開発し、大学研究室などに提供する方針だ。

 家庭で使うことを想定したサービスロボットには掃除・洗濯など幅広い機能が求められ、担う作業(タスク)は多い。ユーザーごとに操作インターフェースを変えるような工夫も必要となる。そこでスマートフォンのアプリケーションソフト開発のように、社外の技術者やユーザーを巻き込んだ開発環境を構築する。

 開発したタスクをユーザー間で共有したり、購入できるといった仕組みについても検討している。多様な家事・作業を整理し、タスクに落とし込むため家政学研究者らとも協議している。

 応用的な開発には協力して取り組むことで、より確かな解決策を迅速に見いだせる。一方、トヨタは機体のコストダウンなど基礎開発に時間を振り向けられる。

 トヨタは手足が不自由な難病患者や高齢者の自立支援を目的に「HSR」を開発している。落ちた物を拾ったり、離れた場所から薬を取ってくるなどの軽作業の代行を狙いに実用化を目指す。

 家庭用ロボットをめぐっては、ソフトバンクが「ペッパー」を15年2月に発売予定で、これをプラットフォームとして開発ツールを9月中に公開する。開発をオープン化することでメーカーの保証外でさまざまなタスク開発が進むと予想されている。

 米インテルも3Dプリンターで作製できるロボット「ジミー」の構想を発表。スマホのアプリのように機能を付加できるロボットを1000ドル以下で発売する予定だ。
日刊工業新聞2014年09月02日1面/2015年07月17日 機械・ロボット・航空機面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
2011年に生活支援ロボットを大々的に発表して以降、少し進捗が鈍っていた印象のあるトヨタが、実用化に向けた具体的な取り組みに着手した。同社の事業規模からすればまだまだ小さい動きだが、社会へのインパクトや裾野の広がりは大きい。米国などに比べてアプリ分野が弱い日本の開発環境にどんな影響を与えるか、期待したい。

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