ひらめく会議はPDCAの逆を行け!価値を生む共感づくりの方法

変化の時代のコミュニケーション力①

 ビジネスの場で、かつてないほど「コミュニケーション能力」が求められている。経団連の調査では、15年連続で、企業の新卒採用選考で重視する要素の1位となった。多様な人材がアイデアを出し合い、新しい価値を生み出すことが求められている。変化の時代に何かを創り出すコミュニケーションのあり方を探る。

停滞しない会議のコツ


 企業内の主要なコミュニケーションの一つは会議だが、良いアイデアが浮かばず、話が停滞することもしばしばある。富士ゼロックス研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所の河野克典グループ長はひらめきには、「PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルの“逆”が必要だ」と主張する。

 左脳を働かせると言われるPDCAはリスクを最小化する手法としては優れるが、アイデアは可能性を広げて考えるほうがいい。「直感や他者とつながるとされる右脳が活発化すれば『集団でひらめく』」。

 同社は理論だけでなく、東日本大震災からの復興のアイデアを住民や行政、企業といった異なる立場の人が考える「対話会」で実践している。

 具体的には、PDCAのスタートであるプラン(計画)を立てずに、人脈づくりから始める。役職や立場から離れた個人として、損得抜きで人とつながる。その状態で、周りの人が何をしたいか聞く。すると、お互いに共通した「大事なこと」に気づきやすくなる。

 さらに話を聞く時は意見をぶつけず、「相手の対象への向き合い方を見る」と河野グループ長は話す。例えば戦国武将が好んだ茶の湯が好例だとか。正面に座らず、所作や一輪挿し、茶の湯への姿勢から、立場を離れて信頼できる人間かを感じとる。戦国時代に茶の席で和解が成立できたのも理解できる。

 一方、一般的な会議室は人工的過ぎて、右脳があまり働かず、共感やひらめきが起こりにくい状態だという。原因は左脳が担う思考への偏り。相手の発言の裏に「嫉妬」や「寂しさ」などの感情があれば、発言内容より感情へ対処した方が話し合いはうまくいきやすい。だが、「次に何を言おう」と考え事ばかりしていれば、声やしぐさといった感情のサインを見逃す。「五感に刺激を与え、意識を思考状態から『今ここ』に引き戻すことが有効だ」と河野グループ長は話す。
拡大インタビュー・河野氏「最初の一言で、会議にチームワークのスイッチを入れる簡単な方法」

対話会では立場を離れてみんなが輪になって座り、相手の話に耳を傾ける

外側から活発化できる


 コミュニケーションの活発化は、「どんな場所で働くか」という外側からもできる。コクヨワークスタイル研究所の若原強所長は、「組織を強くするために、偶発的なコミュニケーションを活発化するオフィスが注目されている」と指摘する。普段の何げない会話から、誰が何に詳しいかなどの情報を共有しておけば、新プロジェクトを始めたい時に最適なメンバーがすぐに見つかるからだ。

 喫煙所で顔を合わせて、「最近どう?」と話すようなことを、喫煙所以外でも実現する。例えば、仕事や打ち合わせ、休憩など多目的に使えるスペースを、執務場所からトイレに行く途中の動線に配置すると人が集まる。また、執務場所の机をジグザグに配置すれば、歩く距離が延びて会話が生まれやすい。

 ただ、交流しやすいオープンなオフィスは、逆に1人で集中したい仕事に向かない。そこでコクヨは2017年に移転した自社の新オフィスで、一部に「集中スペース」を設けた。「交流したいときや集中したいときなど、仕事内容に応じて適した場所を選ぶ『アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)』を社外にも提案している」と若原所長は話す。

 また、新しい価値を生み出すには、「組織力学からの適切な脱出と、社外との適切な接点が必要だ」とも。他部署や他社の人と気軽に交流し、多くの「想定外」を得る。このため、外に開かれた場を社内に設置する企業が増えつつある。
拡大インタビュー・若原氏「ヒントはグーグルの社食?未来のオフィスは『求心力』で進化する」

オープンな場所での会議は飛び入り参加もできる(コクヨのオフィスの一部、同社提供)

自分の「好き」が共感の第一歩


 コミュ力を求められても、自信のない人は少なくない。伝えるプロであるスピーチライターの蔭山洋介氏は、「社会的なコンセンサス(合意)が揺らぎ、昔に比べコミュニケーションの難易度が上がっている」と分析する。

 90年代は自由や多様性が正義だったが、今は移民や外国人参政権に反対する人もいる。価値観の違いを確認しながら共感を探るには、より高度なコミュ力が必要だ。人生の成功モデルも変わり、「好きな事で生きる」ことが推奨されるようになった。だが、強く好きと思えるものを持つ人は少ない。目標がないと、自信を持ったコミュニケーションが難しい。

 「自分のブランディングから始めてみてほしい」と蔭山氏は提案する。今と未来の成長した自分をイメージし、好きなバッグや洋服、家具などを一つずつ選ぶ。意識的に好きなものを探し、自分の方向性を決める。周りの人からも見られるため、退路を断つことにもなる。

 自分の世界観がはっきりすれば、コミュニケーションの土台になる。「人間はわかり合いたい生き物。コミュニケーションの基本は、子どもが好きなものを『見てみて』というのと同じ」と蔭山氏。自信を持って好きなものを発信するのは、共感を得る第一歩。セルフブランディングできる人は、新しい価値をつくれる。

 ただ、50―60代の企業経営層が社員に求めるコミュ力は難易度が高いかもしれない。50―60代は同じ釜の飯を食う共同体型の企業で成功体験を積んだ。若手にも「企業の秩序を乱すことなく、新しい価値を生む」ことを求めがちだ。だが、空気を読んで秩序を守るのと、独自の意見を言うのは、逆の能力だ。これの両立には実績や人間関係、根回しなどの全てを使って、「こいつの言う事は聞いておこう」という下地をつくる必要がある。

 将来、会社や個人の関係が変われば、コミュニケーションのあり方も変わる。時代や周囲の変化をつかまえ続けられれば、コミュ力も磨かれる。
拡大インタビュー・蔭山氏「スピーチライターが教える。相手に響く話のためのトレーニング」

(2018年8月3日)

梶原 洵子

梶原 洵子
08月06日
この記事のファシリテーター

多くの企業がコミュニケーション能力の高い人材を求めています。そもそも企業が求めるコミュニケーションはどんなものでしょうか?企業であれば、最終目的は多くの人に受け入れられる価値やアイデアを創り出すことだと思います。これを基点に、3人の専門家にインタビューしました。話は脳の働きや未来の働き方、社会の変化など、思わぬ方向に転がっていきました。今回はそのダイジェスト版。次回以降はそれぞれのインタビューを詳しく掲載します。

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