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前回の五輪は施設全体の整備費で「164億円」デザイン変更で金額はどうなる?

新国立競技場の建設計画の見直しが決定。1800億円程度に減らすという声も出ているが・・
前回の五輪は施設全体の整備費で「164億円」デザイン変更で金額はどうなる?

オリンピックスタジアムの外観イメージ(日本スポーツ振興センター提供)

 安倍晋三首相は17日午後、新国立競技場の建設について「現在の計画を白紙に戻す。ゼロベースで見直す」と表明した。五輪組織委員会の会長を務める森喜朗元首相と官邸で会談後に記者団に語った。新国立競技場は2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる。

 現在の計画は日本スポーツ振興センター(JSC)の国際公募で2012年11月に最優秀賞となったイラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏のデザインに基づき作成された。2本の弓状の巨大な構造物「キールアーチ」が屋根を支える特殊な構造のため、整備費が当初の約1300億円から2520億円に膨らみ、与野党や世論の批判が高まっていた。

 菅義偉官房長官も同日の記者会見で「デザインそのものが大きな工事費につながっている」とし、工費縮減にはデザインの段階から抜本的に見直す必要性を示した。これにより2019年のラグビーW杯日本大会で新競技場の使用は断念することになりそうだ。

五輪招致前の「経済効果」皮算用はどうなるのか!?


 <日刊工業新聞2013年9月2日付深層断面から一部抜粋>

 アジア初のオリンピックとなった1964年の東京オリンピックでは、国立競技場建設など施設整備に約164億円、運営費などを含めると約281億円を投じた国家プロジェクトだった。東海道新幹線の開通、地下鉄の建設、高速道路、上下水道などインフラ整備も進んだ。その経費総額は当時の国民総生産(GNP)の約2・5%相当の1兆円に達し、高度経済成長の追い風となった。

 1972年開催の札幌冬季オリンピックでも都市整備が行われ、前年のニクソンショックによるドル安・円高不況から脱するきっかけとなった。1998年の長野冬季オリンピックは日本経済が低成長期に入っていたが、長野新幹線開通や道路整備などで長野県や周辺地域の経済は息を吹き返した。

 56年ぶりの東京開催は「心のデフレを払拭(ふっしょく)し、東日本大震災の復興と新しい成長を示す大会となる」。招致出陣式で招致委員会会長の猪瀬直樹東京都知事都がこう鼓舞した。
 
 【建設業界は冷静に実際の効果見極め】
 大きな経済効果が試算される中、建設業界は冷静に実際の効果を見極めようとしている。東京都における需要増加額9669億円のうち、3分の1強を占めるのが競技場や選手村などの大会関係施設整備費3557億円。これは東京オリンピック招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した申請ファイルに盛り込んだ金額で、かなり“手堅い数字”だ。また、今回の試算ではオリンピックと直接的には関連なく整備される道路や鉄道などのインフラ関係は算定対象から外れており、潜在的な需要増加も見込まれる。

 ただ、開催が決定してから20年までの8年が試算対象であり、施設整備費を年間平均すると444億円余り。しかも最大案件でメーン会場となる国立競技場(新宿区霞ケ丘町)は、老朽化が進んで大会の有無に関係なく建て替えが決まっていた。その建設費約1300億円(解体費含まず)を除いた“真水”は約2250億円になり、年間平均では280億円規模。都心部で雨後の竹の子のように増え続ける超高層ビル1棟分といったところだ。

 国立競技場の建て替えは基本構想デザインコンペティションによりイラク出身で英国在住の女性建築家、ザハ・ハディド氏の作品が最優秀賞に選ばれ、設計事務所による基本設計、実施設計段階へと進みつつある。

 だが、文部科学省による予算措置ができているのはここまで。同省のスポーツ関連予算では到底まかないきれず都の負担や民間資金活用、スポーツ振興くじ(toto)の対象を広げて増収分を充てる案なども検討されたが、オリンピック開催が決まらなければ、こちらも頓挫しかねない。招致委が既存施設を最大限活用する“コンパクト五輪”を掲げているだけに、施設整備でつち音が響き渡るような状況は考えにくい。
 
 むしろ建設業界が期待するのはインフラ関係や経済波及効果の方。都内の建設業者は「都が首都直下地震の防災対策として条例化した緊急輸送道路沿道建築物の耐震化が、オリンピックを安全に開催するために推し進められれば…」と期待する。東京都だけで1兆6753億円と弾き出された経済波及効果も安倍晋三政権の経済政策である「アベノミクスの原動力になりえる」とみる。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
つくづく前の国立競技場の改修でよかったと思う。良いモデルがある。ドイツ・ベルリンのオリンピックスタジアムは、1936年のベルリン五輪のメイン会場として造られた。古いスタジアムが多いヨーロッパでも指折りの古さ。その後も1974年の西ドイツサッカーW杯、2006年のドイツサッカーW杯と3回のビッグイベントを開いている。2度目のW杯開催のための改修費用は2億4200万ユーロ。当時のレートで約320億円。現在の霞ヶ丘周辺はサブグラウンドを持てないという欠点もあり、陸上の世界大会も開けない可能性が高い。日本のレガシーとして残すならなおさら改修でよかった。

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