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明治安田生命「手つかずの買収資金2500億円」の行方

過半出資も視野に入れるが・・10年後に海外利益10%が目標
生命保険大手4社が海外事業を積極化している。長期的に人口の縮小が避けられない日本市場とは対照的に、アジアを中心に成長の余力の大きい海外市場を取り込み、収益構造を多角化する狙いがある。ただ、背景は同じでも実際の取り組みには4社間で徐々に差が生じてもいる。各社の海外戦略を追った。3回目は明治安田生命保険。

 相互会社形態をとる日本の生命保険会社の中で、日本生命保険に続いて海外事業で注目を集めるのが明治安田生命保険。同社は現在の中期経営計画の中で海外投資に2500億円の枠を設定し、過半出資も展開する方針を示している。投資はまだ実行されていないが、先進国と新興国を中心に広く調査をかけており、案件次第では巨額の投資となる可能性もある。
 
【候補を調査】
 現在、同社の海外進出先は5カ国・6地域。もともと、海外事業については米国のパシフィック・ガーディアン生命保険を1975年度に子会社化するなど歴史自体は古い。
 
 2012年以降はオイロパなどポーランドの企業2社とインドネシアのアブリストを関連会社化。13年にはタイ大手生保のタイライフの株式約15%を取得するなど、アジアを中心に出資を相次いで実行し、進出先を拡大してきた。
 
 ここ1―2年は目立った動きがないが、成長の機会は常に狙っている。実際、16年度までの現中計で買収枠に2500億円を用意した。海外事業を担当する殿岡裕章副社長は「いい案件があれば、2500億円の枠には必ずしもこだわらない」とも話す。
 
 先進国なら早期の利益貢献を、新興国なら今後の成長性を狙う方針は日本の他生保会社と同じ。目下は北米やトルコを含む中東欧を候補に、買収・進出先候補となる企業や国の調査を継続している。これまでの少額出資とは異なり、今後は経営権の獲得を狙い、過半出資も視野に入れる。
 
 【人材育成着々】
  海外事業の強化に伴い、人材育成も進めている。14年度からグローバル人材を年代別に育成するための制度「グローバル人財育成プログラム」を開始。入社2年目の従業員で一定の語学力を持つ対象者を海外に短期派遣。その中から国際分野への登用が見込まれる数人を海外駐在に派遣するなど、10年間かけて育成する。

 経営管理を担う人材を早期に輩出する目的で、実務経験が豊富な中堅層の育成も力を入れる。海外トレーニーの派遣先を拡大し、また毎年数人を半年間の海外留学に派遣し、その後、海外関連部署に配属する。
 
 【交流も成果】
  既存出資先企業との人材交流も海外事業で成果を生み出している。実際、10年に資本・業務提携した独タランクスに従業員を派遣し、「銘柄選別や交渉の手法、買収後のガバナンスなども学んでいる」(殿岡副社長)という。12年のポーランドのワルタへの出資は、タランクスを通じて株式を引き受ける形で実現した。
 
 今後、海外事業の長期的な目標として、10年後の利益に占める海外事業の割合を10%に設定した。“アフターフォローの明治安田生命”としてブランド戦略を大々的に展開するなど、日本市場を軸におくため、海外事業は長期のスパンで取り組む考え。このため、数字としては控えめな印象を受ける。
 
 ただ、「海外事業は拙速に進めるわけではないが、いい案件があれば積極的に展開する」と殿岡副社長は説明する。収益の多角化に向けた海外戦略の取り組みが今後も続く。
(次回は7月16日に掲載予定)
日刊工業新聞2015年07月09日 金融面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
海外はあくまでも国内の補完。同社の幹部はこう声をそろえます。確かに、現在の根岸社長の社長就任後、国内の高齢契約者対応を中心とした販売後のフォローを徹底。「売りっぱなし」とかつては指摘された生命保険の印象を変える取り組みは業界でも先頭を走ります。海外に活路を見いだす他生保とことなり、ぶれない経営方針は個人的には非常におもしろいです。とはいえ、10年、20年を見据えれば、海外での足場固めもそろそろ本格化させない時期。株式会社でないので株価を意識した投資は必要でないこともあり、やや、ゆったりした感もある中、果たして、どのような一手を打つのか。

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