証書にブロックチェーン…。再生エネの調達が変わり始めた!

日本企業は遅れを取り戻せるか

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 コストが高く、量も限られる再生可能エネルギーの調達環境が変わりそうだ。再生エネが作った環境価値を入手できる「非化石証書」を政府が売り出し、企業は二酸化炭素(CO2)排出ゼロの電気を使いやすくなる。再生エネ由来の電気を選べる仕組みを提供するスタートアップ企業に出資する大企業も増えている。再生エネの調達手段が広がると、海外企業と比べて遅れている日本企業の再生エネ利用が進む。

火力発電の電気をCO2ゼロに変える証書


 日本卸電力取引所は5月中旬、非化石証書の初めての取引結果を公表した。政府が約500億キロワット時分の証書を売り出して電力会社26社が応札したものの、成立した取引はわずか0・01%の515万キロワット時だった。

 非化石証書は、固定価格買い取り制度(FIT)で認定を受けた再生エネ発電所が生み出した環境価値。政府は再生エネ電気から価値を切り離して証書化し、3カ月に1回の割合で入札する。2018年度から始めた。

 証書を購入した電力会社は「再生エネを調達」「ゼロエミ価値(CO2ゼロ価値)」を訴求した電力メニューを売り出せる。企業など電気の需要家は電力メニューを契約すればCO2ゼロの再生エネを間接的に使える仕組みだ。

 これまでFITの再生エネ電気を使っても、CO2ゼロ価値は入手できなかった。再生エネ発電所から電気を買い取る費用は需要家から徴収する賦課金で賄っており、価値は賦課金を払う全需要家が持つためだ。

 FITを使わなければCO2ゼロ電気を確保できるが、限界がある。屋根に太陽光パネルを置いても工場の操業に必要な電気を賄えるできるだけの発電量はない。その点、非化石証書は大量に発行される。証書を持つ電力メニューは大幅に高くはならず、企業が再生エネを購入しやすい。

 しかも企業の環境評価で影響力を持つ英非政府組織(NGO)の「CDP」が、非化石証書を「再生エネ利用」と認めた。企業はCDPの質問状に証書分をCO2ゼロと回答できる。火力発電の電気100万キロワット時を使っても、同量の証書があれば“CO2ゼロ企業”を標榜(ひょうぼう)できる。
               


初の入札は低調・・・改善できる?


 それでも初の入札結果は低調に終わった。今回の証書が17年度分であり、電力会社は18年度の営業で「証書あり」と訴求しにくいからだ。

 太陽光発電協会は「需要家も入札に参加できる柔軟な制度を」と訴える。現状、入札に参加できるのは電力会社だけだ。
 制度に詳しいみずほ情報総研(東京都千代田区)の中村悠一郎コンサルタントは「次回(8月予定)は、今回ほど低調ではない」と見通す。その根拠として需要家のニーズを挙げる。

 「50年にCO2排出ゼロ」など、高い目標を設定する企業が増えている。特に世界自然保護基金(WWF)などが主導する国際的な活動「サイエンスベースドターゲッツ」から意欲的な目標と認定を受けた企業ほど、電力会社に証書購入を働きかけると考えられる。

 また中村コンサルタントは、太陽光や風力といった再生エネの種類や発電所を追跡できる「トラッキングを望む企業もある」と指摘する。証書から電源は分からないため、「地元の風力発電の証書がほしい」といった指名はできない。

欲しい再生エネを指名買い!


 こうした声に応え、新電力のみんな電力(東京都世田谷区)は18年度、トラッキング可能な仕組みを提供する。再生エネ発電所が発電した電気にデジタル証書「トークン」を付ける。トークンは発電分だけ発行し、需要家に再生エネ電気の使用量に応じて配分する。取引はブロックチェーン(分散型台帳)で記録され、需要家はトークンによって電源を証明できる。
             


 同社の三宅成也取締役は「『RE100』への加盟を目指す企業に提供できる」と強調する。RE100は、事業で使う電気全量の再生エネ化を進める国際的な組織。米フェイスブック、独BMW、米マイクロソフトなど136社が加盟する。実際に米アップルや米グーグルは再生エネ100%を達成した。

 日本からはリコー、積水ハウス、イオンなど7社が参加するが、再生エネ比率は数%。非化石証書の登場でこの比率は高まりそうだが、RE100のルールでは再生エネの履歴が必要。みんな電力の扱うトークン付き再生エネ電気なら、条件を満たす可能性がある。

 みんな電力が17年度に調達した電力の6割以上はFIT由来だ。現状5000万キロワット時の調達量を19年には5億キロワット時、20年には50億キロワット時へと引き上げる。RE100を目指す企業に十分な供給ができそうだ。

電力融通に人気の兆し


 17年10月設立のデジタルグリッド(東京都千代田区)は、需要家同士で再生エネ電気をやりとりできる基盤構築を目指す。東京ガスや京セラ、三菱商事など17社から総額2億円以上の出資を受けた。

 デジタルグリッドの阿部力也会長(元東京大学特任教授)が開発した電力融通技術は、電子メールのように電気を届けたい場所に送ったり、電気を選んで購入できたりする。履歴の把握だけでなく、発電所の指定もできる。ブロックチェーンを活用し、瞬時に取引を成立させる。

 京セラの池田一郎ソーラーエネルギーマーケティング部長は「太陽光の価値を高める」と出資の狙いを話す。19年になるとFITによる売電期間が終わる家庭も出る。

 すると家庭から太陽光由来電気を集め、企業にまとめて売るビジネスが生まれると予想される。融通技術で家庭と企業が結ばれれば、京セラ製太陽光パネルを設置する家庭は売電を継続できる。「再生エネを必要とする企業にもメリットとなる」(池田部長)と期待する。

 再生エネを求める企業は確実に増えている。ニーズを満たす制度や技術、サービスがあれば日本の再生エネ比率も上昇するはずだ。

日刊工業新聞2018年6月13日

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

日本ではどの発電所の電気を買っているのか、分かりません。再生エネ由来電気といっても、それが太陽光なのか風力なのか特定はできません(系統に流れた電気はすべて)。一方で「青森の風力を応援したい」といったニーズがあります。その青森の風力にとっては選ばれるだけの価値があるはずで、高く電気を売れるかもしれません。電気の選択、相対取引に近い方法をスタートアップ企業が提供します。市場から支持されると、制度自体が「選べる」ように変わるかもしれません。

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