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「iPhone X」で空気が変わった化学大手のディスプレー戦略

三菱ケミカル、次世代は全方位で。他社と一線を画す
「iPhone X」で空気が変わった化学大手のディスプレー戦略

「iPhone X」(アップル公式動画より)

 三菱ケミカルは液晶や有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)、量子ドットなどディスプレー技術方式に対して全方位で部材戦略を立てる。有機ELが次世代ディスプレーの本命と見られてきたが、米アップルが2017年末に投入した「iPhone(アイフォーン)X(テン)」の販売低迷で空気が変わった。技術革新が速い分野だけに、部材メーカーとして技術方式を絞る“ばくち”はしない。

 三菱ケミカルは液晶向けに光学フィルムや粘着シート、カラーレジストなどを幅広く展開。有機EL向けもモバイル用にバンク材(構造材)のほか、テレビ用に低分子発光材料などを開発する。

 同社情電・ディスプレイ部門長の滝本丈平常務執行役員は「液晶の強さは有機ELに対しても明確にある。ブラウン管から液晶のように、ある日いきなり有機ELに切り替わるわけではない」と読む。有機ELは韓国のサムスン電子とLGディスプレーが気を吐き、量子ドットはサムスンが開発に力を入れている。

 現在の市場におけるディスプレー技術の争いは「色」を軸に繰り広げられている。「どういう風に良い色を出せるかの争いだが、あまり決定的ではない。それより消費者にどうやってアピールするかが勝負で、決定的な要素は形だ」(滝本常務執行役員)と予想する。アップルの最上級スマホは12万円以上という値段に見合ったアピール力が不足していたと言える。

 「結局は(端末の)形が変わらないとダメなのかもしれない。それがうまくいったディスプレーメーカーの採用した技術が普及するだけだ」(同)とし、現段階で各技術の雌雄を決することに意味を見いださない。

 「どれかの技術に賭けて全てのリソースを張り込んではいけない。競合他社より得意な材料分野がいくつかあって、その分野ならどの方式になっても仕事を受けられるように備える思想でやっていく」(同)と言い切る。ただ、形の変化となれば、自社のプラスチック技術にとって活躍の場が拡大するとのそろばんは当然はじいている。
日刊工業新聞2018年6月22日
鈴木岳志
鈴木岳志 Suzuki Takeshi 編集局第一産業部 編集委員
同じく国内化学大手の住友化学が有機ELシフトを鮮明にするなかで、三菱ケミカルは全方位戦略で一線を画す。

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