携帯業界「ポイント経済圏」の勝者は?
楽天参入に大手3社が危機感
携帯各社がポイントを軸にした各種サービスで顧客を囲い込む“経済圏”の構築を急いでいる。背景にあるのは2019年10月に参入する楽天の存在だ。
「(9500万人の楽天会員に向け)複合的なサービスを絡めながら、リーズナブルな価格と、快適な接続を実現する」―。楽天の三木谷浩史会長兼社長は第4キャリアとしての戦略をこう説明する。
楽天は電子商取引(EC)サイト「楽天市場」などグループ全体で築いた顧客を中心に、約1500万人の契約獲得を目指している。楽天の持つ巨大な顧客基盤は大きな強みとなる。
さらに楽天はブランド価値の向上にも力を注ぐ。サッカーJリーグで楽天傘下のヴィッセル神戸に、スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手を迎え入れ、全国のサッカーファンを驚かせた。楽天はイニエスタに推定年俸33億円程度を支払うとみられる。こういった巨額投資も楽天ブランド向上の一助となり、顧客獲得を後押しする。
迎え撃つNTTドコモ。「従来は回線契約を中心に顧客基盤を考えていたが、今後は回線契約の有無に関わらずdポイントクラブ会員を軸とした顧客基盤に変革する」―。吉沢和弘社長は18年度の取り組みの柱をこう表現する。
国内携帯電話市場の成熟化で回線契約数は今後大きくは伸びない。だからこそ、各種サービスとの連携で携帯電話以外にも市場が広がるポイント会員を新たな軸に据えた。
自社ポイント「dポイント」の会員数は着実に増えており、17年度の会員数は前年度比425万人増の6560万人。先行するTポイントの利用者数(過去1年間)6634万人に近づいた。ただ、楽天のID数9500万にはまだ届いていない。
このため、吉沢社長は「会員にさらなる価値を提供できる好循環を生み出す」ことを重視する。その施策がdポイント加盟店の拡大だ。利用店舗が増えれば、ポイントをより多く貯められる自社のクレジットカード「dカード」の利用も増え、ポイントで携帯電話料金を支払えるドコモの競争力も強化できる。
ローソン、マクドナルドのほか、4月末にはマツモトキヨシの店舗でも利用可能にするなど20年度までに300社以上の加盟を目指す。加盟店で買った商品の支払いを、スマートフォンに表示したバーコードで決済できる「d払い」も開始。早期に10万店への導入を目指すことで便利さも追求する。
お得感や便利さに加え、“驚き”を顧客に届けるサービスも拡充する。5月末からAIがユーザーの行動や状況を学習して生活エリアや好みに合わせた情報を適切なタイミングでスマホに届ける「マイ・デイズ」を始めた。20年までにサービス数を150件に増やし「1500万ユーザーの利用を目指す」(吉沢社長)。
「通信の同心円状にライフデザインサービスを重ねていく」―。4月に就任したKDDIの高橋誠社長はこう力を込める。新リーダーのミッションは
「au経済圏」の拡大だ。
消費者の購買活動は商品の所有に重きを置く「モノ消費」だけではなく、商品やサービスの購入で得られる体験に価値を見いだす「コト消費」への移行が目立つ。これに対応し、KDDIは顧客の体験価値を演出することを「ライフデザイン」として、成長の柱に据える。エネルギーや物販、保険、決済などの非通信事業を顧客に提案し、au経済圏を作り上げる狙いだ。
経済圏の中心にいるのは、auユーザー。高度なビッグデータ(大量データ)分析で、それぞれの顧客に適した非通信商材を提案する狙い。同社は2019年3月期にau経済圏の売上高を7300億円、流通総額は2兆4600億円と、それぞれ18年3月期の1・3倍に伸ばすことが目標だ。
経済圏拡大のカギを握るのは「お客さまにひもづいたIDと、お客さまの財布でもあるauウォレット」(高橋社長)。「ウォレットポイント」はau携帯電話などの利用料金に応じて貯まるもので、携帯料金の支払いに使えるほか、プリペイドカードとしても利用できる。
同カードは、支払時に残高不足の場合、じぶん銀行から自動入金する機能を搭載したほか、同カード利用者間での送金も可能にした。またイベントなどで利用者を優遇する取り組みを進めている。こういった付加価値サービスで顧客基盤を強固にして、経済圏の中でポイントを循環させる考えだ。
ソフトバンク(SB)も2017年6月に月額料金はそのままでヤフーの月額会員サービス「ヤフープレミアム」の特典を使い放題にした。
インターネット通販サイト「ヤフーショッピング」での買い物でもらえるポイント数も10倍にしたことで、SB・ワイモバイルユーザーによるヤフーショッピング購入者数が18年1―3月に前年同期比約3倍の222万に増加。SBとヤフーのID連携数も1200万に達した。
さらに、ネット通販事業のテコ入れに向けイオンとの提携を検討している。ソフトバンクとヤフーが持つ顧客基盤とイオンの幅広い商品力や物流網を組み合わせることで、米ネット通販最大手アマゾン・ドット・コムや楽天に対抗する狙いだ。
携帯各社は非通信事業を強化することで、それぞれの「経済圏」を拡大することに躍起になっている。ただ、ソフトバンクの宮内謙社長は「大震災を経験し、あらためてネットワークがライフラインだと感じた。ビジネスではあるが『確実につながる状態を維持する』ことが我々事業者の使命」と力を込める。
今後は各社が「通信の質」を維持していくことを前提に、非通信事業を含めた付加価値をいかに高められるのかが、成熟化した国内市場で勝ち抜くカギとなる。
「(9500万人の楽天会員に向け)複合的なサービスを絡めながら、リーズナブルな価格と、快適な接続を実現する」―。楽天の三木谷浩史会長兼社長は第4キャリアとしての戦略をこう説明する。
楽天は電子商取引(EC)サイト「楽天市場」などグループ全体で築いた顧客を中心に、約1500万人の契約獲得を目指している。楽天の持つ巨大な顧客基盤は大きな強みとなる。
さらに楽天はブランド価値の向上にも力を注ぐ。サッカーJリーグで楽天傘下のヴィッセル神戸に、スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手を迎え入れ、全国のサッカーファンを驚かせた。楽天はイニエスタに推定年俸33億円程度を支払うとみられる。こういった巨額投資も楽天ブランド向上の一助となり、顧客獲得を後押しする。
迎え撃つNTTドコモ。「従来は回線契約を中心に顧客基盤を考えていたが、今後は回線契約の有無に関わらずdポイントクラブ会員を軸とした顧客基盤に変革する」―。吉沢和弘社長は18年度の取り組みの柱をこう表現する。
国内携帯電話市場の成熟化で回線契約数は今後大きくは伸びない。だからこそ、各種サービスとの連携で携帯電話以外にも市場が広がるポイント会員を新たな軸に据えた。
自社ポイント「dポイント」の会員数は着実に増えており、17年度の会員数は前年度比425万人増の6560万人。先行するTポイントの利用者数(過去1年間)6634万人に近づいた。ただ、楽天のID数9500万にはまだ届いていない。
このため、吉沢社長は「会員にさらなる価値を提供できる好循環を生み出す」ことを重視する。その施策がdポイント加盟店の拡大だ。利用店舗が増えれば、ポイントをより多く貯められる自社のクレジットカード「dカード」の利用も増え、ポイントで携帯電話料金を支払えるドコモの競争力も強化できる。
ローソン、マクドナルドのほか、4月末にはマツモトキヨシの店舗でも利用可能にするなど20年度までに300社以上の加盟を目指す。加盟店で買った商品の支払いを、スマートフォンに表示したバーコードで決済できる「d払い」も開始。早期に10万店への導入を目指すことで便利さも追求する。
お得感や便利さに加え、“驚き”を顧客に届けるサービスも拡充する。5月末からAIがユーザーの行動や状況を学習して生活エリアや好みに合わせた情報を適切なタイミングでスマホに届ける「マイ・デイズ」を始めた。20年までにサービス数を150件に増やし「1500万ユーザーの利用を目指す」(吉沢社長)。
「つながるライフライン」の重要性
「通信の同心円状にライフデザインサービスを重ねていく」―。4月に就任したKDDIの高橋誠社長はこう力を込める。新リーダーのミッションは
「au経済圏」の拡大だ。
消費者の購買活動は商品の所有に重きを置く「モノ消費」だけではなく、商品やサービスの購入で得られる体験に価値を見いだす「コト消費」への移行が目立つ。これに対応し、KDDIは顧客の体験価値を演出することを「ライフデザイン」として、成長の柱に据える。エネルギーや物販、保険、決済などの非通信事業を顧客に提案し、au経済圏を作り上げる狙いだ。
経済圏の中心にいるのは、auユーザー。高度なビッグデータ(大量データ)分析で、それぞれの顧客に適した非通信商材を提案する狙い。同社は2019年3月期にau経済圏の売上高を7300億円、流通総額は2兆4600億円と、それぞれ18年3月期の1・3倍に伸ばすことが目標だ。
経済圏拡大のカギを握るのは「お客さまにひもづいたIDと、お客さまの財布でもあるauウォレット」(高橋社長)。「ウォレットポイント」はau携帯電話などの利用料金に応じて貯まるもので、携帯料金の支払いに使えるほか、プリペイドカードとしても利用できる。
同カードは、支払時に残高不足の場合、じぶん銀行から自動入金する機能を搭載したほか、同カード利用者間での送金も可能にした。またイベントなどで利用者を優遇する取り組みを進めている。こういった付加価値サービスで顧客基盤を強固にして、経済圏の中でポイントを循環させる考えだ。
ソフトバンク(SB)も2017年6月に月額料金はそのままでヤフーの月額会員サービス「ヤフープレミアム」の特典を使い放題にした。
インターネット通販サイト「ヤフーショッピング」での買い物でもらえるポイント数も10倍にしたことで、SB・ワイモバイルユーザーによるヤフーショッピング購入者数が18年1―3月に前年同期比約3倍の222万に増加。SBとヤフーのID連携数も1200万に達した。
さらに、ネット通販事業のテコ入れに向けイオンとの提携を検討している。ソフトバンクとヤフーが持つ顧客基盤とイオンの幅広い商品力や物流網を組み合わせることで、米ネット通販最大手アマゾン・ドット・コムや楽天に対抗する狙いだ。
携帯各社は非通信事業を強化することで、それぞれの「経済圏」を拡大することに躍起になっている。ただ、ソフトバンクの宮内謙社長は「大震災を経験し、あらためてネットワークがライフラインだと感じた。ビジネスではあるが『確実につながる状態を維持する』ことが我々事業者の使命」と力を込める。
今後は各社が「通信の質」を維持していくことを前提に、非通信事業を含めた付加価値をいかに高められるのかが、成熟化した国内市場で勝ち抜くカギとなる。