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目指せ「熱の達人!」富士電機の半導体工場が排熱利用で10%省エネ

電力は自給自足。データ解析でFEMSも進化中
目指せ「熱の達人!」富士電機の半導体工場が排熱利用で10%省エネ

富士電機製の燃料電池

 あらゆる対策が進み“省エネルギー大国”を自負する日本にも、やり残した省エネがある。それが使われていない熱の利用だ。生産や発電などで発生する排熱は日本の年間電力需要の1兆キロワット時に相当する。使いこなせば大きな省エネ効果が生まれるはずで、電力料金上昇への対抗策になる。未利用の熱の潜在力に気づいた企業が、新たな熱利用を始めた。

 富士山が目の前に見える富士電機山梨製作所(山梨県南アルプス市)内のモニターにエネルギー使用量が映し出されている。電力会社からの電力購入を示す数値はほぼゼロ。所内にあるガスエンジン1基と燃料電池4台で半導体生産に必要な電力を賄っているためだ。2011年の東日本大震災後の計画停電を経験し、ガスエンジンと燃料電池の2種類の自家発電機を導入してエネルギーの自給自足を実現した。

 山梨製作所では新たな挑戦が始まっている。モニターには電力以外に熱量の表示もある。熱の正体はガスエンジンと燃料電池の運転で生じた排熱だ。
 
【ボイラーの燃料に】
 排熱は吸収式冷凍機に送り、冷水製造に使う。冷水は半導体工場のエネルギー消費の多くを占めるクリーンルームの空調用だ。もともと吸収式冷凍機にはボイラーから熱を供給していた。現在は排熱がボイラーの燃料代わりになっている。

 「電力と熱のベストミックスを追求する」。山梨製作所の山田宏一所長はこう意気込む。同製作所はクリーンルームの設備を高効率型に更新し、10年度比30%の省エネ化を達成済み。半導体工場は製造装置を連続稼働させるため、これ以上の電力削減は難しい。

 そこで熱に着目した。ガスエンジン、燃料電池ともコージェネレーション(熱電併給)となっており、電力と温水を生産工程に供給している。さらに排熱も活用しようというのが新たな挑戦だ。冷たい外気も取り込み、冷水製造への活用を始めた。

 電力と熱のベストミックスを追求する切り札が工場エネルギー管理システム(FEMS)だ。FEMSはエネルギー需要を予測し、機器の運転計画を立てる。現在はエネルギー使用のデータを蓄積中だ。データ解析が進むと予測精度が高まり、排熱利用の効果をより引き出せる。排熱、外気、FEMSの相乗効果で15年度は10%省エネを積み増す。エネルギー多消費型の半導体工場にとって10%削減はコスト効果が大きい。

蒸気発生ヒートポンプを発売へ。未利用熱を工程ごとに回収


 富士電機は2日、工場の排熱を回収し、蒸気の発生源として再利用する「蒸気発生ヒートポンプ」を12月に発売すると発表した。温水などから熱を集めてヒートポンプで沸騰させ、蒸気を発生・供給して洗浄や空調などに用いる。価格は個別見積もりで、700万円程度から。食品や自動車などの工場では洗浄などの各工程で温水を使った後、そのまま廃棄している。今回の製品は廃棄する低温水(60―80度C)などの未利用熱を工程ごとに回収し、その場で蒸気をつくり、蒸気を使う現場に供給する仕組み。

 ボイラの蒸気発生量を低減でき、燃料費や二酸化炭素排出量を削減できる。また装置が小さいため、各工程の近傍に設置でき、放熱ロスを抑制できる。最大加熱能力は30キロワット。100―120度Cの蒸気を最大で毎時45キログラム発生できる。最大で10台まで接続して利用でき、大容量のニーズにも対応できる。食品や飲料、自動車、化学関連メーカーに提供する。
                 
日刊工業新聞2015年07月03日電機・電子部品・情報・通信面/07月08日「深層断面」から抜粋
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
排熱利用で10%削減は大きな効果と思います。日本が輸入する燃料は発電や給湯、輸送に使われていますが、半分は排熱となっています。自動車の燃費改善、建物の断熱化も重要ですが、エネルギー自給率向上には排熱の利用が欠かせません。 山梨製作所はスマートファクトリーのモデル工場としてショールーム化されており、見学者も多いそうです。

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