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装着型支援ロボット「ハル」 “医療の次”の野望

「軍事と従来型産業用ロボット以外はすべてがターゲット」(山海サイバーダイン社長)
装着型支援ロボット「ハル」 “医療の次”の野望

山海社長は次世代ロボット市場を切り開いてきた

 医療福祉や重労働現場向けに装着型支援ロボット「ハル」を展開するサイバーダイン。2014年3月に新規上場して以来、商材拡充や、川崎市での国家戦略特区事業、羽田空港へのロボット導入事業など、次々と新たな施策を打ち出してきた。医療向けでは14年11月に米国食品医薬品局(FDA)への申請、15年3月に国内薬事法に基づく申請を実施。16年から本格的に医療ロボとして展開し始める方針だ。山海嘉之最高経営責任者(CEO)に展望を聞いた。

 ―上場以後、順調に収益を拡大させています。

 「ここ1年近く、開発した技術の商品化を着々と進めてきた。例えば昨年投入した作業支援用など腰タイプのハル。今期は既に140台を出荷し、目標の180台を上回る見通しだ。また、搬送用ロボットも提供を始めている。これらはモノづくりの現場でも大いに活用できるはずだ。高齢化が進む中、先端技術で安全な作業環境を作り出すことは、先進諸国の責務と言っていい。さらに今期中には動脈硬化度などを測るバイタルセンサーや、清掃ロボットなども投入していく。この流れだけ見ても、かなり良い数字が期待できる」

 ―ハルについてはFDAや薬事の承認も待たれます。

 「今年中に承認され、来期以降売り上げに寄与する見通しだ。また、ドイツでは公的医療保険への適用を目指し準備を進めており、近く正式に申請する。従来同国では労災保険の枠で供給していたが、医療保険制度に組み込まれればチャンスは一気に広がる」

 ―羽田空港へのロボット導入が決まりました。

 「世界初の試みとして期待している。例えば車いすに乗る人、そして介助する人にとって旅行バッグを運ぶことは大変なこと。搬送ロボットが助けることで全く違う世界が生まれる。重量物の
搬送などで空港内労働者の負担軽減も可能だ。羽田で実績を作ってから、海外の空港などへも展開したい」

【記者の目/モノづくり分野で活躍期待】
 「軍事向けと従来型の産業用ロボット以外はあらゆる分野がターゲット」と山海CEOが公言するように、急速に事業領域を拡大させつつある。14年末には工場自動化(FA)用制御機器大手のオムロンと提携。ハルの販売促進のほか、次世代生産システムの開発でも協業する。物流関連をはじめ製造業でロボットが入り込めていない領域は少なくない。医療福祉に加え、モノづくりの分野でも活躍を期待したい。
 (文=藤崎竜介)
日刊工業新聞2015年07月09日 機械・ロボット・航空機面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
着実に事業を拡大し、2014年に上場して以降も売上高を年率30~50%で成長させる計画を掲げるサイバーダイン。残る課題は早期の赤字解消だ。医療分野はビジネスにするまでに時間がかかる。その間、製造業や物流などの他分野で稼ぐことは必須テーマだろう。加えてどうしても重くなりがちな研究開発投資とビジネスのバランスをどう取るかも課題になりそうだ。

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